通関士の実務でも役に立つ!外国貨物のまま運送できる「保税運送」とは

通関士の実務でも役に立つ!外国貨物のまま運送できる「保税運送」とは

外国から日本に到着した貨物は、船(飛行機)から陸揚げされた後に、通関手続のために一時的に保税地域に置かれることになるのは周知のとおりです。ですが以下のような状態においては、保税地域はもちろん、開港、税関空港、税関官署等に運送することが便利ということもできます。

Ex)陸揚げをした開港以外の場所で通関手続きをする場合
Ex)他の場所にある保税蔵置場に置くための承認を受けた上で、商機を見て輸入(もしくは積戻し)をしようとする場合
Ex)保税工場において加工・製造した上で、輸入(もしくは積戻し)をする場合

上記のような場合を想定して、外国貨物のまま保税地域等の相互間のみ運送できる仕組みを、保税運送と言います。

今回はこの保税運送にスポットを当てて、郵便物の運送や特定貨物、難破貨物の運送など具体例を挙げつつご紹介していきましょう。

目次

保税運送の意義とは

外国貨物は関税徴収の確保や取り締まりの観点から、原則、保税地域等の所定の場所にしか置くことが出来ません。ただし、「税関長の承認」が前提となり、外国貨物のまま「保税地域等の相互間のみ」輸送できるというのが保税運送の基本的な考え方です。

実際に例を挙げた上記3つの場合、外国貨物を置かれている場所から輸入(もしくは積戻し)をする場所まで貨物が運送できないとなると、つまりは、現に貨物が置かれている場所でしか輸入(もしくは積戻し)の手続きを行えないということを意味します。これでしたら輸入者、輸出者双方にとってとても不便な状態ですよね。

一方で保税運送の制度は、貨物を外国貨物のまま運送出来ることになるため、貨物の積卸しや保管、使用、商取引等がスムーズに行えることに繋がります。そして何より、保税運送は陸路・空路・海路全てにおいて可能であり、輸送手段に限定がないという点でとても使い勝手の良い制度と言えるでしょう。

保税運送の承認を必要としない外国貨物とは

外国貨物を保税運送する場合において税関長の承認を必要とするのは、運送される貨物が一時的に、税関の管理下を離れることになるためです。税関長の目の行き届かないところを移動する以上、当然ながら、事前に税関長の承認が必要とされるという考えによります。

それでは逆に、この税関長の承認を要しない貨物とはどのようなものがあるのでしょうか。

①特定郵便物

受け取りに際して輸入申告を必要としない郵便物(課税価格が20万円以下のものや寄贈品、名宛人が郵便物の価格を把握できないもの)を特定郵便物と言いますが、これに関しては運送の承認を必要としません。

実際にこのような郵便物は、日本郵便株式会社の管理の下で数多く次々と送られますよね。そんな状況下で、いちいち規制する必要性が低い(実務的に規制できない)という背景があります。

②特例輸出貨物

輸出申告の特例の規定により申告が行われ、税関長の輸出許可を受けた貨物を「特例輸出貨物」と言います。つまりは特定輸出者や特定委託輸出者など、法令(コンプライアンス)順守がなされている業者が輸出申告をした貨物のため、税関長の承認を得ずに保税運送を行うことが出来ます。

③本邦に到着した外国貿易船に積まれていた外国貨物

日本に到着した外国船に積まれていた貨物で、引き続いてその外国船により、または他の外国船に積み替えて運送されるものは、保税運送の承認を要しません。外国船に積まれたままの状態のため国内取引、流通の可能性がないので、承認の必要はないということです。

④輸出許可を得て外国貿易船に積み込まれた外国貨物

これから輸出のため外国船に積まれていた貨物で、引き続いてその外国船により、または他の外国船に積み替えて運送されるものは、保税運送の承認を要しません。理由としては上記③の場合と同様です。

保税運送の手続きと流れ

それでは、実際に保税運送の手続きはどのような流れになるのでしょうか。下記の表と併せて説明していきましょう。

手順① 申告 外国貨物を保税運送しようとするものは、運送手段や運送先、記号、番号、品目、数量、価格等を記載した「外国貨物運送申告書」を作成した上で税関長に提出し、承認を得る
手順② 検査 税関長は、必要があれば税関職員に検査をさせることが出来る
手順③ 担保の提供 税関長は、必要があれば関税額に相当する担保の提供を求めることが出来る
手順④ 期間の指定 税関長は、貨物の運送手段や距離等を踏まえて、相当と認められる運送期間を指定する
手順⑤ 発送 運送の承認を受けたものは、運送目録を税関に提出した上でその確認を受ける
手順⑥ 到着 保税運送が適用される貨物が日本に到着した際は、運送目録を到着地の税関に提出し、到着確認を受ける
手順⑦ 運送目録の提出 運送目録は、⑥の到着の確認を受けた日から1月以内に、税関長へ提出しなければならない

外国貨物を保税運送しようとするものは、必要事項を記載した「外国貨物運送申告書」を作成した上で税関長に提出し、承認を得ることとなります。そして税関長は、必要があれば税関職員に検査をさせ、関税額に相当する担保を提供させることが出来るとされています(関税法第63条)。さらに運送事情等を考慮した上で、運送期間を指定します。

この運送期間に関して、延長の申請においては、運送承認をした税関長または貨物のある場所を所轄する税関長のどちらかに行うことが出来ます。

その上で、次は外国貨物の発送です。
運送目録を税関に提出し、その確認を受ける必要があります。その後に目的地へ到着したら、到着地の税関に直ちに運送目録を提示し、到着確認を受ける形となります。

最後にこの運送目録を、到着の確認を受けた日から1月以内に保税運送を承認した税関長へ提出することで、保税運送の手続きが完了となります。

尚、貨物が何らかの事情で保税運送の期間内に目的地に到着しなかった場合は、運送途中に国内のいずれかの場所で通常通り引き取られたという形で扱われます。つまりはこの時点で関税納付義務が発生し、「保税運送の承認を受けたもの」(貨物の輸入者ではありません)に支払い義務が発生するので、注意が必要です。

郵便物の保税運送について

外国から日本に到着した郵便物のうち、課税価格は20万円以下の特定郵便物は、日本郵便株式会社により名宛人のところに配送されます。一方で課税価格は20万円を超える郵便物に関しては、

① 通関郵便局等で輸入通関手続きがされる
② 税関長の承認を受けて他の保税地域に保税運送され通関手続が行われる

の2パターンが考えられます。

この中で①の場合は外国貨物のまま保税地域等へ運送する必要が出てきますので、以下のような手続きを踏む必要があります。

手順① 届出 郵便物を保税運送しようとするものは、「郵便物保税運送届出書」を発送地または到着地の税関に提出することで、保税運送の届出を行う
手順② 確認 運送目録を税関に提出し、その確認を受けなければならない
手順③ 到着 郵便物が到着した際は、上記②の運送目録を遅滞なく、到着地の税関に提出する
手順④ 運送目録の提出 運送目録は、③の到着の確認を受けた日から1月以内に、税関長へ提出しなければならない

尚、通常の保税運送の場合と同様に、郵便物が何らかの事情で「発送の日の翌日から起算して7日以内」に目的地に到着しなかった場合は、運送途中に国内のいずれかの場所で通常通り引き取られたという形で扱われます。

つまりはこの時点で関税納付義務が発生し、「郵便物の保税運送の届出をしたもの」(郵便物の受取人ではありません)に支払い義務が発生するのです。

特定保税運送制度とは

特定保税運送制度とは、コンプライアンス(法令順守)が確保されている貨物という大前提のもとで、予め税関長の承認を受けた者(特定保税運送者)について、簡易な手続きのみで保税運送を行うことを可能にする制度です。

特定保税運送者になると、「特定区間で、かつ政令で定める区間」内で行う保税運送に関しては、承認を要しないというメリットが付与されます。コンプライアンスを遵守している貨物を扱う者という位置づけのため、特定保税運送者の資格は一種のステイタスでもあり、同時に実務上では手続きの簡素化という大きなメリットを得ることが出来るのです。

特定保税運送者の承認を受ける条件

特定保税運送者になり得る者は通関業者だけでなく船会社やトラック会社など多様にありますが、いずれも税関長により特定保税運送者として、貨物のセキュリティ管理等がしっかり行われていると認められているものに限ります。特定保税運送者の承認を得ることが出来る者をまとめると、以下のようになります。

原則 実務等の経験を「3年以上」行っているもの
【例外】
3年を経過しているという要件がないもの
  • 認定通関業者
  • 特定保税承認者(保税蔵置場の許可または保税工場の許可の特例の承認を受けたもの)
【例外】
3年を経過しているという要件「のみ」必要なもの
  • 保税蔵置場の許可を受けているもの
  • 保税工場の許可を受けているもの
  • 指定保税地域で貨物を管理するもの
  • 総合保税地域で貨物を管理するもの
【例外】
3年を経過しているという要件に加えて、過去3年に保税運送をした経験が必要なもの
  • 船会社
  • 港湾運送会社
  • 航空会社
  • 貨物利用運送事業者(フォワーダー)
  • 貨物自動車運送事業者(トラック)

特定保税運送者の承認の前提は、過去3年における実務経験です。それが条件となり、上記3つのいずれかに当てはまる業者が特定保税運送者の承認の要件になりますので、明確に区別して理解をする必要があるでしょう。

通常の保税運送と特定保税運送の違い

特定保税運送の場合の大きなメリットは、税関長の承認を受ける必要がないというのは既に述べました。それでは特定保税運送と通常の保税運送の手続きの違いとしては、他に何があるのでしょうか。

答えは、「税関長の承認が不要」という点のみが最大にして、唯一の違いとなります。

それ以外の具体的な手続き、例えば運送目録を提出して発送確認の義務や到着確認の義務、さらには到着から1月以内に発送地の税関に運送目録を提出するなども、通常の保税運送の手続きとほとんど遜色がないのです。

特定保税運送はコンプラインス順守などの点で一定の利点はありますが、それ以上に、保税運送自体が税関長の目の届かない範囲で行われるという点に重点が置かれているところから、やはり必要最低限の手続きはどの業者も行う必要があるという理解で良いのではないでしょうか。

難破貨物の運送について

難破貨物とは、遭難などの不慮の事故で船舶や航空機の外に出てしまった貨物を指します。この難破貨物に関しては、その貨物が置いてある場所から、開港・税関空港・保税地域・税関官署に外国貨物のまま運送することが出来ます。

難破貨物はほとんどの場合、予期せぬ事情により難破貨物になってしまった外国貨物という事情をはらんでいます。つまりは難破貨物とは日本のどこに到着するかわからない貨物とも言え、輸入(あるいは積戻し)のため、その場所から開港・税関空港・保税地域・税関官署等に輸送する必要が出てくるのは想像に難くありませんよね。

このような場合でも原則としては、税関長の承認を受けなければなりません。ただし実際にはその場所に税関が設置されていないという場合も考えられるため、税関職員の承認でも可とされています。さらに緊急を要する際に税関職員がいない場合は、警察官に予め届け出ることで、この難破貨物の運送をすることが出来ます。

ただし、難破貨物ではあってもそれが開港・税関空港・保税地域・税関官署にある場合は、上記のような手続きとはならず、正規の保税運送の手続きを取る必要があります。

まとめ

通関士の試験対策では、様々な運送の形態を理解し、それらが税関長の承認を得る必要があるのかどうかという出題が多くみられます。

一方で現場に目を向けてみると、特に特定保税運送者に関しては船や航空会社、トラックなどの実際の運送業種と大きなつながりのある内容となっています。

試験対策はもちろん、実際の現場で従事する方にもしっかり理解しておきたいのが、この保税運送のトピックスではないでしょうか。

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