保険法とは?
更新日:2019年11月7日
保険法とは
保険業法が「保険会社に対する業務内容の規制等の監督」について定める法律であるのに対し、保険法は「保険契約の当事者間における契約ルール」について定める法律となっています。
このルールについては、従来は商法に規定されていましたが、社会経済情勢の変化や契約者等の保護に関する規定整備の必要性の高まりなどから、単行法として「保険法」が制定され、平成20年6月6日に公布、平成22年4月1日に施行されました。
「保険法」の施行に伴い、保険契約に関する様々な規定が見直され、保険会社各社は内容に応じ既契約にも対応すべく約款や契約ルールを改定しています。
保険法における各用語の定義
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保険者
保険契約の一方の当事者として、保険給付を行う義務を負う者、一般的に保険会社を指します。
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保険契約者
保険契約の他方の当事者として、保険者と保険契約を締結し、契約上の一切の権利(保険金受取人の変更や契約内容変更請求権等)と義務(保険料支払義務等)を負う者です。
保険契約者は個人(自然人)・法人がなることができます。
保険契約者が未成年の場合は、婚姻している者を除き、親権者または後見人の同意が必要です。
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被保険者
保険事故発生の対象者となる者で、自然人に限られますが、契約内容により複数人も可能です。
原則として、保険契約は被保険者の同意が前提となり、同意がない契約は無効となります。
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生命保険契約
その者の生存・死亡に関し保険者が保険給付を行うもの
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障害疾病額保険契約
その者の傷害または疾病に基づき保険者が保険給付を行うもの
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損害保険契約
損害保険契約により填補することとされる損害を受けるもの
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保険金受取人
保険給付を受ける者として保険契約者に指定された者で、個人(自然人)・法人がなることができ、複数人も可能です
保険法によるおもな改定項目と内容
共済契約の適用
商法では共済は適用外でしたが、保険法では適用範囲が拡大され、共済契約も保険法が適用されます。
障害疾病保険規定の新設
医療保険など、いわゆる第三分野保険に該当する保険契約として、障害疾病額保険契約の規定が新設されました。
なお、以下のとおり保険法による区分は、保険業法による第一分野、第二分野、第三分野の区分とは多少異なっています。
保険契約の区分 | 意義 | |
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生命保険契約 | 生存・死亡に関する一定の保険給付 (傷害疾病定額保険を除く) |
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傷害疾病定額保険契約 | 傷害疾病に基づく一定の保険給付 | |
損害保険契約 | 傷害疾病損害保険契約 | 傷害疾病により生ずる損害の填補 |
その他 | 一定の偶然の事故により生ずる損害の填補 |
保険業法による区分
第一分野
年金保険や死亡保険など人の生存または死亡に関して保険金を支払う保険で、生命保険会社が引き受けを行います。
第二分野
火災保険や自動車保険などの偶然の事故により生じる損害を填補するための保険で、損害保険会社が引き受けを行います。
第三分野
医療保険や介護保険、ガン保険などの人が疾病や傷害の治療を受けたことやそれらを原因とする人の状態などを事由として保険金を支払う保険で、第一分野や第二分野の中間に位置することから、第三分野といわれています。
第三分野の保険商品は、生命保険会社と損害保険会社の双方が扱うことができます。
保険契約者等の保護規定の整備とは
片面的強行規定の導入
法律よりも約款を優先する従来の位置づけを見直し、「法律の規定よりも保険契約者等に不利な内容の約款の定めは無効」とする旨が定められました。
告知ルールとは
従来の「自発的申告義務」から、保険者からの質問に応答する「質問応答義務」へ変更されました。
また、保険業法における募集禁止行為のうち、保険募集人による告知妨害や不実告知・不告知を勧める行為等があった場合に、保険契約の解除ができない旨のルールが新設されています。
ただし当該行為がない場合には、告知義務違反により契約は解除されます。
保険給付の履行期とは
適正な保険金支払いのために必要な調査のための合理的期間が経過したときから、保険会社は履行遅延の責任を負担する(遅延利息を支払う等)ことになりました。
被保険者の同意とは
保険契約者と被保険者が異なる死亡保険契約や傷害疾病定額保険契約(原則)については、被保険者の同意のない契約は無効である旨が明確化されました。
なお、傷害疾病定額保険契約については、被保険者と保険金受取人が同一人である場合、または保険金受取人が被保険者の相続人である場合(死亡給付の支払事由が疾病傷害による死亡のみとするものを除く)は、同意が無くても無効にはなりません。
保険金受取人の変更とは
保険金受取人の変更に関するルールが明確化されました(被保険者の同意が必要)。
契約者は保険事故が発生するまでは原則、保険金受取人を変更することができます。
商法では原則不可、例外的に変更可能となっていました。
保険金受取人変更の効力については、「変更の意思表示を保険者に通知」することで可能となり、その意思表示が保険者に到達した場合は「通知時点(書類発送日等)にさかのぼって効力が発生する」としています。
被保険者による解除請求とは
被保険者が同意した前提に変更が生じたとき(離婚等)は、被保険者が契約者に対して契約の解除(解約)を請求できる制度が新設されました。
介入権制度とは
質権者・差押債権者・破産管財人など、契約者以外の解除権者による解除(解約)請求に対し、保険金受取人が一定要件の下、契約継続を申し出ることができる制度が新設されました。
生命保険制度の悪用防止とは
生命保険制度の悪用(モラルリスク)防止のため、保険契約者または被保険者の行為により保険契約の存続を困難にする重大事由(下の例参照)が生じたときは、保険者が保険契約を解除することができます。
例:
保険契約者または被保険者が、保険者に当該保険契約に基づいて保険金を支払わせることを目的として損害を生じさせ、または生じさせようとした場合、被保険者が当該契約に基づく保険金の請求について詐欺を行い、または行おうとした場合。
損害保険ルールの柔軟化とは
従来は契約者等の責任の下「無効」扱いであった超過保険の有効性(取消規定)が新設されたほか、重複保険における保険金支払方式の変更が新設されました。
保険金額が目的物の価額を超える部分の契約でも、契約者が超過保険であることを理解しているなどの一定の場合に契約が有効(近々予定している増改築後の金額で契約する等)となりました。
保険契約者等が意図せず超過保険で契約した場合(善意的でかつ重過失がない場合)、契約者はその超過部分を保険始期に遡及して取消し、保険料の返還を受けることができるようになりました。
重複保険の場合、従来は負担割合の保険金が各社から支払われる方式でしたが、契約者等から請求のあった保険会社はまず保険金全額を支払い、本来負担分を超える金額を保険会社に求償する方法に変わりました。これを独立責任全額方式といいます。
先取特権とは
賠償責任保険の被害者に対する救済措置を目的として、被害者が他の債権者に優先して保険金からの損害賠償金の弁済を受けることができるというルールが新設されました。
そのルールを先取特権といいます。
重大事由による解除とは
契約者等が故意に保険事故を発生させようとする等の重大事由による場合、保険会社が契約を解除できる規定が新設されました。
なお、解除前に発生した保険事故でも重大事由発生以後であれば保険金支払いが免除となります。
保険料の返還の制限とは
保険会社が既払込保険料の返還義務がない場合として、下記2点明記されました。
- 保険契約者、被保険者、保険金受取人による詐欺や強迫を理由として保険契約が取消となった場合
- 保険契約者、被保険者、保険金受取人が、契約申込の際すでに支払事由が発生していることを知っていたために無効となった場合。保険会社がその事実を知りつつ申込を承諾した場合を除きます。
なお、この規定により年払い・半年払いの保険契約において、解約・死亡・減額・特約解約等で契約全体または一部が消滅した場合、または保険料払込免除となった場合、払込保険料に未経過期間があれば、その期間分の保険料相当額が返還される旨約款を改定した保険会社が多くなっています。
従来の商法の規定による保険料不可分の原則が実質的に廃止されました。
以下は法施行日前の既契約についても保険法が適用されます。
ただし、その他の規定についても、施行日以前の既契約を施行日以後に復活・更新・特約中途付加等をする場合には保険法が適用されます。
- 保険給付の履行期
- 保険金受取人の変更(任意規定)
- 介入権制度
- 先取特権
- 重大事由による解除
保険法に関するよくある質問
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「共済契約において商法では適用外でしたが、保険法では適用範囲が拡大」とは、どういうことですか?
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元々保険に関しては、商法で規定がなされていました。
しかし、これは明治時代に規定されたものでしたので、現代に合わせ改正が必要となりました。
商法では、共済保険に関しては含まれておらず、規制の対象外となっていましたが、保険法で規制されるにあたり、共済保険も規制の対象となりました。
「保険法では適用範囲が拡大」とは、上記内容のことを指しています。 -
先取特権とは、具体的にどのような事例をいうのでしょうか?
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被害者が他の債権者に優先して保険金からの損害賠償金の弁済を受けることができるという内容です。具体的には保険会社が倒産した場合、他社が借金の取り立てを行う前に、その保険会社と契約をし、還付金受取義務のある一個人が優先してお金をもらうことができるという内容です。
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介入権制度がよくわかりません。
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介入権制度の制度趣旨は、被保険者の保護にあります。
上記を念頭においた上で、80歳の男性が借金をしていたとします。返済が難しくなり、破産管財人などの契約者以外の第三者が、解約返戻金で返済をしてもらう目的で保険を解約しました。
しかし、その後男性の子供が借金を肩代わりしたお陰で、完済することができました。 この場合、後ほど保険に加入し直そうとしても、80歳という高齢ゆえに再加入が難しくなっています。
このような被保険者を保護する目的で、解約の通知があってから1ヶ月以内に被保険者等が解約返戻金に相当する金額を破産管財人等に支払えば、解約の効力を無くすことができます。そして以前と同様に保険契約を継続させることが出来る制度です。
金山浩晃(かなやま ひろあき)
合格の先をイメージして!
【出身】埼玉県
【趣味】NFL(アメフト)観戦、カフェ巡り
【座右の銘】雲外蒼天