旅行業務取扱管理者講座の講師ブログ

世界遺産(3) ヤバい世界遺産

●世界遺産の登録後は?
世界遺産に登録されたからといって、その栄誉が永遠に続くものではありません。
登録物件の管理保全は、基本的には登録国が責任を負わなければなりません。
よほどの場合は、世界遺産委員会が補助を行うことがありますが、これは稀のことです。

世界遺産を保有することになった国は、自国の努力により、
その遺産を保護し、修復する義務があります。
また世界遺産を持つ国はもちろん、持たない締約国であっても、
国際的な援助と教育活動の強化が義務付けられています。
登録後は、保全状況について定期的に調査が行われます。
保全調査の結果、その遺跡が重大な危機にさらされていると判断された場合には、
危機にさらされている世界遺産(危機遺産)リスト」に記載されます。
また、環境の変化や天災、戦乱等によって遺産の持つ価値が失われたと
確認された場合には、世界遺産リストから除外される可能性もあります。
遺産の保護・管理が不十分又はずさんであると認められた場合も同様です。

開発途上国ではこの義務が負担となって、
あえて登録申請を行わないこともあるようです。
世界遺産を持つことも、しんどいものですね。

●危機にさらされている世界遺産
危機遺産は、その物件特有の材質、構造上の理由による崩壊の危機、
自然要因による絶滅あるいは荒廃の危機、又は市街化や戦争等の人為的な
危機に直面している物件であり、2019年の登録時点では合計53か所を数えています。
アフリカ諸国、中東諸国などの貧困国や政情不安な国が多く、
特に内乱の続くシリアでは6件、
コンゴ民主共和国とリビアでは5件もの危機遺産を抱えています。
また、米国や英国、オーストリアなどの先進国にも存在します。
幸い、わが国には、危機遺産に該当する物件はありません。
【主な危機遺産】
・エルサレムの旧市街とその城壁群(ヨルダンによる申請)
理由:周辺情勢の不安定さ
・バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺物群(アフガニスタン)
理由:タリバンによる石像爆破
・エバーグレーズ国立公園(アメリカ)
理由:水生生物の生態系の悪化
・海商都市リヴァプール(イギリス)
理由:再開発計画への懸念
・ウイーン歴史地区(オーストリア)
理由:都市開発によって景観が損なわれるおそれ
…などなど、さまざまな事情がうかがわれます。
状況が変わらなければ、登録が抹消される可能性もあります。

●取り消された世界遺産
せっかく世界遺産に登録された物件でも、その後の価値の見直しにより、
登録から除外されたものがあります。2019年現在、
以下の2件の登録が抹消されています。
・アラビアオリックスの保護区(オマーン・2007年登録抹消)
理由:地下資源開発優先のため保護区を大幅に削減したことによる
・ドレスデン・エルベ渓谷(ドイツ・2009年登録抹消)
理由:架橋計画により景観が損なわれたため
大国ドイツでもこのようなことが起きるのですね。

次回は、未来の世界遺産と世界遺産の仲間たちについてお話します。