紛争解決は裁判内だけではない!ADR(裁判外紛争解決手続き)とは?
更新日:2021年3月9日
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法律上のトラブルが生じた場合の解決策として、弁護士や裁判官と共に行う「裁判」を思い浮かべる人が多いかと思いますが、裁判によらない方法でも解決できる場合があります。
裁判によらない解決方法がADR(裁判外紛争解決手続き)です。
ADR(裁判外紛争解決手続き)とは?
「ADR(裁判外紛争解決手続き)」とは、「Alternative(代替的)」「Dispute(紛争)」「Resolution(解決)」の頭文字をとった用語であり、裁判によることなく、法的なトラブルを解決する方法、手段等を総称する言葉です。
ADRの特徴として下記の点が挙げられます。
- 手続的に簡便であり、臨機応変な処理が可能である
- 短期間で紛争解決が可能である
- 話し合いが主な手続きであるため、当事者の意思が尊重され、自律的解決を実現できる
- 中立な立場の専門家の仲介により法的妥当性を確保できる
- 手続きが非公開のため、プライバシーを保護できる
- 経済的である
そのため、「裁判だとなんとなくハードルが高い」、「裁判はお金も時間もかかるけれど、泣き寝入りはしたくない」といった場合等に活用できる制度といえます。
ADRには、主に「あっせん」、「調停」、「仲裁」といった種類があります。以下、それぞれの用語について解説していきます。
あっせん
「あっせん」とは、あっせん人という第三者が当事者の間に入り、当事者の話し合いを促しつつ、原則的に当事者間での解決を目指す制度です。例外的にあっせん人が解決策を提示する場合もありますが、この場合でも、当事者には、提示された解決策を拒否する自由があります。
あっせん手続きの対象となる紛争は、話し合いによる解決の可能性がある全ての紛争です。あっせん人には、経験豊富な弁護士を始め、専門的分野に優れた知見を有する専門家等から選ばれます。
あっせん手続きの流れとしては、
申立書の作成、提出→あっせん人の選任→期日の審理→和解の成立・不成立
という形で進んでいきます。
調停
「調停」とは、調停人と呼ばれる第三者が、当事者双方の話を聞いた上で解決案を作成、提示してくれる制度です。調停人の解決案に対して当事者双方が同意すれば解決となりますが、解決案に不服があれば拒否することも可能です。
調停人には、ADRに関する所定の研修やトレーニングを積んだ専門家や学識経験者等から選ばれます。
調停手続きの流れとしては、あっせんの場合とほぼ同様で、
申立書の作成、提出→調停人の選任→期日の審理→合意の成立・不成立
と進んでいきます。
仲裁
「仲裁」とは、あらかじめ当事者が仲裁人の判断に従うという約束(仲裁合意)をした上で、仲裁人が当事者双方の話を聞いて仲裁判断を行う制度のことをいいます。
仲裁判断は、確定判決と同一の効力を持ちます。これは、例えば、お金を貸したのに返ってこないというような金銭トラブルにおいて、相手方の財産へ強制執行することが可能になります。
そして、仲裁判断が出た場合には、原則として不服を申し立てることができませんが、例外的に、仲裁合意に瑕疵があった等一定の場合には、不服を申し立てることも可能です。この点が、あっせんや調停と大きく異なる点です。
仲裁人には、あっせんや調停と同様、経験豊富な弁護士や元裁判官、学識経験者等から選任されます。
仲裁手続きの流れとしては、
仲裁合意→申立書の作成、提出→仲裁人の選任→期日の審理→仲裁判断or和解勧試
という形で進んでいきます。
和解勧試とは、和解が適当であると判断した場合に、和解案を勧めることをいいます。
仲裁の方があっせんや調停よりも強制力があるものの、日本では、仲裁よりもあっせんや調停の方が普及していると言われています。
司法機関によるADRの例
ADRは、第三者機関により行われますが、その中の一つに、司法機関によるADRがあります。司法機関によるADRの例としては、主に「裁判上の和解」、「民事調停」、「家事調停」の3つが挙げられます。
以下、それぞれの制度について紹介していきます。
裁判上の和解
「裁判上の和解」とは、その名のとおり、裁判所が関与する和解のことをいい、「訴え提起前の和解」と「訴訟上の和解」に分けられます。
「訴え提起前の和解」とは、民事訴訟法第275条の規定による和解のことを言い、民事上の争いがある当事者が、判決を求める訴訟を提起する前に簡易裁判所に和解の申立てをすることで、紛争を解決することです。「即決和解」とも呼ばれています。
「訴訟上の和解」とは、訴訟継続中に、当事者が互いに譲歩し、紛争を解決することをいいます。
「訴え提起前の和解」、「訴訟上の和解」のどちらも、和解調書に記載された場合には、確定判決と同一の効力を有します。つまり、当事者や裁判所を拘束する効力である既判力や、強制執行により請求を実現できる効力である執行力、法律関係の変動を生じる効力である形成力といった効力があります。
民事調停
「民事調停」とは、民事調停法に記載があり、民事に関する紛争全般が対象になります。弁護士や学識経験者等をはじめとする一般市民から選ばれた2名以上の調停委員が、裁判官と構成する調停委員会を通して、話し合いで紛争解決を目指す手続きです。
ちなみに、民事に関する紛争であっても、サラ金やクレジット返済に関するトラブル等は、民事調停の特例として定められている「特定調停」で解決することが可能です。
家事調停
「家事調停」とは、家事事件手続法に記載があり、家庭内トラブル等が対象になります。一般市民から選ばれた2名以上の調停委員が裁判官1名と構成する調停委員会を通して、当事者双方の事情や意見を聴き、助言やあっせんを行います。
家事調停の中には、「特殊調停」があり、特殊調停には、協議離婚の無効確認や親子関係の不存在確認訴訟、認知等があります。
一般的な家事事件では、当事者間で合意が成立すると、合意事項を書面にして調停は終了しますが、特殊調停では、一定の手続きを経た上で、家庭裁判所が適当と認めた場合に、合意事項を調停の成立に代えて、合意に相当する審判が行われることもあります。
その他のADR機関
ADRの第三者機関には、上述の司法機関の他、行政機関、民間機関があります。
行政機関の例:
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民間機関の例:
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ADR法とは?
ADR法とは、正式名称を、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」といいます。平成19年4月1日に施行されました。
紛争当事者の自主的な紛争解決の努力を尊重しつつ、専門的知見を活用することで紛争の実情に応じた迅速な解決を図ること、また、紛争当事者が解決を図るのにふさわしい手続きを選択することを容易にし、国民の権利利益の適切な実現に資することを目的としています。
ADR法は、ADR機関がその手続きを行うために必要な知識・能力等を有している場合には、法務大臣の認証を受けることができるとしています。認証とは、その機関によるADRが正当な手続きを経てなされていることを証明することを意味します。
なお、弁護士会によるADR手続きの場合等には、認証がなくても手続きの公平性が確保されるとして認証を受けていないこともあります。
また、以前はADR手続きの利用には、時効の中断効がなく、ADR手続きの利用中に時効が完成するおそれがあることから、安心して活用できないことが指摘されていましたが、ADR法の規定により、認証を受けたADR機関を利用した場合には、時効の中断効が認められるようになりました。
さらに、民事調停法や家事事件手続法では、一定の事件について訴訟提起前に調停の申立てをすることを義務付ける規定があります。しかしながら、ADR法では、認証を受けたADR機関を利用した場合、直ちに訴えを提起することが可能で、迅速な紛争解決を図ることができます。
裁判とADRの違い
最後に、裁判とADRの違いについて、①申立て手続き②期日の審理③時間④コストの点から詳しくみていきたいと思います。
①申立て手続き
裁判を起こす場合には、厳格な制約に基づいて訴状を作成しなければなりませんが、ADRの申立てには厳格な制約がありません。電話で申込みが可能な機関もあるようです。
また、裁判の場合、当事者一方の訴訟提起により手続きが開始されますが、ADRの場合には、当事者双方の合意により、手続きが開始されることになります。
②期日の審理
裁判は、公開が原則ですが、ADRは非公開が原則です。そのため、プライバシーや、企業秘密に係る紛争等については、特に安心して手続きを進めることが可能です。
また、裁判の実施主体は裁判官ですが、ADRでは、裁判官に限定されません。各分野の専門家を活用することが可能です。
審理期日も、裁判では裁判所により決定されますが、ADRでは当事者の都合で日時を決定することが可能です。
さらに、裁判では、判決が確定すると強制執行が可能ですが、ADRでは、基本的に不可能です。ただし、既に記載したとおり、ADRの中でも仲裁の場合には、強制執行が可能です。
そして、裁判では、厳格な事実認定と法の適用により判断を下しますが、ADRでは、法律だけでなく、当事者の感情を含めた判断が下されます。
③時間
裁判では、訴訟提起から裁判終了まで、数年かかる場合が多いですが、ADRでは、申立てから数カ月で終了する場合が多いと言われています。また、裁判の場合、何度も期日に足を運ぶ必要がありますが、ADRでは1、2回期日に出ることで解決することも多いようです。
④コスト
裁判では、法律の専門家による十分な主張、立証活動や鑑定が必要な場合があり、申立て費用のほか、弁護士費用や鑑定費用が必要です。その申立て費用の額も一般的に高額です。
一方で、ADRでは、当事者による解決が基本とされるため、基本的に弁護士費用や鑑定費用がかかることはありませんが、申立て費用、期日手数料が必要になります。
その申立て費用は約10,000円程度、期日手数料も1回約5,000円程度と比較的リーズナブルです。ただし、無事に合意が成立すると合意成立手数料がプラスで発生します。しかしながら、この成立手数料を含めてもADRでかかるコストは裁判でかかるコストより大幅に低いようです。
裁判 |
ADR |
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手続き開始 | 当事者一方の訴訟提起 | 当事者双方の合意 |
---|---|---|
秘密保護 | 公開 | 非公開 |
実施主体 | 裁判官 | 各分野の専門家 |
期日の決定 | 裁判所 | 当事者 |
強制執行 | 可能 | 不可能(仲裁の場合可能) |
時間 | 長期間 | 短期間 |
費用 | 高額 | 低額 |
まとめ
ADRについて、ご理解いただけましたでしょうか?ADRは裁判と比べてハードルが低く、活用しやすいという印象がありますが、まだまだ、ADRは裁判ほど世間一般に広く普及していません。
ただ、行政書士試験では、よく問われる用語であるため、行政書士試験を受験予定の方はしっかりと抑えていただきたいと思います。また、行政書士試験を受けないという方でも、このコラム等を通して少しでもADRについて知っておくことで、自分自身や周りの人に困ったことがあったときに役立つと思います。
また、行政書士になった場合には、ADR手続きに第三者として携わることが可能です。すでに行政書士資格を取得されている方は、この機会に行政書士が行うADRについて調べてみていただくと良いかと思います。
北川えり子(きたがわ えりこ)
学びの楽しさをシェアしたい
【出身】東京都
【経歴】拓殖大学外国語学部卒。行政書士、海事代理士、宅建等の資格を保有。
【趣味】旅行、ドライブ
【座右の銘】雲外蒼天
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