旅行業務取扱管理者講座の講師ブログ

期間・日数の数え方-③ 「誕生日の前日に歳をとる!?」

総合管理者試験では旅券法が出題されます。旅券(パスポート)を申請する場合、申請日時点で満18歳未満の者(未成年者)には、有効期間が5年のものしか発行されません。ただし成年者には、基本的に10年(希望により5年)のものが発行されます。

では、次の記述は正しいでしょうか? 誤りでしょうか?

「旅券の発給申請をするに当たり、申請者が18回目の誕生日の前日に当該申請に係る書類及び写真を提出するときは、当該申請者は有効期間が10年の旅券を申請することができる(H27年度総合試験問題)」

つまり6月1日が18歳の誕生日である人が、5月31日に旅券申請を行うような場合です。この問題のポイントは、「誕生日の前日は未成年か成年か」ということです。我々の日常的感覚では、誕生日に歳を1つ取るのが常識です。だから、この記述は誤りのようですね。

しかし、答えは、「正しい」です。法律上は、なんと、誕生日の前日に歳を1つ取ることになっているのです。よって、18回目の誕生日の前日に旅券の申請をする場合は「成年者」となり、10年用の旅券を申請することができます。これ、どう考えても変な話ですよね。でも法律ではこうなっているのです。

このような一般常識からかけ離れた定めは、明治時代に定められた「年齢計算ニ関スル法律」がその根拠となっています。わずか3項だけのきわめて短い法律ですが、その第1項には、「年齢ハ出生ノ日ヨリ之ヲ起算ス」とあります。誕生したその日から年齢を数え始める、初日参入の数え方ですね。
そのため、4月1日生まれの場合、1年後の日(満0歳の満了日)は3月31日となります。この日の満了をもって1歳加齢されます。

ところで、3月31日という日は午後12時をもって満了しますが、3月31日午後12時とは、4月1日の午前0時と同じなので、やっぱり誕生日になったら歳を取ることでいいじゃないかと思えます。しかし、期間の満了となる3月31日午後12時は、3月31日という日付に属すると法律では考えるので、話がややこしくなってきます。

また、3月31日の午後12時にならないと歳を取らないかというとそうではなくて、3月31日になったら(3月31日午前0時になったら)歳を取ってしまうのです。これは、「時間」ではなく「日」を基本として数えるとこうなってしまうのですが、では一体全体なぜ? 

ここまでで十分ややこしそうな話なのですが、これから先は更に複雑怪奇な話となり、説明するほうでも頭が痛くなりますので、ナゾを残してこの辺でやめておきましょう。より詳しくお知りになりたい方は、「年齢計算ニ関スル法律」や「年齢の計算方法」でググってみてください。本当に法律とは摩訶不思議なものと実感できます。

この「誕生日の前日に歳を取る」ことに関して、4月1日生まれの子(3月31日に歳をとる)は前年の学年度に属することになるため、「早生まれ」として1学年早く小学校に入学することはよく知られています。類似の規定では、選挙の投票日の翌日に18歳の誕生日を迎える人でも選挙権があるという話はお聞きになったことがあるでしょう。社会保険制度においても同じように計算されます。

あまりにも日常感覚とかけ離れた規定のため、国会でも「おかしいんじゃないか」との質問趣意書が提出されたことがあります(時の内閣は「おかしくない!」と答弁)。

・・・と、長々つまらないことを書きましたが、総合管理者試験対策としては、何もこんなややこしい法律を理解する必要はありません。最初に書いた旅券申請に関する問題では、「未成年者が成人するのは誕生日の前日」と覚えておけば十分です。
でもお誕生祝いは、ちゃんと誕生日にやりましょうね!

〈補足〉
国際航空運送約款で、幼児の定義を、『「幼児」とは、運送開始日時点で2才の誕生日を迎えていない人をいいます。』と定めています。これは、実際の誕生日を基準としていますので、日常的な普通の年齢の数え方をします(2歳の誕生日前日までが2歳未満、誕生日を迎えると満2歳)。