第150回日商簿記検定試験 講評
2018/11/19
平成30年11月18日(日)に実施されました、第150回日商簿記検定試験の講評を公開させていただきます。
3級講評
全体
いくつかの問題で、初めての言い回しになっている部分がありましたが、多くの配点を占める第3問・第5問についてはオーソドックスな取引がほとんどであり、過去問中心に勉強してきた方にとっては比較的取り組みやすい問題であったと思います。
第1問
1.(土地の購入)、3.(現金過不足の処理)、5.(税金の処理)はテキストレベルの初歩的な取引だったと思います。
2.も内容的にはテキストレベルの処理だとは思いますが、問題文の書き方がちょっと特徴的だったので、迷われた方がいらっしゃるかもしれません。
ただ、「仕入」勘定の残高を「損益」勘定に振り替えなさいという、これまでも高い頻度で出題されている損益振替取引なので正答したいところです。
一方、4.についての資本的支出については久々の出題でした。
したがって、12~16点程度をとりたいところですね。
第2問
記入すべき帳簿を解答する問題です。各日の仕訳ができれば記録すべき勘定が分かりますから、記入すべき帳簿も分かるはずです。取引自体はテキストレベルの初歩的な取引でしたので、
① 仕訳をして、
② 勘定を確認して、
③ 記入する帳簿を行う
という手順で解答を進めれば、正答できたと思います。
一方、過去問とは異なり、一連の取引を集計させて、売上高、売掛金(箱根商店)の残高を計算させる問題もセットになっていました。すべての取引の仕訳が正しくできなければ、売上・売掛金の残高を正しく解答できませんので、少し難しかったかもしれません。
売上・売掛金のどちらか一方が正解できていればよしとして、8点程度欲しいところですね。
第3問
とてもベーシックな取引だけで構成された試算表作成の問題です。重複する取引が含まれたパターンの試算表作成問題ですが、重複する取引が問題文に明示されているという、とても親切な問題でした(過去問では、重複する取引が問題文に明示されたことはほとんどありませんでしたが、第147回試験で重複問題が明示されました)。
並べられた取引はとても基本的な取引だけであり、24点程度は欲しいところです。
第4問
取引を“分割する方法”で記入されているか、“擬制する方法”で記入されているかの見極めがポイントです。
(1)では出金伝票の科目が「買掛金」ですから“擬制する方法”での記入ですね。
(2)では問題文より現金取引部分を出金伝票に記入する方法をとるように指示がありますので、“分割する方法”での記入ですね。(2)は問題文の言い回しがちょっと難しかったかもしれません。
(1)で4点+(2)2点程度欲しいところです。
第5問
全体としてはとてもオーソドックスな精算表で、貸倒引当金、売上原価、減価償却、見越・繰延×2つについては、毎回出題される典型的な問題でしたので確実に得点したいところです。
また、仕入返品、小口現金、土地の売却についても、テキストレベルの問題でしたので、正答したいところです。それに対して、保険を解約し、保険料を解約してもらったという4.の問題ははじめて形での出題ですし、何が行われたのかということ自体を読み取ることが難しい問題だったと思います。
4.については解答できなかったかもしれません。でも4.以外は、過去問で見たことのあるような事項でしたので、24点程度は欲しいところです。
日頃、過去問中心に練習している方にとってみれば、上記であげた得点(74~78点)は十分可能なラインでしょう。合格率も前回と同じくらい(40~50%くらい)になるものと予想されます。合格発表が楽しみですね。
2級講評
全体
いくつかの問題で初めての言い回しの問題が出題されたり、久しぶりに出題される問題があったりされたものの、全体としてはそれほど突拍子もない出題はなく、出題頻度が高い問題でまとめられた手堅い試験だったと思います。全体的な難易度はとても標準的でしたので、平均的な合格率が期待できるでしょう。
第1問
1.はサービス業の売上の処理に関する問題であり、新試験範囲から始めての出題だったと思います。過去の出題がほとんどないため、事前の練習も少なかったと思いますが、テキストどおり仕訳できたでしょうか?
3.吸収合併の問題ですが、問題文が「他社を吸収合併した」ではなく、「他社から事業を譲り受けた」となっていました。譲り受けたという表現であっても、2つの会社が1つの会社になるという点では同じなので、吸収合併の処理がきちんとできたかどうかがポイントです。
5.はかなり上級編の問題です。「資本準備金」と「利益準備金」を取り崩して(減らして)、それで赤字:繰越利益剰余金のマイナス(借方残高)を穴埋めしなさいという問題ですが、そのことを読み取ることが難しかったと思います。
さらに、取崩額よりも赤字の方が多いので、差額分だけ余りが出るのですが、それを「その他資本剰余金」にするという処理は解答できなくてもいいくらい難しい問題です。
一方、2.および4.については、テキストレベルの易しい問題であり、取りこぼすときつい問題です。
以上より、2.4.は確実にゲット、残りの問題のうち1つあるいは2つに解答できたとして12~16点欲しいところです。
第2問
固定資産に関する一連の取引が出題されました。
第2問としては、過去、最も多く出題されている論点であり、比較的解答しやすかったのではないでしょうか。固定資産に関わる論点である、取得、減価償却、資本的支出・収益的支出、圧縮記帳、リース会計と内容は盛りだくさんですが、1つ1つの処理はとても基本的なものです。取引の仕訳、勘定記入を求めた問1には完答したいところです。
一方、問2(税効果会計)、問3(連結)は新試験範囲の中でもかなり難しい部分の出題です。
問2(税効果会計)は会計と税務で扱われる金額の差額に税率を掛けた数字で繰延税金資産(前払税金)を計上する仕訳が求められているだけですから、できれば解答したいところです。
でも問3は連結の中でも未実現利益の消去など、連結の中でも難しい部分ですから、得点することにはこだわらなくてもいいと思います。
以上より、問1を完答、できれば問2にも正答するということで14~16点程度欲しいですね。
第3問
“THE 典型”といっていいくらい典型的な問題でした。第2問で税効果会計、連結会計の出題があったので、第3問は典型的な問題にしたのでしょう。第2問の税効果・連結の解答を後回しにして、第3問から解答した場合には落ち着いて解くことができ、得点を拾っていけたのではないかと思います。16点程度は欲しいところですね。
第4問
工業簿記も“THE 典型”といってもいいような出題だったと思います。
個別原価計算の仕訳を答えさせる問題です。材料副費、予定賃率での労務費の計算がありますが、いずれも問題集に複数の問題が収録されている論点であり、16点は欲しいところです。
第5問
第4問と同様、こちらも典型的な直接原価計算(損益分岐点分析)の問題でした。問1(変動費率の計算)、問2(損益分岐点売上高)、問3(目標利益を達成するための売上高)は超鉄板の問題であり、取りこぼしは許されないでしょう。
問4は過去のデータにもとづいて将来の予測をさせる問題です。単に、過去のデータを当てはめればよいだけですが、それほど出題実績が多くないところなので、迷われた方もいらっしゃるかもしれません。
また問5は、高低点法で変動費率と固定費を求める久々の出題でした。テキストの計算式どおりで計算すれば特に難しくない問題ですが、とにかく久々の出題で問題集での練習が少なく、迷われた方もいらっしゃるかもしれません。
その点を考慮すると問1~3を確実にゲット、問4・5のいずれかで得点ということで16点ほど欲しいところです。
上記の目安によれば、74~80点程度の得点ができたはずです。初めての言い回しや久々の出題がちょこちょこ入っていましたが、全体的には平均的なレベルの問題であり、平均的な合格率に落ち着くでしょう。