EPA税率は3つの条件で攻略可能!実務時のポイントについても解説。

握手している男性

EPAってそもそも何!?たくさんあって難しそう…。国ごとに異なるので面倒…。このように感じがちですが、基本的な3つの適用条件を知れば後は個別判断のみとスムーズです。

関税の節約となることから、増加傾向にあるEPAの基礎知識や実務上のポイントをしっかり押さえておきましょう。

目次

通関士が審査に注意したい!EPAとは?

EPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)とは、双方が合意した一部の国と地域に限って、関税の撤廃や引き下げなどを行うための協定です。よく耳にする自由貿易協定と同じ意味合いであり、一定の国との間では関税が安くなる制度と考えると分かりやすいでしょう。同じ統計品目番号に分類される商品でも、輸入する国によって関税率が異なるため、通関士は審査時に十分注意する必要があります。

また、EPAを結んでいる国からの輸入商品であっても、原産地規則を満たすかどうかの判断が重要なポイントです。

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通関士が知っておきたい!EPAの基礎知識

日本がEPAを結んでいる国はどこ?

日本は、2019年4月現在、以下の17のEPA協定を結んでいます。今後も増加していく可能性が高いため、随時、法改正のチェックが欠かせません。

国名 発効日
シンガポール 2002年11月30日
メキシコ 2005年4月1日
マレーシア 2006年7月13日
チリ 2007年9月3日
タイ 2007年11月1日
インドネシア 2008年7月1日
ブルネイ 2008年7月31日
ASEAN全体 2008年12月1日
フィリピン 2008年12月11日
スイス 2009年9月1日
ベトナム 2009年10月1日
インド 2011年8月1日
ペルー 2012年3月1日
オーストラリア 2015年1月15日
モンゴル 2016年6月7日
TPP11協定(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)(CPTPP) 2018年12月30日
(日本、メキシコ、シンガポール、NZ、カナダ、オーストラリア)
2019年1月14日
(ベトナム)
EU 2019年2月

EPA税率とWTO税率の違いは?

EPA税率とは、経済連携協定(EPA)締約国から輸入される貨物に対して課せられる税率です。一方、WTO税率とは、WTO加盟国から輸入される貨物に対して課せられます。

EPA税率が、一部の国や地域との間でだけ適用されるのに対し、WTO税率は161の加盟国および地域が対象となるため、適用される範囲が大きく異なります。EPA税率は国や地域に限定した税率であり、WTO税率は加盟国や地域すべてに適用される税率だと思ってください。

このように、輸入する商品に課される税率は原産地により異なる点にも注意しましょう。

EPA税率を使うための3つの条件とは?

輸入(納税)申告においてEPA税率を使うためには、大前提として、EPA特恵税率が設定されていることの確認が必須です。その上で、以下の3つの条件を知っておきましょう。

  1. 原産地基準
    以下のいずれかを満たす商品であることが条件です。
    • 完全生産品
    • 実質的な変更を加える加工又は製造したもの
    • 関税分類変更、特定の加工工程、付加価値が特定の条件を満たしたもの
    • 関税分類変更にかかる特例規定の適用を受ける産品
    • 原産材料のみから生産された産品
    簡単にいうと、使用された材料の原産地、使用された非原産地材料の使用割合、加工工程などが法律で定められている基準を満たしているかどうかです。

    EPAを締結している国や輸入する商品ごとに異なる点に注意しましょう。

  2. 原産地手続
    EPA税率を適用するのに必要な原産地を証明する書類の提出が必須です。証明に使用できる書類は主に3つあります。
    • 輸出国発給当局が発行したEPA特定原産地証明書
    • 認定輸出者による自己証明制度
    • 自己申告制度
    EPA特定原産地証明書を除く、残り2つの制度は各EPAで適用可否が異なります。

  3. 運送基準
    基本的に輸出地の船積みから輸入地まで直接運送であることが条件です。

    ただし、必ずしも直行便がある航路ばかりではなく、輸送コストやスケジュールによって積み替えが行われることも少なくありません。

    その場合は「通し船荷証券(Through B/L)」の提示が必要です。通し船荷証券とは、船などの積み替えもしくは、複数の輸送手段を用いた輸送において、全区間をカバーする船荷証券です。

    この船荷証券が発行されているということは、積み替えなどは行われているが、それはあくまでも輸送上の理由であり、輸送中に貨物を開けたり加工したりといったことはしていない証明になります。

これらは3つまとめて原産地規則と呼ばれます。税関審査ではこの3点が細かくチェックされるため、申告前の通関士のチェックでも重要なポイントとなります。

EPA税率適用のメリットとは?

EPA税率適用することのメリットは、関税を節約できることです。同じ商品でもEPA税率を適用するかどうかで税率が大きく変わります。

具体的な例をあげて比べてみましょう。

(例)男性用の羊毛製のジャケット(毛皮なし)を輸入する場合
統計品目番号:6203.31-200
課税標準額:7,000,000円

  • 中国から輸入する場合:9.1%
    (関税額)7,000,000×9.1%=637,000円
  • EPA税率を用いタイから輸入する場合:無税
    (関税額)7,000,000×0%=0円

EPA税率を適用する輸入申告実務のポイント

実際に、EPA税率を適用する輸入申告実務のポイントを5点確認しておきましょう。

1.原産地証明書が必須

EPA税率を適用するためには、EPA締結国を原産地とする輸入商品であることの客観的な証明が必要です。

原産地証明書が不要だと、EPA税率を適用して関税を安くしたいがために、不正をはたらくことが可能となります。たとえば、本来はEPA締結国の原産地規則を満たさない貨物であるにも関わらず、EPA締結国を原産地とするものだと偽ってEPA締結国から輸出しても安い税率が適用されるということが起こります。

前述した通り、基本的に輸出国発給当局が発行したEPA特定原産地証明書を、輸入(納税)申告時に提出することが条件とされています。また偽造などが起こらないように、EPA特定原産地証明書に押印される発給印(印影)に関しても登録されたものでなくてはいけません。

輸入者から提示されたEPA特定原産地証明書が正当なものであるのかを、判断するのも通関士の大事な仕事です。輸入者が知らず知らずのうちに不正なEPA特定原産地証明書を手にしているケースも少なくありません。

2.原産地証明書が不要なケースとは?

EPA税率を適用するにあたって、基本的には原産地証明書が必須となります。しかし少額貨物を輸入する場合は、原産地証明書が不要です。また、通し船荷証券などの提出も省略されます。

少額貨物とは、課税価格の合計額が20万円以下の貨物を指します。

ただし、あくまでも原産地証明書の提出が不要なだけであり、EPA税率を適用するための要件を満たしていることが条件です。

3.原産地証明書に不備がある場合は?

海外で発行された原産地証明書のなかには不備があるものも少なくありません。記載事項が漏れていたり、インボイス番号のスペルが相違していたりするミスが多いため、税関では「不備のある(EPA/GSP)原産地証明書等の取扱い」という文書を出しています。

簡単にいうと、インボイス番号のスペルが相違している、日付の記載が違うなど、軽微なミスであり、輸入貨物との整合性や同一確認が取れるものであれば、使用が可能です。

ただし、発給機関の証明となる印影の押し忘れや、HS番号の相違、有効期間が超過したものなどは使用できません。また、軽微なミスであっても毎回同じミスをしている場合は、輸出者への指導が行き届いていないと判断され、使用を棄却されることもあります。

軽微なミスである場合も、審査官によって認めないこともあるため、輸入(納税)申告前に、税関に確認を求めておくと安心です。確認をしてもらい、使用可能となった場合は、対応してくれた税関職員の名前と日付を記録しておきましょう。そして、実際の輸入(納税)申告時に、「2020/5/3 ××税関官署 山田審査官に軽微なミスと確認済み」と記載しておくと審査がスムーズです。

また、有効期間は各EPA国によって異なります。「船積みから3日以内」など発行日が定められている場合は、必ず船荷証券に記載の船積み日(on board欄)の日付を確認しましょう。記載がないものは、輸入者から船会社に連絡をしてもらい、船積み日が記載された船荷証券を取り寄せてもらう必要があります。船積み日の記載がないと、有効期間を満たしているかどうかの判断ができないため、使用ができなくなります。

ちなみに有効期間が超過していても、正当な理由、たとえば大型連休などで発行機関が休みだったという場合は、使用が可能です。ただし、発行機関が休みであったという客観的証明書が必要です。たとえば、公式ホームページなどに記載の休業のお知らせなどがそれにあたります。

4.積送基準に注意!

輸入されるまでに積み替えなどがある場合、積送基準を満たしていることの証明が欠かせません。

積送基準は以下の2点のいずれかを満たすことがポイントです。

  • 直接運送されていること
  • 積み替えがなされている場合は、第三国での作業は「積卸し」および「産品を良好な状態に保存するために必要なその他の作業のみ」であること

これは船荷証券の以下の記載事項で判断ができます。

Place of receipt(荷受地):Chiang Mai,Thailand(チェンマイ、タイ)
Port of loading(積込港):Penang,Malaysia(ペナン、マレーシア)
Port of discharge(取卸港):Tokyo,Japan(東京、日本)

上記の記載があれば、EPA特恵適用国で荷物が船会社に引き渡され、東京向けの積込地は第三国であるマレーシアであり、最終的に東京が取卸地であることが証明できます。

上記の記載がある通し船荷証券となっているかどうか、船荷証券の確認も忘れずに行いましょう。

5.一般特恵との優先順位は?

関税率には優先順位があります。EPA税率と一般特恵税率が同じ税率の場合「EPA税率」が優先となります。税率が同じだからといって、どちらでも適用できるわけではありません。ただし、特恵税率の方が税率が低い場合は特恵税率が優先となります。

  • EPA税率≧特恵税率
    →EPA税率
  • EPA税率>特恵税率
    →特恵税率

EPA税率と特恵税率が同じ税率の場合に、誤って特恵税率を適用してしまうと、非違となり、輸入(納税)申告の訂正を求められます。支払う税額は変わりませんが適用税率の間違いも、適正な申告とならないためです。

まとめ

EPA税率を適用することで、関税を安くすることができるため、輸入者から事前に相談を受けることも多いものです。相談段階で、正しい情報を輸入者に伝え、EPA税率を適用するために必要な原産地証明書や船荷証券を取り寄せる指導を行っておけば、通関時もスムーズになるでしょう。

各EPA国によって条件や規定が異なるため、最初は面倒に感じますが、都度最新の情報を確認して審査すれば、問題なく通関が行えます。日頃から経済連携協定についてもアンテナをはっておきましょう。

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