行政書士講座の講師ブログ

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の判例

皆さん、こんにちは!
フォーサイト専任講師・行政書士の福澤繁樹です。

今回は、判例紹介です。
令和3年度行政書士試験の問54の肢1において、ジェンダーやセクシュアリティに関する知識が出題されていますので、この点についての判例をご紹介します。

まず、前提として、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」というものがあります(平成15年7月16日法律第111号)。
この法律は、大まかにいうと、性同一性障害者が、当該法律で定める要件を満たすときには、家庭裁判所に対して性別の取扱いの変更の審判を請求することができ、その許可により、戸籍上の性別の変更が認められるというものです。

その要件とは、以下のとおりです。
<性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律 第3条>
1 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
一 二十歳以上であること。
二 現に婚姻をしていないこと。
三 現に未成年の子がいないこと。
四 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
2 前項の請求をするには、同項の性同一性障害者に係る前条の診断の結果並びに治療の経過及び結果その他の厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断書を提出しなければならない。

そして、上記の要件に「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。」が求められており(3条1項4号)、このことが当該請求をする場合には、手術という身体的ダメージが必須となる点が、憲法13条及び14条に反するのではないかという点が問題となり、裁判となりました。

判例は、この点について、以下のように述べています(最決平31.1.23)。
「性同一性障害者につき性別の取扱いの変更の審判が認められるための要件として「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」を求める性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号の規定(以下「本件規定」という。)の下では、性同一性障害者が当該審判を受けることを望む場合には一般的には生殖腺除去手術を受けていなければならないこととなる。本件規定は、性同一性障害者一般に対して上記手術を受けること自体を強制するものではないが、性同一性障害者によっては、上記手術まで望まないのに当該審判を受けるためやむなく上記手術を受けることもあり得るところであって、その意思に反して身体への侵襲を受けない自由を制約する面もあることは否定できない。もっとも、本件規定は、当該審判を受けた者について変更前の性別の生殖機能により子が生まれることがあれば、親子関係等に関わる問題が生じ、社会に混乱を生じさせかねないことや、長きにわたって生物学的な性別に基づき男女の区別がされてきた中で急激な形での変化を避ける等の配慮に基づくものと解される。これらの配慮の必要性、方法の相当性等は、性自認に従った性別の取扱いや家族制度の理解に関する社会的状況の変化等に応じて変わり得るものであり、このような規定の憲法適合性については不断の検討を要するものというべきであるが、本件規定の目的、上記の制約の態様、現在の社会的状況等を総合的に較量すると、本件規定は、現時点では、憲法13条、14条1項に違反するものとはいえない。」

つまり、確かに身体的なダメージを伴うけれども、現時点では憲法違反ではないとし、その上で、さらに不断の検討を要するとしています。

以上、判例をご紹介しました。一般知識対策として、お役立ていただければと思います。

今回は、このへんで。