簿記講座の講師ブログ

 皆さん、こんにちは!

 簿記講座担当の小野です。

 まだまだ寒い日が続きます。皆さん体調管理には十分気をつけて!

 先日、毎日新聞社が資本金を大幅に減らすと発表しました。現在41億円の資本金を1億円に減らすそうです。取材経費が減らされたとか、本社社屋を売却するといったウワサ(?)も囁かれているようですが、毎日新聞社に何が起こっているのでしょうか?

 ただ、簿記を学習している皆さん方は、資本金の大小と、経営危機・持っている現金の額は関係ないということをすでにご存じのはずです。今回の減資は、体面を捨てて実利を取る戦略なんでしょうね。

多くの方が「資本金が多い会社はたくさんお金を持っていて、安全な企業なんだ!」って誤解されているケースが多いようです。でも、資本金は、過去のお金の集め方であって、今持っているお金ではありません。

 会社を始めるときや事業を拡大させるときに、会社はお金を集めなければなりません。いろんな集め方がありますが、株式を発行してお金を集めたら、それを「資本金」としてカウントします。つまり、資本金って、「これまで株主から集めたお金の総額がこれくらいですよ」ってことを表す金額。それとは別に、手元のお金は「現金」としてカウントします。だから、会社を始めた瞬間は、当然「現金」=「資本金」です。

 毎日新聞の場合、最初に41億円を株主から集めた=「資本金」41億円、その時「現金」も41億円あったのでしょう。でも、例えば、そのうち20億円で新聞を刷る機械を買ったら、手元にあるのは「現金21億円」「機械20億円」となります。つまり、「資本金41億円」でも、「現金」は21億円しかないというわけです。逆に会社が大儲けしても「資本金」は増えませんが、手元の「現金」は増えます。

では、資本金を減らすってどういうことでしょう?

 実は会社の財産的な実態は何も変わらず、「資本金」という名前(勘定)を資本準備金って名前(勘定)に変えるだけです。帳簿上の操作なんですね。

 では、なぜ、そんな形式的なことをするのでしょう?

 おそらく、税制での優遇を受けるためでしょう。

税法では資本金1億円以下の会社を中小企業と呼んでいて、優遇されます。

まずは法人税の優遇です。会社の所得には税率23.2%の法人税がかかりますが、中小企業なら所得800万円まで15%しか課税されません。ただ、毎日新聞は赤字が続いていて法人税をあまり払っていないと思われるので、この優遇はあまり意味ないかもしれません。

 おそらく、法人事業税の優遇を狙っていると思われます。法人事業税は、資本金1億円以下だったら所得の7%課税されますが、資本金1億円を超えると、所得だけでなく、給与と支払家賃の合計額、資本金にも課税されてしまいます。つまり、赤字企業でも、資本金が多いだけで課税される(外形標準課税)。給与・支払家賃の金額に応じて税金を払わなければならないのです。

外形標準課税は、給料や家賃をたくさん払っているんだったら、少し暗い税金払う余裕はあるでしょ?ってことで、バブル崩壊後、多くの大企業が赤字続きで納税していない時期に創設されました。でも資本金1億円以下の中小企業だったら、あんまり余裕はないだろうから、赤字だったら税金払わなくていいってことです。

「税制の優遇を受けるために資本金を減らすという帳簿上の操作を行う」というと、何だかなぁって感じもしますが、これまでもスカイマーク(90億円→1億円)、ドワンゴ(105億円→1億円)、吉本興業(125億円→1億円)、浅草花やしき(4億円→1億円)など、いろんな企業がかなりあった「資本金」を1億円に減らしています。

 シャープもホンハイ買収される前に減らそうとしましたね。批判されたから減らしませんでした。それが原因かどうか分かりませんが、どうしようもなくなって買収されてしまいました。こういった状況も考えると、企業は納税するという社会貢献もしなきゃいけないけど、使えるルールは使ってもいいような気もします。

 難しい選択なんだと思いますが、生き残ることも必要です。だったら、使えるルールは適切に使うという考え方もありかもしれませんね。