通関士を目指す方必見!インコタームズとは?2020と2010の違いも解説!
更新日:2020年5月8日
通関士試験でも、実際の通関業務でも重要なインコタームズに苦手意識を持っている方も多いのではないでしょうか?
混同しやすいインコタームズの基本から覚え方、それぞれのインコタームズの意味合いを詳しく解説します。インコタームズ2020との違いや実務上の疑問についても知っておきましょう。
通関士を目指す方が悩みがちなインコタームズの基本
インコタームズはIncotermsの日本語読みであり、英語のInternational Commercial Termsを組み合わせた略称です。インコタームズは国際商業会議所(ICC)が定めた国際規則で、貿易取引において使われています。
言語や慣習が異なる貿易取引においては、以下の2つの理由から世界共通の規則が必要です。
- 未然のトラブル回避のため
- 万が一のクレーム処理時の指針
荷物の遅延や破損、代金回収をはじめとしたトラブルなく貿易取引を行うために、欠かせないのが「インコタームズ」といえるでしょう。詳しくは後述しますが、インコタームズでは「費用負担」と「リスク負担」の2つの範囲を示しています。
インコタームズとトレードタームとは違うの?
インコタームズとトレードターム(貿易条件)の意味合いは同じです。
貿易取引を行う際、国内取引以上に取引条件を明確に定める必要があります。しかし、世界共通のルールがなければ、万が一のトラブル時に揉め事が起こるでしょう。そのために定められているのが「インコタームズ」です。
インコタームズには2つのグループ分けがあり、全部で11規則あります。そのなかから、どれを採用するかを選択したものが、その貿易取引における個別のトレードタームとなるのです。
つまり、インコタームズを元にトレードタームが決められます。少し整理してみましょう。
目的 | 安心できる貿易取引および代金回収を行うこと |
---|---|
必要な理由 | 国内取引と異なり、使用言語や商取引ルールが異なる |
定めている事項 | 貿易取引における「費用負担」と「リスク負担」の2つの範囲 |
種類 | 2グループ、全11規則 |
トレードタームは、同じ輸出入者同士の取引であっても、取引する商品や社会情勢の変化にともない変わることがあります。そのため、貿易取引ごとにトレードタームの確認が必要です。逆に、同じ輸出入者同士の反復的な取引でも、値段交渉などにより、トレードタームが異なることもあります。
そのため、通関士は輸出入申告書の審査時に、添付書類であるインボイスに記載されたインコタームズを注意して、確認しています。
インコタームズの覚え方は図でイメージすること!
インコタームズは覚えづらいと悩む方も多いでしょう。
実際に、審査をする通関士や輸出入申告書類を作成をする通関従事者でさえ、混乱することがあります。また頭に入っていても、適用されているインコタームズの種類によって微妙にリスク範囲など異なるため、判断ミスをしないよう気を付けないといけません。詳しくは「インコタームズが必要な2つの理由」の章で説明しますが、通関手続きにはインコタームズが必須です。
そこで、多くの通関士や通関士従事者は、以下のように図式化された一覧表で確認しています。
➡通関士についてはこちらインコタームズが必要な2つの理由
インコタームズは、商取引と通関手続きの両方に必要です。商取引上、どのように設定されるのか、通関手続きのどの部分で必要となるのかをみていきましょう。
1.商取引における費用負担とリスク負担の線引き
まず一つ目は「商取引における費用負担とリスク負担の線引き」に必要です。以下を取り決めしていないと、万が一のトラブル時に困ることになります。
- 商品代以外の費用(輸送費、保険料など)をどちらがどこまで負担するのか?
- リスク負担をどちらがどこまで負うのか?
具体的には、以下の4項目を基準にどのインコタームズを選択するかを決定します。
- 貿易取引ごとの建値(Price Quotation)
(例)FOB
※インボイスなどへの記載は「FOB 地名」 - 商品の引渡場所
(例)SHANGHAI - リスクの移転時期
(例)輸送する船に乗せた時点 - 売主*1と買主*1の費用分担の分岐点
(例)輸送する船に乗せた時点
インコタームズは、「FOB」「CIF」のようにアルファベッド3文字で表現されます。これが、上記の貿易取引ごとの建値(Price Quotation)のことです。インボイス上は「FOB SHANGHAI」と記載されます。この「SHANGHAI」が上記の商品の引渡場所を指します。
つまり「FOB SHANGHAI」とは、SHANGHAI(中国・上海港)から輸送する船に乗せた時点がリスクの移転時期であり、そこから先の費用負担は輸入者となります。そして、売主と買主の費用分担の分岐点は、SHANGHAIから輸送する船に乗せた時点です。
文章を読むと、難しいと感じがちですが、基本的には国内取引と大きく変わりません。費用や何かあった時のリスクの線引きを決めておきましょうということです。
2.通関手続きに必須!
インコタームズは、輸出入時どちらの通関手続きにも必要です。そこで、通関業者に提出するインボイスには必ずインコタームズを記載しなくてはいけません。
まず輸出申告書には、インコタームズに関係する記載欄が2か所あります。以下を埋めるためには、仕入書(インボイス)にインコタームズの記載が必要です。
- 仕入書価格
(記載例)CIF-JPY-1,000,000 - FOB価格
(記載例)JPY- 820,000
輸入(納税)申告書には以下を記載します。関税を計算する基礎となる課税標準の算出に大事な情報となります。
- 仕入書価格
(記載例)A-CIF-JPY-1,000,000
インコタームズ2010の4つのグループ
実務上使用されるインコタームズは、主に2010と2020の2つに分かれます。両者の違いは1点のみのため、一般的にはインコタームズ2010をベースとして使用されます。
インコタームズ2010はもう一つの分類方法として、4つのグループ11の規則に分けることができます。グループごとに解説していきましょう。
Eグループ | EXW | Ex Works | 工場渡・指定引渡地) |
---|---|---|---|
Fグループ | FCA | Free Carrier | (運送人渡・指定引渡地) |
FAS | Free Alongside Ship | (船側渡・指定船積港) | |
FOB | Free on Board | (本船渡・指定船積港) | |
Cグループ | CPT | Carriage Paid To | (輸送費込・指定仕向地) |
CIP | Carriage and Insurance Paid To | (輸送費保険料込・指定仕向地) | |
CFR | Cost and Freight | (運賃込・指定仕向港) | |
CIF | Cost, Insurance and Freight | (運賃保険料込・指定仕向港) | |
Dグループ | DAT | Delivered at Terminal | (ターミナル持込渡・仕向港または仕向地における指定ターミナル) |
DAP | Delivered at Place | (仕向地持込渡・指定仕向地) | |
DDP | Delivered Duty Paid | (関税込持込渡・指定仕向地) |
1.買主の負担が最も大きい!Eグループ
Eグループに属するのは「EXW」です。Ex Worksの略で売主の工場もしくは倉庫で貨物の引渡が行われます。つまり、それ以降の輸出申告の手配や責任はすべて買主が負うため、買主の負担が最も大きい契約条件となります。
買主は輸出国にある業者に依頼し、工場からの引き取りや輸出申告を行います。手間がかかるというデメリットと安い業者を選定して依頼することでコストを抑えることができるメリットがあります。
2.費用と危険移転のタイミングが同じ!Fグループ
Fグループは「FCA」・「FAS」・「FOB」の3つです。Fグループの特徴は、費用と危険移転のタイミングが同じであることです。それぞれの条件をみていきましょう。
FCA
FCAはFree Carrierの略です。買主が指定する運送人(Carrier)に荷物を渡した(Free)時点で、売主の責任下を離れます。EXWと混同しがちですが、以下の2点が異なります。
- 輸出申告は売主が行う
- 引渡地が売主の敷地内にある場合、積込作業は売主が行う。敷地外の場合は不要
FAS
FASはFree Alongside Shipの略です。指定された船積港で積載予定船舶(Ship)の船側(Alongside)に置く(Free)までが、売主の費用と危険負担です。船への積込から、買主の費用と危険負担がはじまります。
コンテナにバンニングされた貨物の輸送ではなく、木材などバラで積込む貨物に適した契約条件です。
FOB
FOBはFree on Boardの略で、指定された船積港で積載予定船舶の船上に置く(Free on Board)までが売主の費用と危険負担です。FASと似ていますが、FASは荷物が船に積込まれていない、FOBは積込まれた時点という部分が異なります。
3.費用と危険移転のタイミングが違う!Cグループ
Cグループは「CPT」・「CIP」・「CFR」・「CIF」の4つです。Cグループは、費用と危険移転のタイミング異なります。共通点は以下の2点です。
- 危険移転のタイミング
→売主が買主の指定した運送人に荷物を引き渡したとき(CPT、CIP)
→買主に指定された船積港で積載予定船舶の船上に置かれたとき(CFR、CIF) - 輸送費(運賃)は売主負担
細かな違いは、以下をご確認ください。
CPT
CPTはCarriage Paid Toを略したものです。輸送費込条件と呼ばれ、売主が指定仕向地まで(To)の送料(Carriage)を支払済(Paid)という意味合いです。コンテナ船を想定した条件の一つです。
CIP
CIPはCarriage and Insurance Paid Toの略で、上記のCPTに加えて指定仕向地までの保険料も売主が負担します。輸送費保険料込条件と呼ばれ、コンテナ船輸送に使用されます。
CFR
CFRはCost and Freightの略で、C&Fと略されることもあります。指定仕向港までの運賃込条件なので、輸出するまでにかかる輸出国内での費用(Cost)と運賃(Freight)は売主負担です。
CIF
CIFはCost, Insurance and Freightの略で、上記のCFRに加えて指定仕向港までの保険料(Insurance)が売主の負担となります。
4.売主の負担が最も大きい!Dグループ
Dグループは「DAT」・「DAP」・「DDP」の3つからなります。Dグループは4つのグループのうち、売主の負担が最も大きいのが特徴です。それぞれの条件をみていきましょう。
DAT
DATはDelivered at Terminalの略です。費用と危険負担のタイミングは同じであり、買い売主が指定した港もしくはターミナル(Terminal)まで(at)、荷卸しされた(Delivered)ときです
DAP
DAPはDelivered at Placeの略です。仕向地(Place)まで(at)届けた(Delivered)ときに、費用と危険負担が買主に移転します。仕向地は輸送する船が到着する港でなく、内陸部であるのが一般的です。そのため、輸入通関手配や通関にかかる費用も売主が負担すると思われがちです。しかし、仕向地での輸入通関の手配、関税や通関業者に支払う手数料などは買主負担となる点に注意が必要です。
DDP
DDPはDelivered Duty Paidの略で、DAPで省かれた通関費用、関税なども売主が負担する条件です。指定仕向地までの関税込(Duty Paid)で持込渡し(Delivered)されるのが特徴です。売主の負担が11規則のうち、最も大きいのがDDPです。
インコタームズに関する実務的な疑問を解説!
インコタームズが実務上どのように使用されているのか、通関士が課税標準をどうやって算出しているのかなど、実務的な疑問を解説します。
1.どのインコタームズの使用が多いの?
11規則あるインコタームズのうち、根強く使われているのが「FOB」・「CFR」・「CIF」です。この3つは売主の負担の危険負担が「指定された船積港で積載予定船舶の船上に置かれたとき」と共通です。特に海上輸送において多用されるインコタームズです。
FOBに運賃をプラスしたものが、CFR。CFRに保険料を加えたものがCIFと、費用負担も分かりやすく、通関上の計算が楽なのが特徴です。
2.現地費用、関税額などはどうやって算出するの?
輸出申告時には、FOB価格が申告価格となります。また輸入(納税)申告のベースは、保険がかけられていない場合を除きCIFです。そこで現地費用がインボイス価格に含まれている「EXW」や関税額が含まれる「DDP」は、インボイス価格内のいくらがFOBか、もしくはCIFかを計算する必要があります。
いずれの場合も、見積額を疎明資料として提出した上で、課税標準を申告します。現地費用であれば、現地の輸送業者が提示してきた輸送費などの見積書が必要です。また関税額は、現地で輸送を依頼された業者が到着地の業者から関税も含めた見積額を入手し、それを疎明資料とします。
見積書の取り寄せに時間がかかったり、疎明資料との正当性を税関に指摘されないように通関士の審査にも時間がかかったりと、通関上あまり好まれないインコタームズです。
3.通関士は何を見てインコタームズを判断する?
通関士はインボイスの記載を確認し、インコタームズを判断します。まれに輸出者が記載を漏らしていることもあり、その場合は輸入者経由で輸出者にインボイスの修正を依頼します。
また、インボイスに記載されているインコタームズと船会社が発行する船荷証券の記載内容が相違することがあります。具体的な例をご紹介します。
(インボイス)
- FOB SHANGHAI
→売主の負担:SHANGHAI(中国・上海港)から輸送する船に乗せるまでの費用 (船荷証券) - FREIGHIT PREPAID
運賃は前払い(現地払い)
インボイスでは船に乗せるまでの費用までが売主負担になっているにも関わらず、船荷証券の記載では運賃が現地(上海港)で支払われているという矛盾点があります。この場合、インボイスもしくは船荷証券のどちらかに間違いがあるため、通関士から確認が入るケースです。
ただし、上記のケースは必ずしも間違いではありません。現地で売主が一旦運賃を立て替え、買主がインボイス額とは別に支払うというケースもあります。これらを含めて、商取引のお金の流れを確認するのも通関士の大切な仕事です。
インコタームズ2010と2020の違いは?
インコタームズ2010と2020の主な違いは以下の点のみです。
- DグループのDATが無くなった
- DATの代わりに、DPUが増えた
DPUとはDelivered at Place Unloadedの略です。指定仕向地(Place)まで(at)の費用を売主負担で運んだ(Delivered)後、荷卸しをした(Unloaded)状態で引き渡す条件です。費用と危険負担移転のタイミングは同じですが、「保険は売主の責任ではない」とされているため、通関時の課税標準算出時には注意しましょう。
Dグループ | DPU | Delivered at Place Unloaded | 荷卸込持込渡(指定仕向地) |
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インコタームズ2020が発行された今でも、インコタームズ2010と2020が併用されています。実務上、どちらを使用するかは売主と買主の契約時に取り決められます。通関には影響しませんが、船荷証券の裏側に記載されている輸送約款が多少変わるため、商取引上はどちらの契約をしているかを記載しておくのがいいでしょう。
まとめ
インコタームズは、商取引においても通関上でも重要な役割を担っています。ご紹介した一覧表を手元に置き、都度確認することで頭に入れていきましょう。インコタームズの略語の意味を理解しながら覚える方法もおすすめです。