行政事件訴訟法の基礎知識!客観訴訟とは?

更新日:2021年7月6日

天秤と辞書と人

行政事件訴訟には、取消訴訟を始めとする「抗告訴訟」と「当事者訴訟」から構成される「主観訴訟」ともう1つ、「客観訴訟」があります。

ここでは、「客観訴訟」について詳しく解説していきます。

目次

客観訴訟とは?

「客観訴訟」とは、個人の権利利益とは別に、行政活動の適法性の確保や客観的な法秩序の維持を目的とする訴訟のことをいいます。客観訴訟には、「民衆訴訟」と「機関訴訟」の2種類があります。

客観訴訟と司法権の関係

主観訴訟は、個人の権利利益の保護を目的とするため、裁判所法第3条1項の「法律上の争訟」にあたるとされ、司法審査の対象になりますが、客観訴訟は、個人の権利利益の保護を目的とするものではないため、「法律上の争訟」にあたらないとされており、当然に司法審査の対象となるものではありません。

そのため、法律において特に定めた場合にのみ提起することが許される例外的な訴訟と位置づけられています。

【裁判所法】

第3条1項 裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。

【行政事件訴訟法】

第42条 民衆訴訟及び機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる。

民衆訴訟とは?

「民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関による法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起する訴訟のことをいいます。

「自己の法律上の利益にかかわらない資格」とは、「直接利害関係を持たないものの、法律で定められた人」というイメージで覚えていただければ良いかと思います。

本来、訴訟は提起する人が直接利害関係を有しなければならず、主観訴訟はその要件に当てはまりますが、行政事件訴訟法は例外的に直接利害関係を有しなくても提起できる訴訟類型を認めており、それがこの民衆訴訟や後に紹介する機関訴訟である客観訴訟ということになります。

民衆訴訟の例としては、主に「住民訴訟」と「選挙訴訟」が挙げられます。以下、それぞれの訴訟内容について解説していきます。

【行政事件訴訟法】

第5条 この法律において「民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう。

住民訴訟

「住民訴訟」とは、地方自治法に規定があり、住民監査請求をした住民が次の場合に提起する訴訟のことをいいます。

①監査結果に不服がある
②監査委員のした勧告に不服がある
③議会や執行機関や職員の措置に不服がある
④監査委員が期間内に監査をしない、又は勧告をしない
⑤議会や執行機関や職員が必要な措置を講じない

住民訴訟は、違法な財務会計上の行為や怠る事実について提起でき、不当な財務会計上の行為や不当な怠る事実では提起できません。

住民訴訟の請求内容は、以下の通りです。

①機関や職員に対する行為の全部又は一部の差止め請求
②行為の取消し又は無効確認請求
③その機関や職員に対する怠る事実の違法確認請求
④損害賠償や不当利得返還の請求をすることを求める請求

選挙訴訟

「選挙訴訟」とは、公職選挙法に規定があり、地方公共団体の議会の議員や長、国会議員の選挙の効力、当選の効力に関して不服がある選挙人や公職の候補者が提起する訴訟のことをいいます。

地方公共団体の議会の議員や長の選挙の効力や当選の効力に関して選挙管理委員会に異議申出、審査の申立てをした結果、選挙管理委員会の決定又は裁決に不服がある選挙人又は公職の候補者は、都道府県の選挙管理委員会を被告として、決定書や裁決書の交付を受けた日から30日以内に高等裁判所に訴訟提起をします。

また、衆議院議員又は参議院議員の選挙の効力に関して異議がある選挙人又は公職の候補者は、衆議院議員(小選挙区選出)又は参議院議員(選挙区選出)の選挙の場合には、都道府県の選挙管理委員会を被告として、衆議院議員(比例代表選出)又は参議院議員(比例代表選出)の選挙の場合には、中央選挙管理会を被告として、選挙の日から30日以内に高等裁判所に訴訟提起をします。

さらに、衆議院議員又は参議院議員の当選の効力に関して不服がある候補者は、衆議院議員(小選挙区選出)又は参議院議員(選挙区選出)の選挙の場合には、都道府県の選挙管理委員会を被告として、衆議院議員(比例代表選出)又は参議院議員(比例代表選出)の選挙の場合には、中央選挙管理会を被告として、選挙結果の告示の日から30日以内に高等裁判所に訴訟提起をします。

機関訴訟とは?

「機関訴訟」とは、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又は権限の行使に関する紛争についての訴訟のことをいいます。機関訴訟は、行政機関同士の争いであるため、一般国民は直接利害関係を有しません。

そのため、上述した、例外的に直接利害関係を有しなくても提起できる訴訟類型である客観訴訟といえます。

機関訴訟の具体例としては、国の関与に関する地方公共団体の機関による取消訴訟が挙げられます。

実際に、沖縄県副知事が普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認処分を取り消す行政処分をしたことに対して、国土交通大臣がこの取消処分を取り消す裁決をしたため、沖縄県知事が違法な国の関与にあたるとして取消訴訟を提起した事案があります。

その他、地方公共団体の議決又は選挙に関する議会と長との間の訴訟、市町村の境界に対する知事の裁定に関する知事と市町村の間の訴訟等も機関訴訟の例です。

【行政事件訴訟法】

第6条 この法律において「機関訴訟」とは、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟をいう。

まとめ

行政事件訴訟には、「主観訴訟」と「客観訴訟」があり、主観訴訟は法律上の争訟にあたると考えられていますが、客観訴訟は、法律上の争訟にはあたらず、法律が特に定めた場合にのみ認められる訴訟と考えられています。

「客観訴訟」は、さらに、「民衆訴訟」と「機関訴訟」に分けられます。

民衆訴訟は、行政機関の法規に適合しない行為の是正を求めて提起する訴訟のことをいい、具体例として、住民訴訟や選挙訴訟等が挙げられます。

機関訴訟は、行政機関同士の権限配分等を争う訴訟のことをいい、具体例として、国の関与に関する地方公共団体の機関による取消訴訟等が挙げられます。

この記事の監修者は
福澤繁樹(ふくざわ しげき)

分かりやすくて勉強する気になる講義を目指したい!
【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
フォーサイト公式Youtubeチャンネル「行政書士への道」
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