財政民主主義における租税法律主義とは?わかりやすく解説します!

更新日:2021年5月11日

TAXと3体の人形

「財政」とは、個人や企業の経済活動のことを指す場合もありますが、一般的には、国や地方公共団体がその役割を果たすために行う収入・支出活動のことをいいます。日本国憲法は、財政に関する規定も定めています。

目次

財政民主主義とは?

「財政民主主義」とは、国家が支出や課税といった財政活動を行う場合には、国民の代表者で構成される国会での議決が必要であるとする考え方のことです。財政の在り方は、国民に大きな影響を与えるため、国会の議決を必要としました。

「国会財政中心主義」とも呼ばれており、憲法第83条が根拠条文とされています。

【憲法】

第八十三条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。

租税法律主義とは?

「租税法律主義」とは、租税を賦課徴収する場合には、必ず議会の制定した法律に基づかなければならないとする考え方のことです。財政民主主義を収入面で具体化したものであり、憲法第84条に規定があります。

第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

租税法律主義の歴史

租税法律主義は、イギリスが起源とされています。近代以前の国家では、封建領主や絶対君主が戦争費用の調達や個人的欲望のために国民に対して恣意的な課税を行っていました。

しかしながら、1215年のマグナ・カルタにおいて、一般評議会の同意がなければ国王は、直属の臣下から軍役免除税や上納金を課せないということが規定されました(代表なくして課税なし)。ヘンリー3世は、マグナ・カルタを破ろうとしましたが、バロン戦争で国王を破った貴族達が会議を開きました。

ヘンリー3世の後、エドワード1世が財政難から頻繁に議会を開き、議会の賛成を得て徴税を行い、このような形でイギリスの租税法律主義が発展していきました。

日本には、明治維新とともに伝わってきました。大日本帝国憲法においても、租税法律主義が採用されました。

租税法律主義の内容

租税法律主義の内容については、主に①課税要件法定主義と②課税要件明確主義の2つの考え方から成り立っています。

課税要件法定主義

「課税要件法定主義」とは、どのような場合に課税されるのかということを具体的に法律で定めることをいいます。

具体的には、納税義務が発生する要件として、納税義務者、課税物権、課税物権の帰属、税率を定め、さらに細かくどのように税金を徴収するかを法律で定めなければならないということです。

課税を政令や省令等下位規範に委任することも可能です。ただし、その委任は個別的・具体的でなければならず、一般的・白紙的委任は許されないとされています。

課税要件明確主義

「課税要件明確主義」とは、課税される租税をどのような手続きで徴収するかを法律で定める際に、その定めは一義的かつ明確でなければならないとするものです。「一義的」とは、それ以外に解釈できない、という意味です。

法律で規定した内容に様々な解釈ができるとすると、国の自由裁量によりさまざまな課税がなされる可能性があるため、それを防止する意義があります。

租税法律主義に関する重要判例「旭川市国民健康保険条例事件」(最大判平成18年3月1日)

租税法律主義に関する重要判例として、「旭川市国民健康保険条例事件」が挙げられます。以下、詳しく解説していきます。

【事案】

旭川市在住Xは、旭川市の国民保険条例には、保険料率を定額で定める等具体的な規定がなく、保険料決定の基礎となる賦課総額の内容が不明確であるとして、同条例が憲法第84条に違反すると主張し、国民健康保険料賦課処分と減免非該当処分の取り消しを求めて訴訟提起をしました。

【争点】

① 租税法律主義と条例との関係をどのように解釈するか?

② 租税法律主義と保険料との関係をどのように解釈するか?

③ 保険料率の決定の委任は合憲か?

④ 旭川市国民保険条例は租税法律主義に違反するか?

【理由および結論】

① 租税法律主義は、行政権による恣意的な課税から国民を保護するための原則であり、地方公共団体による地方税の賦課徴収についても、租税法律主義が適用されることは憲法第92条、第84条の立法趣旨に照らして明らかである。

② 国民健康保険は強制加入制、強制徴収制ではあるが、社会保険としての国民保険の目的・性質に由来するものである。

また、公的資金が導入されても、保険料の対価性は失われず、租税法律主義は、特別の給付に対する反対給付としての性質を有しない租税についての原則であるから、保険料を租税と同一視して、租税法律主義が直接適用されるとすることは妥当ではない。

③ もっとも、強制的に賦課徴収される点では、租税と共通するため、憲法第84条の趣旨は保険料にも及ぶ。

条例において、保険料率算定の基準・方法を具体的かつ明確に規定した上、その規定に基づく具体的な保険料率決定を、下位の法規に委任し、現に下位の法規でその内容が明確にされている場合には、合憲である。

④ 本件条例は、市長が保険料率決定の方法をどのようにすべきかについて具体的かつ明確な基準を規定した上で、市長に対して保険料率決定・告示を委任している。

また、法規のような性質持つ告示で保険料率が具体的に公示されているため、租税法律主義に違反しない。

結果として、この判例ではXの主張が認められませんでした。

まとめ

財政民主主義と租税法律主義について、ご理解いただけましたでしょうか?租税法律主義は、現在では全ての民主主義国家で採用されている原則です。

行政書士試験においては、以下の事項についてしっかりと押さえていただければと思います。

  • 租税法律主義とその前提となる財政民主主義の意味と関係
  • 租税法律主義における「課税要件法定主義」と「課税要件明確主義」について
  • 租税法律主義に関する判例である旭川市国民健康保険条例事件
この記事の監修者は
福澤繁樹(ふくざわ しげき)

分かりやすくて勉強する気になる講義を目指したい!
【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
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