簿記講座の講師ブログ

特養の内部留保

 皆さん、こんにちは。

 特別養護老人ホームが内部留保を溜め込んでいると批判が高まっています。厚生労働省によると、一施設当たり平均3億円の内部留保があり、調査対象全体では2兆円に達するそうです。
 この種の情報が報道機関の手に渡ると次の展開は決まっています。

「特別養護老人ホームなど公益性の高い組織は利益をため込むべきではなく、利用者に還元すべきだ!」 

予想どおり「福祉サービスの充実のために使うべきだ」、「職員の待遇改善のために使い、離職率を引き下げ、サービス水準を高めるべきだ」といった専門家の意見を引用しながら、「特養はけしからん」的な結論に至ります。

 簿記の勉強をしていたら、もうアホらしくて聞いてられません。上記の意見は「稼いだ利益が現金として存在すること」が前提となっているからです。でも、稼いだ利益を現金のまま持っているとは限りませんよね。利益を次の施設建設に投入する=利益が建物という形で保有されていることもあり得るわけです。すでに利益が建物に変わっている場合、職員への給料上乗せのためには使えません。

 この手の話はよく出てきますね。リーマンショック後に派遣切りが問題になったときは、時の金融担当大臣が「企業は内部留保を使って従業員の雇用を守るべきだ」なんて話が出ましたけど、財務諸表のしくみが分からないまま発言しているとしか言えません。

 私と同じ突っ込みをする人はすでにいます。すると、その突っ込みに対して、「特養の純資産額(自己資本)が総資産の8割を占めるのは過剰だから、やはり還元すべきだ」と反論されます。論点がすり替えられていて、もうめちゃめちゃです。純資産が総資産の8割を占めるということは、総資産のうち8割を自己資金で賄っていて、2割が借金で賄われているということです。すばらしい健全経営ではないですか。特養などがすぐに倒産するのは望ましくありません。そうであれば、借金が少ないこと=総資産に対する純資産の割合が高いことはとても望ましいことですよね。

 簿記・会計に関するデータを使った話では以上のようなめちゃめちゃな話がまかり通っています。よく知らない分野でも同じような状態なのでしょうか? もしそうなら、世の中結構めちゃめちゃなんですかね?