今年の試験も一段落し、気がつきましたら秋も半ばです。
これからは紅葉も一段と深まり、絶好の旅行シーズンを迎えるときです。
しかしここまで、今年は日本だけでなく、
世界の観光地が一度もにぎわいを見せることなく来ています。
コロナの猛威は我々の想像以上の惨禍をもたらしています。
我々の日常も大きく変わりました。
国は、「新しい生活様式」の実践を唱えていますが、
なかなか意識を変え切れていないのは私だけでしょうか。
旅行の姿も大きく変わりました。
というより、一時は旅そのものが滅び去るのではないかとさえ危惧しました。
しかし、いったん規制が緩和されると、
多くの人々が待ちかねたように外へ出かけはじめています。
旅行にせよ、スポーツやイベントにせよ、
人々は「非日常なるもの」に強い憧れを抱いているのだと、改めて感じました。
9月の連休には、各地の観光地、観光施設がにぎわいを見せました。
これには、go to travelキャンペーンが大きく後押しをしていることは事実ですが、
私が頼もしく感ずるのは、旅行・観光業界の逞しき取り組みです。
当初は前途がまったく見えず、
絶望もあったでしょうが、彼らは困難から立ち上がりつつあります。
これまでにない新しい取り組みが、さまざまな関連業界で芽生え始めています。
その一例を挙げると、ある貸切バス業者では、
貸切バスが眠る車庫の見学ツアーを実施しました。
いわゆるバックステージツアーですが、マニアならずとも、
さまざまな車種がずらりと並ぶ姿は少年少女の心をくすぐりますね。
また、別な大手業者では、広大な営業所の敷地にバスを縦横に並べ、
長さ数百メートルもの巨大迷路を作り上げ、家族連れが多く訪れました。
宿泊機関でも、地域おこしを中心に新たな試みが続々と実行されています。
都道府県境を越える移動が自粛された頃、近隣の人々を旅館に呼び込むために、
改めて自らの特徴とコンセプトを問い直すことがきっかけとなったのです。
3密を逆手にとり、大型露天風呂の貸切り、
テレワークや休校期間の長期貸し出しプラン、老舗旅館の会席料理の出前などなど。
かつて文豪が愛した旅館では、「文豪缶詰めプラン」と称して、
宿泊客が文豪になったつもりで部屋に缶詰めされ、編集者役がチェックを入れ、
更には「逃亡」まで監視するというユニークな企画がヒットしました。
「ワーケーション」なる新語も生まれています。
もちろん、これらが貸切バス業や旅館業の本来の姿とは言えないでしょう。
しかし、苦境を逆手にとった、この健かさには脱帽いたします。
この取り組みの真価が問われるのは、go to travelキャンペーンが終了した後でしょう。
その頃か、あるいはもっと後になるのかも知れませんが、旅行・観光業界も、
また旅行者自身も、「新しい旅の様式」に馴染んで行かざるを得ません。
日本独特の「おもてなし」も変わってくるでしょう。
「どこかに行きたい」という渇望は、想像以上に強いものです。
旅のかたちは変わっても、旅への憧憬は変わりません。
これからも暗中模索は続くでしょうが、人々の思いは、
きっと新しい旅を創造していくでしょう。そうであることを願って止みません。