令和2年度 第52回社会保険労務士試験の講評
2020/08/31
8月23日(日)に、令和2年度(第52回)社会保険労務士試験が実施されました。
フォーサイトでは試験当日に、二神講師による選択式試験についての試験講評をライブで配信いたしました。
※アーカイブでご覧いただけます。
また8月28日に、加藤講師による選択式・択一式試験についての試験講評動画を公開いたしました。
選択式試験について
8月23日に、令和2年度社会保険労務士試験が実施されました。
受験された方、お疲れ様でした。
今年度の選択式試験については、難しい空欄もありましたが、確実に正解することができるものが多々ありました。
そのため、トータルとして見ると、それなりに得点をすることができる内容でした。
「労働基準法」は、最近の傾向どおり、判例の問題がありました。いずれの空欄も知らないと思われた方が多いでしょうが、文脈と選択肢から正しい選択肢を選ぶことはできなくはないレベルです。Aは基本的な内容ですから正しい選択肢を選ぶことは容易だったと思われます。
「労働安全衛生法」は、Ⅾは基本的な内容でしたが、Eはかなり細かい内容でしたので、Eはできなくても致し方ないといえます。
これらから、判例の問題の正解状況によっては、基準点の引下げがあるかもしれません。
「労災保険法」は、「通勤」の定義に関する問題で、基本的な内容といえます。ただ、CからEは、やや勉強が疎かになっている可能性があり、正解することができなかった箇所があるかもしれません。
そのようなものがあったとしても、全体で考えれば基準点の確保は容易なので、労災保険法は、基準点の引下げの可能性はかなり低いでしょう。
「雇用保険法」は、最近の傾向(条文の抜粋・引用)とは違った出題でしたが、いずれにしても基本的な内容といえます。
そのため、満点も難しくはないレベルです。ただ、4つの空欄が過去の傾向どおり数字関連で、雇用保険法は数字に関連する空欄が多いと、受験者の得点が伸び悩むことがあります。とはいえ、今年度の問題の場合、3点の確保は難しくないので、基準点の引下げの可能性はかなり低いでしょう。
「労務管理その他の労働に関する一般常識」は、問題文を見た瞬間に、「この問題はなんだ!」と驚かれた受験者も少なからずいたようです。
労働に関する統計調査は、択一式、選択式いずれからも多くの出題があり、それらの問題を解いたことがあれば、主要な統計調査は知っているでしょうから、問題文から調査の名称を選べなくはないものもありました。とはいえ、かなり厳しい問題といえます。
そのため、基準点が2点に下がる可能性が高いです。
「社会保険に関する一般常識」は、問題文1の「社会保障費用統計」は択一式で出題された実績があるので、Bはできなくはない空欄です。Aは、捨て問といえるレベルですから、できなくても致し方ありません。
CからEは、いずれも法令からの出題で、細かい内容ではありませんが、Dは知らないということも考えられ、また、Eは応用問題であることから、難しく感じられた方もいるのではないでしょうか。
そのため、3点を確保することができない受験者がある程度いると思われます。ですので、その状況によって、基準点の引下げが行われることがあり得ます。
「健康保険法」は、例年どおり数字を含んだ空欄がありました。そのうち、Cは計算を要するものだったので、混乱した受験者もいたと思われます。そのため、Cは正解することができなかった受験者が少なからずいたでしょう。
そのほかの空欄は、基本的な内容でした。ただ、多くの受験者が知っていながら、正確に覚えていないのではと思われる箇所が空欄となっていたため、問題の質以上に得点が伸びていない可能性があります。とはいえ、3点以上確保することは難しくないといえます。
なお、このレベルでも受験者全体で見ると得点が伸びないことがあり、状況によって基準点が2点に下がるかもしれません。
「厚生年金保険法」は、いずれも基本的な内容で、過去に択一式で論点とされた箇所もあり、いずれも正解し、できるだけ得点を稼ぎたいといえます。ただ、選択肢が長いと、うっかりミスをしてしまうということがあるかもしれません。
とはいえ、基準点が2点に下がる可能性はかなり低いでしょう。
「国民年金法」も厚生年金保険法と同様、いずれも基本的な内容ですので、3点を確保することは難しくはないでしょう。
ただ、他の科目でも言えるのですが、選択肢を見て、迷ってしまい、誤ったもの選んでしまうということが起きる可能性がある空欄がいくつかあります。できるだけ得点を稼ぎたいレベルですが、そのような間違いをしてしまうと、思ったほど得点できないということもありそうです。とはいえ、基準点の引下げの可能性は低いでしょう。
全体として、前年度の問題と比べた場合、少し易しく、得点しやすいようなレベルでしたので、受験者のレベルに大きな変化がないのであれば、トータルの基準点については、昨年度と同じかやや上がり、26点以上ではないでしょうか。
ただ、科目別の基準点の引下げの状況などにより、変わってくる可能性もあります。
択一式試験について
8月23日に行われた「令和2年度社会保険労務士試験」の択一式試験について講評します。
まず、問題冊子のページ数は62ページで、昨年度と同じです。平成10年度頃は50ページ前後、その後、平成10年代は50ページから60ページ、そして、平成20年代は60ページ以上が増え、ここ10年で60ページ以上は、今年で5回目でした。 60ページ以上だと、かなりのボリュームといえ、時間配分で苦戦したという方もいたかと思います。
それでは、各科目について見ていきます。
「労働基準法」は、細かいことや事例的なものなどが多く出題され、全体的に見ると難しいといえ、高得点が望めるようなものではありませんでした。数問、比較的解きやすい内容・レベルの問題があったので、それらで確実に正解しておかないと、かなり厳しい状況になってしまう可能性があります。
一方、「労働安全衛生法」は、珍しく3問いずれもがそれほど高いレベルでなく、全問正解もあり得るものでした。
「労働基準法」と「労働安全衛生法」を合わせた10問で考えた場合、「労働基準法」が難しかったことから、「労働安全衛生法」で得点を稼ぎ、確実に基準点を確保し、できれば5点以上取っておきたいところです。
「労働基準法」が難しかったですが、科目別の基準点が下がるという可能性は低いでしょう。
「労災保険法」は、労災保険法の特徴である、1つのポイントに視点を置く問題が、いくつもありました。その1つのポイントを知らなかったり、覚えていなかったりすると正解することができないため、そのような問題を間違えたという受験者も少なからずいたと思われます。ただ、すべてが難しいというのではないので、半分くらいは正答を選べたのではないでしょうか。
「労働保険徴収法」は、過去に出題されたことがある基本的なものが中心でした。ただ、一工夫されたものがあり、少し迷ってしまったということがあるかもしれません。そうはいっても、3問とも正解できるレベルでしたので、「労災保険法」とのトータルで6点以上は取れるのではないでしょうか。
「雇用保険法」は、問7は「捨て問」といえる出題内容だったので、正解することができなくても大きな影響はないでしょう。そのほかは、行政手引からの出題が多く、問2は難しいですが、問2以外は、それほど難しいものではないので、半分以上は正答を選べるでしょう。
「労働保険徴収法」は、3問とも難しくはないので、少なくとも2問は正解しておきたいところです。「雇用保険法」とのトータルで最低6点、できれば7点以上は取っておきたい10問です。
「労務管理その他の労働に関する一般常識」は、法令等の出題が3問でした。そのうち1問は社会保険労務士法で、ここのところ「社会保険に関する一般常識」ではなく、「労務管理その他の労働に関する一般常識」のほうから出題されていますが、この問題は確実に正解したいものです。他の2問は、判例や具体的なことが含まれているので、やや難しいといえます。
また、労働経済の2問については、問1の「若年者雇用実態調査」は平成28年度に、問2の「労働安全衛生調査」は既に廃止されている「労働者健康状況調査」として平成26年度に出題されているとはいえ、厳しい問題です。
「社会保険労務士法」の問題以外の4問のうち何問正解することができたかが科目別の基準点との関係で重要になります。なんとか1問は正解しておかないと、厳しい状況になる可能性があります。
「社会保険に関する一般常識」は、勉強していない規定が含まれている問題があったと思われます。とはいえ、1問単位で見ると、正答の肢を選ぶのは、それほど難しくはなかったのではないでしょうか。ですので、3問以上は正解したいところです。1問か、2問しか正解することができないと、「労務管理その他の労働に関する一般常識」の状況によって、合計で、科目別の基準点である4点を確保できない可能性があります。
なお、受験生の得点状況によって、もしかしたら、基準点の引下げがあるかもしれません。
「健康保険法」は、通達がかなり出題されますが、その傾向どおり、通達からの出題がいくつもありました。見たこともないものがあったかもしれませんが、多くは過去に出題実績があるものでした。そのため、まったく太刀打ちできないというものは、ほとんどなかったのではないでしょうか。ただ、簡単だという問題もなかったので、全問正解というのは難しいでしょうが、6問は正解しておきたいレベルです。
「厚生年金保険法」は、昨年度と同様に全体として比較的取り組みやすい問題が多かったので、かなり得点することができる可能性がありました。ただ、年金に苦手意識があったりすると、ちょっとしたミス、例えば、長文の問題がいくつもあるので、そのような問題で問題文を読みながら勘違いをしてしまったりとか、時間に追われてミスをしてしまったりとかということがありそうです。もし、そのようなミスがあったとしても、「厚生年金保険法」で得点を稼いでおかないと総得点で合格基準点に満たないということもあり得るので、7点以上は取っておきたい科目です。
「国民年金法」は、事例など具体的な内容の問題が出ることがよくあり、令和2年度試験でも、そのような出題がありました。そのうち多くは、基本を理解していれば正誤の判断ができるものでしたが、苦手意識が働き適切な判断ができなかった受験者もいたと思われます。また、事例問題は時間を使うため、焦ってしまいミスをした受験者もいたと思われます。ただ、事例ばかりではなく基本的なものなど比較的易しいものなどがあり、ある程度の得点は可能だったでしょう。
トータルの基準点については、問題のレベルから考えた場合、昨年度よりは少し高くなる可能性があります。また、基準点の引下げ効果を持つ「個数問題の出題」が少なかった(2問)ことから、それもプラスに作用し、受験者の得点を全体的に伸ばす可能性があり、それにより平均点が上がり、それに伴って基準点が上がることが考えられます。