行政法の基本用語!法律による行政の原理とは?

「法律による行政の原理」とは、行政活動は、行政機関独自の判断で行われてはならず、国民の代表者で構成された立法府の制定する法律に従って行わなければならないという原理のことをいいます。

憲法において、この原理についてそのまま規定した条文はありませんが、第66条3項で内閣は、行政権の行使について国会に連帯責任を負うとする旨の規定があること、第73条1号で内閣は「法律を誠実に執行し」という規定があること、第74条で法律及び政令には、全て主任の国務大臣の署名と内閣総理大臣の連署を必要としていること等から、当然にこの原理が採用されていると考えられています。

目次

法律による行政の原理の役割

日本では、近年、行政国家化が進み、行政機関が有する権限は大きくなってきています。そのような中で、例えば、法律による行政の原理が採用されず、行政機関が思うままに行政活動を行うことを認めると、国民の自由や権利を侵害するおそれがあります。

そのため、法律による行政の原理を採用することは、行政権の濫用を防止し、民主主義社会を維持するために重要な役割を果たしているといえます。

法律による行政の原理からは、「法律の優位の原則」、「法律の留保の原則」、「法律の法規創造力」という3つの原則が派生しています。

法律の優位の原則とは?

「法律の優位の原則」とは、行政活動は、法律の規定に違反して行われてはならないという原則のことです。法律と行政活動が衝突する場合には、法律が優先し、法律に違反するような行政活動は無効となることを意味しています。

そのため、行政機関が、国民に対して、法律の趣旨に抵触するような命令や行政指導を行うことはできず、また、行政機関内部でも、法律の趣旨に抵触するような通達や職務命令を発出することができません。

法律の留保の原則とは?

「法律の留保の原則」とは、国民の権利や自由に対する制限は行政機関が行ってはならず、立法機関が制定する法律のみ行うことができるという原則のことです。言い換えれば、一定の行政活動を行う場合には、必ず法律の根拠が必要であるということです。

この原則をめぐっては、例えば行政機関による行政活動が国民の権利や自由を制限するものではなくて、国民に一方的に利益を与えるようなものであっても法律の根拠が必要なのか否かという議論があります。

「侵害留保説」、「全部留保説」、「権力留保説」という主に3つの説が対立していますので、以下、それぞれの説について紹介していきます。

侵害留保説

「侵害留保説」とは、国民の権利や自由、財産を権力的に制限、侵害するような行政活動に限り、法律の根拠を必要とする説です。逆に、国民に一方的に利益を与えるような行政活動は、法律の根拠が不要とされます。

具体例を挙げると、例えば、土地を強制収用する場合には、国民の権利を侵害し、国民に税金を課す場合には、国民の財産を侵害することになるため、このような場合には、法律の根拠が必要となります。

反対に、例えば、国民に運転免許を与えたり、各種営業許可を与えるような場合には、国民に利益となるため、法律の根拠は不要ということになります。

判例及び行政実務では、この説が支持されています。

全部留保説

「全部留保説」とは、国民の権利や自由、財産を制限、侵害するものであるか、国民に権利や利益を与えるものであるかにかかわらず、行政活動には全て法律の根拠が必要であるとする説です。

この説によると、侵害留保説で挙げた具体例について、土地の強制収用、課税、運転免許の付与、営業許可のいずれの場合も法律の根拠が必要ということになります。

 全部留保説については、根拠となる規範が存在しない限り日々変化する行政需要に対応できないといった批判があります。

権力留保説

「権力留保説」とは、国民の権利や自由、財産を制限、侵害するようなものであるか、国民に権利や利益を与えるものであるかにかかわらず、行政活動が権力的な行為形式によって行われる場合には、法律の根拠が必要であるという説です。

逆に、国民の権利や自由、財産を制限、侵害するような行政活動であっても、非権力的な行為形式によって行われる場合には、法律の根拠は不要ということになります。

「非権力的」というのは、行政機関の行為が優越的な地位に基づくものではなくて、国民と同等の地位で行う場合をいいます。例えば、行政指導や行政契約といったものが挙げられます。

学説の多数説では、この説が支持されています。

以上3つの説を紹介しましたが、その他にも、細かい議論ですが、「本質留保説」という、侵害留保説を基礎としつつ、基本的人権に関わりのあるような重要な行政活動については、その基本的内容について法律の授権を必要とする説もあります。ただし、この説については、「そういうものもあるんだな。」くらいに考えていただければ良いかと思います。

法律の法規創造力とは?

「法律の法規創造力」とは、国民の権利や義務に関する法規を作ることができるのは、国会で制定する法律だけであるという原則です。言い換えると、国民の権利や義務に関するルールは、法律でのみ制定できるのであって、行政で勝手に決めることができないということです。

行政が制定するためには、法律の授権が必要ということになります。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

法律による行政の原理は、行政権の恣意的な行使を防止して、民主主義社会を維持する上で大切な原理であること、この原理は①法律の優位の原則②法律の留保の原則③法律の法規創造力という3つの内容を包含しているということ、②の法律の留保の原則には、3つの対立する説があり、判例及び行政実務は、侵害留保説を支持しており、学説の多数説は、権力留保説を支持しているという点を抑えていただければと思います。

法律による行政の原理は、行政書士試験における行政法の学習を進める上で基本となる原理ですので、しっかりと内容を理解しておきましょう。

この記事の監修者は
福澤繁樹(ふくざわ しげき)

分かりやすくて勉強する気になる講義を目指したい!
【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
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