通関士試験や通関実務でも必須!課税価格の求め方のポイントとは?

電卓を打っている女性

通関士試験の実技問題を制するためには、課税価格を正しく求めることが必須です。課税価格の求め方を、条文を紐解きながら、分かりやすく解説します。

目次

関税額を左右する課税価格とは?

課税価格とは、関税が課される対象になる価格、つまり、関税の算定基礎になる価格のことです。

課税価格を求める方法は主に2つ

関税を計算するためには、まず輸入(納税)申告における課税価格を求めなくてはいけません。関税を求める方法は主に次の2つに分けられます。

  • 原則的な課税価格の決定方法
  • 則的な課税価格の決定方法以外の方法

それぞれについて解説します。

原則的な課税価格の決定方法

1つ目は「原則的な課税価格の決定方法」であり、関税定率法第4条に「課税価格の決定の原則」として以下の通り定められています。

(引用)
“輸入貨物の課税標準となる価格(以下「課税価格」という。)は、次項本文の規定の適用がある場合を除き、当該輸入貨物に係る輸入取引(買手が本邦に住所、居所、本店、支店、事務所、事業所その他これらに準ずるものを有しない者であるものを除く。以下同じ。)がされた場合において、当該輸入取引に関し買手により売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格(輸出国において輸出の際に軽減又は払戻しを受けるべき関税その他の公課を除くものとする。)に、その含まれていない限度において次に掲げる運賃等の額を加えた価格(以下「取引価格」という。)とする。”

条文を分解して読み解いてみると、ポイントが3つあります。

  1. 輸入取引による価格であること
    • プレゼントなどの贈与や、貸し借りといった賃貸借ではない、売買取引であること
    • 売買取引が日本に貨物を到着させること(輸入)を目的としており、実際に到着していること
  2. 買手が輸入取引を成立させるために「現実に支払った」もしくは「支払うべき」価格
    • 輸入取引の成立に必要なものであること
    • 売手もしくは売手のためのものであること
    • 現実に支払った価格=現実支払価格は、インボイス価格と必ずしもイコールではない
  3. 上記に運賃などの額を加えた価格
    • 輸送に要した運賃や保険料など

1.現実支払価格

現実支払価格は以下の公式で求められます。

現実支払価格=仕入書価格(インボイス価格)+加算要素-控除費用

なお、加算要素と控除費用は必要な場合のみ加減算します。そのため、加算すべき要素が何か、控除すべき費用は何かを理解しておくことが大切です。

2.加算要素

課税価格を計算する際には、関税定率法第4条の規定にある「その含まれていない限度において次に掲げる運賃等の額を加えた価格」を加算しなくてはいけません。これが加算要素と呼ばれるものです。

加算要素は、以下の5つです。

1号:輸入港までの運賃など
2号:手数料・容器包装の費用
3号:無償等により提供される物品・役務
4号:特許権等の使用に係るロイヤルティ等
5号:売手帰属収益

具体的にどのようなものが加算要素にあたるかは、加算要素を解説した別記事でご確認ください。
https://www.foresight.jp/tsukanshi/column/addition-element/

3.控除費用

インボイス価格に以下の費用が含まれている際は、控除して課税価格を求めます。ただし、控除すべき費用が明らかな場合に限られます。費用が分からない場合は、控除できないので、注意しましょう。

  1. 輸入申告の日以後に行われる据付け、組立て、整備、技術指導に要する役務の費用

    ここでのポイントとなるのは「輸入申告の日以後に行われたもの」であることです。課税価格は輸入取引を成立させるために支払われる費用であり、輸入申告の日以降に発生するこれらの作業は、輸入取引成立にはなんら関係がない費用だからです。

  2. 輸入港に到着後に発生する運賃、保険料、運送に関連する費用

    1と同様に、輸入港到着後の日本国内で発生する、運搬費用や保険などは、輸入取引成立とは関係がない費用です。

    輸出者との契約条件が、DDU(関税抜き持込渡し)の場合がこれにあたります。DDUは、輸出者の費用負担が、売手の戸口から買い手側指定仕向地までです。そのため、指定地が輸入港でなく指定倉庫などの場合、輸入港から指定倉庫までの輸送費がインボイス額に含まれています。

  3. 日本国内で課される関税その他の公課

    日本国内で発生する関税などの税金も、輸入取引成立以降のことなので、控除費用となります。

    輸出者との契約条件がDDP(関税込持込渡)の場合がこれにあたり、買主が指定した仕向地までのすべての輸送費と関税額が売主負担となります。

    つまりインボイス額は、日本で発生する関税額も見込んだ価格になっています。

  4. 延払条件付取引における延払金利

    延払金利も、輸入取引以降に発生する費用であるため、課税価格には含まれません。

原則的な課税価格の決定方法以外の方法

課税価格を求める方法の2つ目は「原則的な課税価格の決定方法以外の方法」です。これは、前述した「原則的な課税価格の決定方法」で課税価格が求めることができない次の3つの場合に使用する方法です。

1.輸入貨物に係る輸入取引に関し特別な事情がある場合

以下のような特別な事情がある場合は、その事情がインボイス価格に影響を与えていると判断されます。

  1. 買手による輸入貨物の処分又は使用についての制限がある場合

    たとえば、輸入貨物を展示用や慈善用にしか使用しないという条件を付けて、価格を安く設定している場合です。

    また、売手の特殊関係者のみに再販売することを条件として、価格を下げている場合も同様です。

    同種の貨物を輸入するにあたって、通常の輸入取引をした輸入者が支払う関税額と差が生じることは不公平です。そのため、インボイス額を計算の基礎とはしません。

  2. 輸入貨物の課税価格の決定を困難とする条件が輸入取引に付されている場合

    具体的には、別の貨物を一定数量購入することで輸入貨物の価格が設定されている場合が該当します。いわゆる抱き合わせ販売のようなケースです。

  3. 買手による輸入貨物の処分又は使用による収益で、直接又は間接に売手に帰属するものの額が明らかでない場合

    加算要素に含まれる「売手帰属収益」が発生する取引において、売手にキャッシュバックされる価格が明らかでない場合がこれにあたります。

  4. 特殊関係者間における輸入取引で取引価格がその影響を受けている場合

    特殊関係者間における輸入取引で取引価格がその影響を受けていると判断するポイントは2つです。
    • 特殊関係にあるもの同士の輸入取引であること
    • 特殊関係にあることが、取引価格に影響していること
    ちなみに特殊関係とは、以下の関係性が該当します。ただし、特殊関係が取引価格に影響を及ぼさない場合は、特別な事情に該当しません。

    • 役員
    • 共同経営者
    • 使用者
    • 5%以上の社外株式所有
    • 親族関係


2.輸入貨物が輸入取引によらないものである場合

輸入取引によらないものとは、以下のケースです。

  • 無償貨物
  • 委託販売のために輸入される貨物
  • 売手の代理人により輸入され、その後売手の計算と危険負担によって輸入国で販売される貨物
  • 賃貸借契約に基づき輸入される貨物
  • 送り人の所有権が存続する貸与貨物
  • 同一の法人格を有する本支店間の取引により輸入される貨物
  • 本邦で滅却するために、輸出者が輸入者に滅却費用を支払うことにより輸入される貨物

ここでいう「輸入取引」に該当するポイントもおさえておきましょう。

  • 日本に拠点を持つ者が買手であること
    ※拠点とは住所、居所、本店、支店、事務所、事業所など
    ※個人、法人を問わない
  • 上記の買手が貨物を日本に到着させる目的で、売手との間で売買を行ったこと
  • 現実に、貨物が日本に到着することとなったもの

3.輸入貨物の課税価格について疑義が解明されない場合

輸入貨物の課税価格を算出した根拠となる資料の正当性がない場合がこれにあたります。

具体的には、輸入申告を行おうとしている貨物と提出した書類の整合性が取れない場合や、補足資料として提出した資料でも、課税価格が計算できない場合を指します。

課税価格算出時に知っておきたいポイント

課税価格を算出する際に知っておきたい実務上のポイントをご紹介します。

無償貨物の課税価格は?

原則的な課税価格の決定方法以外の方法で課税価格を求めるというところでも出てきましたが、無償貨物は輸入取引に該当しません。

ただし、無償貨物が日本に到着し国内流通させる場合には、必ず輸入申告が必要です。無償貨物だからといって、関税は0円にはなりません。

これは、貨物をサンプルとしてひとまず仕入れるといった場合に起こりがちです。売手はサンプルとして無償で提供しますが、実際の輸入取引とした場合の価格で輸入申告を行います。

無償貨物の場合、インボイスには「No Commercial Value」とか「Free of charge」といった記載がされています。この場合は、輸入者経由で輸出者に価格を記載したインボイスを発行してもらうか、輸入者が確認した価格を手書きなどで記載し社印などを押印して代用します。

課税価格に値引きがあるときの注意点とは?

課税価格を求める際に、インボイスに値引きが記載されていることがあります。以下のように「-(マイナス)」もしくは「▲」記載があり、合計価格から差し引かれているのでわかります。

-USD 500.00
▲USD 500.00

値引き後の価格を課税価格とする場合と、値引き前の価格を課税価格とする場合があるので注意しましょう。

1.値引き後の価格を課税価格とする場合

基本的に、輸入申告をしようとしている貨物にかかる輸入取引に関するものは、値引き後の価格をそのまま、課税価格とします。具体例をみていきましょう。

  • 数量値引き
    一定数量以上購入することで付される割引

    大量に買ってくれたので、いくらか割引しましょうという、国内取引でもよくある割引です。

  • 前払値引き
    貨物が日本に到着する前に、全額前払いすることで行われる割引額

    貨物が手元に届いていないにも関わらず、前払いしてくれたことに対するお礼のような割引です。

  • 現金値引き
    現金で支払いを行うことを条件とした値引き

    現金で支払われるのと、カードなどで支払われるのでは、手元にお金が入るタイミングが異なります。すぐに現金が手に入る現金払いは、売手にとって資金回収のタイミングが早いので割引などの便宜がはかられます。

これ以外にも、初回購入の割引、在庫整理割引(旧モデル商品など)、季節割引なども、基本的には値引き後の価格を課税価格とします。ただし、特殊関係にある場合や契約条件などによっては、値引き前の価格となることもあるため、注意が必要です。

2.値引き前の価格を課税価格とする場合

値引き後の価格を課税価格とする場合は、その値引きが今回の輸入取引に無関係である場合です。

よくあるケースが「相殺値引き」です。

前回輸入した貨物に不良品があった、数が足りなかったなどの理由で行われる相殺値引きは、今回の輸入取引には課税価格を算出するにあたっては無関係です。

相殺値引きの場合は、(Discount for Invoice No.Fdg2158=インボイス番号Fdg2158に対する値引き)と記載されていることもあります。

ただし、-USD 500.00のように値引き額だけが記載されている場合は、何の値引きであるかを輸入者に確認することが大切です。

前回と同じ、数量値引きだろうと思い、確認せずに輸入申告を行ってしまい、税関からの確認により輸入者に確認すると、実は相殺値引きだったというケースも少なくありません。

課税価格を過少にしないために通関士が確認すべき2つの事項

課税価格が本来よりも過少になることをアンダーバリューといい、これは過少申告加算税などの対象にもなります。課税価格を過少にしないために、輸入申告前に通関士が確認すべき2つの事項を知っておきしょう。

1.輸入取引の形態と関係する人物

まず1つ目は、輸入取引の形態とそこに関係する人物について確認しましょう。

特に、はじめて通関依頼をもらった輸入者や従来から取引のある輸入者でも新規顧客との輸入、既存顧客からの新しい商品の輸入などの場合は、輸入者に会うなどして話を聞けれるのがベストです。

難しい場合、「輸入通関確認書」などを使って確認しておきましょう。口頭ではなく、書面で確認することで、税関などに説明する資料としても使用できます。

「輸入通関確認書」には、たとえば以下のような簡単な質問形式にしておき、具体的な部分や不明点は追って確認するのがおすすめです。

  • 輸入取引にあたって、仲介者はいますか? (はい・いいえ)
  • 親会社・子会社の関係や、株式の保有など特殊関係はありますか?(はい・いいえ)
  • 仲介者がいる場合、仲介手数料などは支払っていますか? (はい・いいえ)

2.お金の動き

2つ目は、輸入者の支払うお金の動きです。

一般的に、輸入者が輸出者に商品代金などを支払うのは通常の輸出入取引です。ただし、別の第三国の会社に支払っている場合、三国間貿易をしている可能性があります。

また、今回の輸入取引に関して商品代以外のお金の支払いがないのかを確認することで、前述の貿易形態だけでなく、別払い費用の有無も確認できます。

課税価格の計算方法と具体例

課税価格の計算方法を、具体例をあげて確認していきましょう。前述した通り、課税価格は以下の式で求められます。

課税価格=仕入書価格(インボイス価格)+加算要素-控除費用

事例1

中国の上海から神戸港まで商品Aを輸入する場合の課税価格を求めましょう。条件およびかかった費用は以下の通りです。

  1. インボイス価格 USD1,000.00(FOB KOBE)
  2. 中国の工場から上海港までの輸送費 CNY150.00
  3. 中国での梱包費用 CNY70.00
  4. 上海港から神戸港までの海上運賃 USD200.00
  5. 上海港から神戸港までの海上保険料 JPY5,000
  6. 買手により売手に無償で提供されたラベル費用 JPY3,000
    ※USD=105円、CNY=15円とする

上記のうち、加算要素にあてはまるものは、4と5と6の費用です。2と3の費用は加算されません。それはインコタームズがFOB(本船甲板渡し条件)であることから、すでにインボイス価格に反映されていると考えられるためです。

ただし、インコタームズがEXW SHANGHAIの場合は、インボイス価格が工場渡しの価格となるため、2と3の費用も加算要素となります。

今回、控除費用はありませんので、課税価格は以下の通り求められます。

USD1,000.00(インボイス価格)+USD200.00(海上運賃)+JPY5,000(保険料)+JPY3,000(ラベル費用)

課税価格を算出するため、日本円で計算すると
JPY 126,000(=USD1,200.00 × JPY105) +JPY5,000+JPY3,000 の合計となり
JPY 134,000が課税価格となります。

事例2

次に、カンボジアのプノンペンから東京港まで商品Bを輸入する場合の課税価格を求めましょう。条件およびかかった費用は以下の通りです。

  1. インボイス価格 USD8,000.00(DDU TOKYO FACTORY)
    ※インボイス価格は相殺値引き ▲USD500.00を差し引いた価格
  2. カンボジアの工場からプノンペン港までの輸送費 USD150.00
  3. プノンペン港から東京港までの海上運賃 USD400.00
  4. 東京港から仕向地である東京工場までの運賃 JPY35,000
  5. 買手がデザイナーに支払ったデザイン費用 JPY50,000
    ※売手にはデザインは無償提供
  6. 買手により売手に有償で提供したラベル費用 JPY3,000
    ※USD=105円

まず、課税価格を求める上でのインボイス価格はUSD8,500.00(相殺値引き前の価格)となります。今回の輸入取引に関係のない値引きなので、差し引くことはできません。

上記のうち、加算要素にあてはまるものは、5の費用です。2、3、6の費用は加算されません。それはインコタームズがDDU(関税抜き持込渡し)であることから、すでにインボイス価格に含まれているためです。また、6のラベル費用は有償で提供されていることから、インボイス価格に反映されていると判断します。

4は、日本に到着後の国内費用であるため、課税価格には含まれず、控除費用となります。

よって、課税価格は以下の通り求められます。

USD8,500.00(相殺値引き前のインボイス価格)+JPY50,000(デザイン費用)-JPY35,000(東京港から東京工場までの輸送費)

課税価格を算出するため、日本円で計算すると
JPY 892,500(=USD8,500.00 × JPY105) +JPY50,000-JPY35,000 となり
JPY 907,500が課税価格となります。

なお、日本到着後の国内費用も売手が負担しているため、費用が分からない場合は、課税価格を求める際に差し引くことはできません。

まとめ

課税価格を正しく求めるためには、まず輸出入の契約条件とお金の流れを知ることが大切です。その条件を元に、原則的な課税価格の決定方法が利用できるのか否かを判断します。そして、加算要素、控除費用などを加減算すれば、課税価格が求められます。

通関士試験合格に向けても、しっかりとポイントを押さえておきましょう。

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