実務家密着取材

直撃インタビュー
ファイナンシャルプランナー 江尻正幸さん

ファイナンシャルプランナー

江尻正幸さん

DNAを受け継ぎ、マネー教育を提唱
20代をターゲットにした「売らないFP」

1987年 富山県で誕生
2010年 AFPに合格
明治大学政治経済学部卒業
東京都に本店を構える地方銀行に入行
2011年 退職し、FP事務所FE&S設立
CFP®に全課目一括合格

学生や社会人向けのセミナーを積極的に開催する江尻さんは、80年代生まれの独立系ファイナンシャルプランナー。明治大学政治経済学部を卒業後、就職不況の真っ只中、関東を地盤とする地方銀行に入行。主に融資業務に従事し、融資稟議起案、不動産担保評価、取引先企業の財務分析と格付け、住宅ローン及び各種借り入れ相談業務を担当。独立開業した現在、「金融商品を一切販売しないFP」として東京を拠点に活動しています。

「保険も投資信託も売らないFP」になりたかった

1987年生まれのFPというと、25歳(2013年1月現在)。高校時代からファイナンシャルプランナーを目指していた江尻さんは、生まれ故郷の富山から上京し明治大学政治経済学部に入学。ゼミではマクロ経済について専攻し、在学中にAFPを取得。就職先に選んだのは、銀行でした。

「日本に金融機関はたくさんありますが、その中で最も幅広い業務を展開しているのが、銀行です。預金や融資はもちろん、保険や投資信託なども取り扱い、金融のトータルサービスを提供している機関だと思ったので、新卒で入行しました。」

しかし、現実はえてして理想と大きく異なるもの。融資で利益をあげることが難しい状況において、保険や投資信託の販売を通して、手数料を手堅く得る銀行が増えています。江尻さんは、そんな銀行の在り方、体質に嫌気がさしていったといいます。

「もともと、『お客様を通じて、社会の役に立ちたい』と思って入行しました。しかし、お客様の役に立つのかどうか分からない金融商品を販売する現実を目の当たりにし、現状に対する迷いと疑問が自分の中で大きくなっていきました。私がやりたいのは、お客様の役に立つ、お金に関するアドバイスを提供すること。所属している銀行という大きな組織と自分との間に、ギャップを感じました。そして、将来を真剣に考えたとき、『ここは私の居場所じゃない』と思い、キッパリ退職しました」

大学から社会に飛び込んで感じる違和感。それはきっと誰にでもあるもの。しかし、その違和感を打ち消し、自らを環境に馴染ませ、社会に『適応』し、日常として溶け込んでいく…。大多数の人が否定せず選ぶであろう、安定した道。江尻さんは、それとは対極にある方向を選びました。

「保険や投資信託といった金融商品を売らずに、若い人たちが求めるお金の知識を提供する。同世代の学生や社会人に対し、綺麗ごとだけではなく、現実的なお金の知識を伝えていきたい。そう思い、FPとしての独立を決意しました」


ロールモデルを発見し、FPとしての独立に加速

就職氷河期に入行した銀行をわずか1年超で退職した江尻さん。『若気のいたり』で、何の勝算もなく辞めたわけではありませんでした。

「実は、退職ギリギリまで、CFP®の勉強と行員としての実務をやっていました。つまり、独立のため準備し、万全の態勢を整えた上で辞めたというわけでは決してありません。でも、当面の間、あくせくしなくてもいいように貯蓄していましたし、運用面も順調でした。だからこそ、『売らないFP』のスタンスを維持できたのかもしれません」

実は、江尻さんには行員になる前の学生時代から憧れていた存在がいました。以前、フォーサイトの実務家インタビューでも取り上げているFP、スキラージャパン株式会社の伊藤亮太さん。江尻さんが銀行を退職する前年の暮れに勉強会で出会ったといいます。

「学生時代から伊藤さんのブログをチェックしていたのですが、本当に雲の上の存在で…。実際にお会いして、若くても『売らないFP』を貫いている方のお話をうかがい、自分にとっては、ものすごく励みになりましたね」

江尻さんが勉強会で出会った伊藤さんも、20代で独立開業した若手FP。伊藤さんからたくさんアドバイスを得ます。そして、CFP®を全課目一括合格した江尻さんは、2011年に独立開業を果たしました。


DNAに由来するマネー知識の提供スタンス

現在、大学や専門機関、一般企業などでの講師業をメインに展開している江尻さん。学生や20代の社会人向けにマネーセミナーを行い、お金に関する知識、情報をかみ砕いて説明しているそうです。

「就職活動している方に向けた日経新聞や会社四季報の読み方講座を通して、ライフプランや経済の基礎知識をお伝えすることをはじめ、20代向け社会人へのマネーセミナー、資産運用の初歩、FP試験対策講座まで、幅広く行っています。」

父親は銀行員、そして親族の多くが教員という江尻さん。ローンや保険など、お金に関する話は日常的で、金融教育の重要性に早くから注目していたのだとか。高校時代からFPの道を目指し、たゆまぬ努力をしていたからこそ、現在のビジネスも軌道に乗っているのかもしれません。


豊かにより良く生きるために、多くの選択肢を

幸福度や豊かさの尺度は人それぞれ。自分が「どのように思うか」が大事で、決して他人によって、はかられるものではありません。それでは、江尻さんが考える豊かさ、大事なものは何でしょう? その質問に対し、こう答えました。

「人生には多くの選択肢がありますが、それらをどれだけ自由に選べるかが重要です。皆さん、それぞれ漠然とした不安を抱えながら生きていると思います。しかし、その不安の原因を見極め、必要な対策をとるならば、その後の人生の歩み方は変わります。また、知識がなければ、足元をみられて不要な金融商品を勧められるなど、思わぬところに転がり落ちてしまうこともあります。私は同年代を生きる皆さんのお金に関する不安や知識不足を解消し、本当に歩みたい人生を選択できるお手伝いがしたい。そう思っています」



ファイナンシャルプランナー   江尻正幸 さんの、ある1日


ある日のスケジュール
1987年 富山県で誕生
2010年 AFPに合格
明治大学政治経済学部卒業
東京都に本店を構える地方銀行に入行
2011年 退職し、FP事務所FE&S設立
CFP®に全課目一括合格