住民訴訟とは?重要判例も紹介します!

更新日:2021年7月9日

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目次

住民訴訟とは

「住民訴訟」とは、住民監査請求を行った住民が、その監査結果や監査に基づいてとられた措置に不服がある場合に裁判所に提起できる訴訟です。

行政事件訴訟法における客観訴訟に分類され、その中でも法律で特に認められる民衆訴訟です。

【地方自治法】

第242条の2 普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合(=住民監査請求)において、同条第五項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第五項の規定による監査若しくは勧告を同条第六項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。

一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求

二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求

三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求

四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合には、当該賠償の命令をすることを求める請求

住民訴訟の要件

住民訴訟の要件として、まず、請求権者は、住民監査請求をした住民に限られます。たとえ、当該普通地方公共団体の住民であっても、住民監査請求をしていなければ、住民訴訟を提起することはできません(住民監査請求前置主義)。

次に、監査請求を経た後、以下の5つの場合に、住民訴訟を提起できます。

①監査結果に不服がある場合

②監査委員の行った勧告に不服がある場合

③議会や執行機関や職員の措置に不服がある場合

④監査委員が期間内に監査をしない、又は勧告をしない場合

⑤議会や執行機関や職員が必要な措置を講じない場合

また、住民訴訟が係属しているときは、当該普通地方公共団体の他の住民は、別訴をもって同一の請求をすることができません。

さらに、住民訴訟は、当該普通地方公共団体の事務所の所在地を管轄する地方裁判所が管轄です。

第242条の2

第4項 第一項の規定による訴訟が係属しているときは、当該普通地方公共団体の他の住民は、別訴をもつて同一の請求をすることができない。

第5項 第一項の規定による訴訟は、当該普通地方公共団体の事務所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。

住民訴訟の出訴期間

住民訴訟には出訴期間の規定もあります。

上記①~⑤ 出訴期間
①監査結果に不服がある場合
②監査委員の行った勧告に不服がある場合
③議会や執行機関や職員の措置に不服がある場合
監査結果や勧告内容の通知又は勧告内容の措置についての通知があった日から30日以内
④監査委員が期間内に監査をしない、又は勧告をしない場合 請求した日から60日を経過した日から30日以内
⑤議会や執行機関や職員が必要な措置を講じない場合 監査委員の勧告で示された期間を経過した日から30日以内

これらの出訴期間は不変です。

第242条の2

第2項 前項の規定による訴訟は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める期間内に提起しなければならない。

一 監査委員の監査の結果又は勧告に不服がある場合
当該監査の結果又は当該勧告の内容の通知があつた日から三十日以内

二 監査委員の勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員の措置に不服がある場合
当該措置に係る監査委員の通知があつた日から三十日以内

三 監査委員が請求をした日から六十日を経過しても監査又は勧告を行わない場合
当該六十日を経過した日から三十日以内

四 監査委員の勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員が措置を講じない場合
当該勧告に示された期間を経過した日から三十日以内

第3項 前項の期間は、不変期間とする。

住民訴訟の請求内容

住民訴訟の請求内容は、以下の4つがあります。

①その機関や職員に対する行為の全部又は一部の差止請求

②行政処分である行為の取消し又は無効確認請求

③その機関や職員に対する怠る事実の違法確認請求

④その職員又はその行為や怠る事実の相手方に対して損害賠償や不当利得返還請求をすることを執行機関等に求める請求
(職員等に対する賠償命令の対象となる者の場合には、その賠償命令をすることを求める請求)

このうち、①の差止請求について、その行為を差し止めることで、人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがある場合は、差止めをすることができません。

また、④損害賠償や不当利得返還請求をすることを求める請求について、これを請求内容とする住民訴訟が提起された場合には、その職員又はその行為もしくは怠る事実の相手方に対して、普通地方公共団体の執行機関や職員は、遅滞なく、その訴訟の告知をする義務があります。

そして、告知があった場合には、訴訟が終了した日から6ヶ月が経過するまでは、その訴訟に係る損害賠償や不当利得返還請求権の時効は完成しません。

第242条の2

第6項 第一項第一号の規定による請求に基づく差止めは、当該行為を差し止めることによつて人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがあるときは、することができない。

第7項 第一項第四号の規定による訴訟が提起された場合には、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実の相手方に対して、当該普通地方公共団体の執行機関又は職員は、遅滞なく、その訴訟の告知をしなければならない。

第8項 前項の訴訟告知があつたときは、第一項第四号の規定による訴訟が終了した日から六月を経過するまでの間は、当該訴訟に係る損害賠償又は不当利得返還の請求権の時効は、完成しない。

住民訴訟に関する重要判例

住民訴訟に関する重要判例は、主に3つ挙げられます。以下、それぞれの判例について詳しく説明していきます。

最判平成4年12月15日

【事案】

東京教育委員会が、公立学校において勧奨退職に応じた教頭Aに対して1日のみ校長に任命し、昇給させた後に、退職承認をしました。

東京都知事Yは、昇給後の給与を基本として退職手当の支出決定をしたため、東京都民Xは、Aの校長への昇格処分の違法性と、これを前提としたYによる退職手当の支出決定の違法性を主張して、住民訴訟を提起しました。

【争点】

勧奨退職に応じた公立学校の教頭を、1日だけ校長に任命して昇給させ、昇給後の給与を基本として退職金の支出決定を行ったことは違法か否か?

【理由および結論】

本件昇格処分及び本件退職承認処分が著しく合理性を欠き、そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するものとはいえないため、Yは、東京都教育委員会が行った本件昇格処分及び本件退職承認処分を前提として、これに伴う所要の財務会計上の措置を採るべき義務があるものというべきである。

したがって、Yの行った本件支出決定が、その職務上負担する財務会計法規上の義務に違反してされた違法なものということはできない。

最判平成21年4月28日

【事案】

ごみ焼却施設建設工事の指名競争入札において、業者の談合により、不当に高い価格で落札され、市が損害を被ったにもかかわらず、市長が業者に対して不法行為に基づく損害賠償請求をしませんでした。

これに対して、住民Xが市が不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を違法に怠っているとして、住民訴訟を提起しました。

【争点】

市長が業者に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないことが、違法な怠る事実にあたるか否か?

【理由および結論】

地方公共団体が有する債権の管理について、定める地方自治法第240条、地方自治法施行令第171条から第171条の7までの規定によれば、客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず、原則として、地方公共団体の長にその行使又は不行使についての裁量はない。

もっとも、地方公共団体の長が債権の存在を認識し得ないような場合にまでその行使を義務付けることはできない上、不法行為に基づく損害賠償請求権は、債権の存否自体が必ずしも明らかではない場合が多いことから考えると、その不行使が違法な怠る事実にあたるというためには、少なくとも、客観的に見て不法行為の成立を認定するに足りる証拠資料を地方公共団体の長が入手し、又は入手し得たことが必要である。

 本件では、市長は客観的に見て不法行為の成立を是認するに足りる証拠資料を入手し得たといえるため、不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないことが、違法な怠る事実にあたる

最判平成10年12月18日

【事案】

Y市が公金支出により、A中学校を建設して開校したところ、住民Xが、A中学校建設の必要性について監査を求めて住民監査請求を行いましたが、却下されました。

そのため、再度住民監査請求を提起しましたが、再度却下されたため、住民訴訟を提起しました。

【争点】

適法な住民監査請求を不適法として却下した場合に、同一の住民による同一の対象に関する再度の住民監査請求をすることができるか?

【理由および結論】

監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民は、適法な住民監査請求を経たものとして直ちに住民訴訟を提起可能であるのみならず、当該請求の対象とされた財務会計上の行為又は怠る事実と同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象として、再度住民監査請求をすることもできる。

住民監査請求の制度は、住民訴訟の前置手続として、まず監査委員に財務会計上の行為又は怠る事実について監査の機会を与え、当該行為又は怠る事実の違法、不当を当該普通地方公共団体の自治的、内部的処理によって予防、是正させることを目的とするものであると考えられる。

そして、監査委員が適法な住民監査請求により監査の機会を与えられたにもかかわらずこれを却下し、監査を行わなかったため、当該行為又は怠る事実の違法、不当を当該普通地方公共団体の自治的、内部的処理によって予防、是正する機会を失った場合には、当該請求をした住民に再度の住民監査請求を認めることにより、監査委員に重ねて監査の機会を与えるのが、上述した住民監査請求の制度の目的に適合するといえる。

また、監査委員が住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民が、却下の理由に応じて必要な補正を加える等、当該請求に係る財務会計上の行為又は怠る事実と同一の行為又は怠る事実を対象とする再度の住民監査請求をすることは、請求を却下された者として当然の行為といえる。

そうだとすれば、当初の住民監査請求が適法であるため直ちに住民訴訟を提起できるとしても、当該請求をした住民が住民訴訟を提起せずに再度の住民監査請求をした場合に、その請求が当初の請求と対象が同じであることを理由に不適法とするのは、出訴期間等の点で当該住民から住民訴訟を提起する機会を不当に奪うことにもなり、著しく妥当性を欠く。

まとめ

「住民訴訟」とは、住民監査請求を行った住民が、その監査結果や監査に基づいてとられた措置に不服がある場合に裁判所に提起できる客観訴訟であり、法律で特に認められる民衆訴訟です。

住民訴訟を提起するためには、住民監査請求を経ていなければなりません。

住民訴訟の提起要件は、①監査結果に対する不服、②監査委員の勧告に対する不服、③議会や執行機関や職員の措置に対する不服、④監査委員が期間内に監査をしない、又は勧告しないことに対する不服、⑤議会等が必要な措置を講じないことに対する不服という5つの場合に分けられ、それぞれに出訴期間が定められています。

また、請求内容は、①行為の全部又は一部の差止め、②行為の取消し又は無効確認、③怠る事実の違法確認請求、④相手方への損害賠償や不当利得返還請求を執行機関等に求める請求(職員等に対する賠償命令の対象となる者の場合は賠償命令を求める請求)という4つの種類に限定されています。

その他、ポイントとしては、住民訴訟における違法な行為又は怠る事実については、民事保全法に規定する仮処分をすることができません。

また、住民訴訟の手続きについては、原則として、行政事件訴訟法の規定が適用されます。

さらに、住民訴訟を提起した者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合で、弁護士や弁護士法人に報酬を支払わなければならないときには、当該普通地方公共団体に対して、その報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払いを請求することができます。

この記事の監修者は
福澤繁樹(ふくざわ しげき)

分かりやすくて勉強する気になる講義を目指したい!
【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
フォーサイト公式Youtubeチャンネル「行政書士への道」
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