旅行業務取扱管理者講座の講師ブログ

JR運賃料金 ここに注意!(2)

今回は、運賃計算の特例の中から、最も出題頻度が高く、かつ、(恐らく)最もわかりにくい「特定都区市内発着の特例」を取り上げます。今回もQ&A形式にしました。

Q2.「特定都区市内発着の特例」が適用されるときは、中心駅発着で営業キロが201キロ以上ということは理解できたのですが、市内駅と中心駅の間のキロ数の取り扱いがなかなか理解できません。

A2.行程の中で、市内駅がどこに位置するかで、キロの扱いの判断に迷うことがあります。場合によっては、特例が適用できそうでできないこともあります。いくつか具体例を見てみましょう。

以下の例で、名古屋市内の中心駅は名古屋駅です。千種駅は名古屋市内の駅で、実際に乗車する駅は千種駅です。また、X駅とY駅は市内駅ではありません。

【行程①】 (名古屋駅―――――)千種駅―――――X駅
※名古屋駅-千種駅間はJRを利用しない
a.名古屋駅からX駅まで、営業キロで201キロ以上…名古屋駅発着でキロ計算する
 ・名古屋駅-千種駅間はキロ計算に含める
 ・千種駅-X駅間が200キロ以下の場合であっても、名古屋駅発着で計算する
b.名古屋駅からX駅まで、営業キロで200キロ以下…千種駅発着でキロ計算する(通常の計算)
 ・名古屋駅-千種駅間はキロ計算に含めない

【行程②】 千種駅―――――名古屋駅―――――Y駅
※千種駅-名古屋駅間はJRを利用する
a.名古屋駅からY駅まで、営業キロで201キロ以上…名古屋駅発着でキロ計算する
 ・千種駅-名古屋駅間はキロ計算に含めない
b.名古屋駅からY駅まで、営業キロで200キロ以下…千種駅発着でキロ計算する(通常の計算)
 ・千種駅-X駅間が201キロ以上の場合であっても、名古屋駅発着とはせず、千種駅発着でキロ計算する(通常の計算)

以上のように、まずは「中心駅発着で営業キロが何キロあるか」を確認します。200キロを超える(201キロ以上)であれば、実際にどの市内駅で乗り降りしようと、その駅は無視し、中心駅発着でキロ計算を行います(「強引」に割り切ることです)。有効期間の算出や、割引条件の適用についても、中心駅発着の営業キロで判断します。

また、地方交通線が含まれるときに、中心駅発着のキロ数を確認するときは、うっかり運賃計算キロや換算キロを用いないでください。

総合試験では、行程②のパターンで、キロ計算をしてみると中心駅発着で営業キロが200キロ以下になってしまう問題も出されることがあります。その時は、通常の基本的なキロ計算をすれば良いのですが、これは敢えて意図的に錯覚を起こさせる狙いなので、慎重に、冷静に行程を読み取ってください。

以下、蛇足です。

そもそも、何のためにこんな分かりにくい特例があるのでしょう? まるで試験のために作られたようなややこしい規則ですね。しかし、これには国鉄時代からの歴史的な理由があり、その狙いは「運賃計算を簡単にする」ためにあるのです。目的は、真逆なのです。

今のようにマルス(MARS)と呼ばれるコンピューターシステムの草創期は機能が限られ、区間によっては乗車券類を手書きで発行していました(補充券といいます)。運賃早見表にない区間は、キロ計算をして運賃を算出しなければなりません。今の皆さんと同じ苦労を、当時の駅員さんはソロバン弾きながらやっていたわけです。

とりわけ、東京、大阪や名古屋など、大都市圏は駅も路線数も多く、旅客の乗車ルートは千差万別になります。新宿駅〜東京駅間でも何通りもあり、それぞれでキロ数も違っています。これではソロバンを弾く駅員さんの手間が大変です。そこで、「大都市の駅は全部中心駅と同じ駅」と、大胆かつ強引な決めごとをしたのです。たとえば、東京23区には77のJR駅がありますが、これをすべて一つにして「東京駅」に集約しました。いわば「大東京駅」でしょうか。これにより、23区のどの駅で乗車(下車)しても東京駅発着で運賃計算をすればよく、発券業務が劇的に簡素化されます。

特定都区市内に定められている都市は、すべて政令指定都市=いわゆる大都市で、全国で11都市があります。しかし政令指定都市でも、さいたま、千葉、新潟、静岡、岡山、熊本などにはこの特例が設定されていません。これらの都市は、いずれも1992年以降に政令指定された新しい都市で、その頃にはマルスも高機能になり、もはや駅員さんはソロバンを弾かなくてよくなったのです。そのため、この特例も不要となりました。

11都市の特例は、古き時代の名残ということですね。JR旅客営業規則には、けっこう旧国鉄時代の規則がそのまま生きているものがあり、ジュラシックパークを見る思いがします。