地方自治法における行政委員会とは?種類や職務内容について紹介します。

更新日:2021年7月6日

会議

「行政委員会」とは、複数人の行政委員によって構成される合議制の執行機関のことをいいます。

行政委員会は、①行政運営の公正を保つこと、②行政運営の中立を確保すること、③行政の民主化を実現すること、④専門的知識の要請があることから、長から独立した機関として事務を管理・執行する機関と位置付けられています。

行政委員は、単独で職務を遂行する執行機関ですが、行政委員と行政委員会を合わせて行政委員会と呼ばれることが一般的です。

委員は、基本的には非常勤の特別地方公務員であり、知事の任命又は選挙によって選任されます。

【地方自治法】

第138条の4 普通地方公共団体にその執行機関として普通地方公共団体の長の外、法律の定めるところにより、委員会又は委員を置く。

目次

行政委員会の権限

行政委員会は、上述のとおり、長から独立した立場で職務を遂行するため、長からの指揮監督を受けません。

また、普通地方公共団体の委員会は、法律の規定により、法令又は普通地方公共団体の条例や規則に違反しない限りで、規則や規程を定めることができます。

さらに、行政委員会は、その権限に属する事務の一部を長と協議して、補助機関等に委任や補助執行させることができます。場合によっては、審判や裁定を行う委員会もあります。

予算の調整や執行、議案の提出、決算の認定等は、長の権限であり、委員会の権限ではありません。

【地方自治法】

第138条の4第2項 普通地方公共団体の委員会は、法律の定めるところにより、法令又は普通地方公共団体の条例若しくは規則に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則その他の規程を定めることができる。

第180条の7 普通地方公共団体の委員会又は委員は、その権限に属する事務の一部を、当該普通地方公共団体の長と協議して、普通地方公共団体の長の補助機関である職員若しくはその管理に属する支庁若しくは地方事務所、支所若しくは出張所、第二百二条の四第二項に規定する地域自治区の事務所、第二百五十二条の十九第一項に規定する指定都市の区若しくは総合区の事務所若しくはその出張所、保健所その他の行政機関の長に委任し、若しくは普通地方公共団体の長の補助機関である職員若しくはその管理に属する行政機関に属する職員をして補助執行させ、又は専門委員に委託して必要な事項を調査させることができる。ただし、政令で定める事務については、この限りではない。

行政委員会の種類

行政委員会の種類には、大きく分けて、①都道府県のみに置かれるもの、②市町村のみに置かれるもの、③都道府県と市町村の両方に置かれるものの3種類あります。

以下、それぞれの分類について紹介していきます。

都道府県のみに置かれるもの

都道府県のみに置かれる行政委員会としては、次の5つがあります。

  • 公安委員会
  • 地方労働委員会
  • 収用委員会
  • 海区漁業調整委員会
  • 内水面漁場管理委員会

市町村のみに置かれるもの

市町村のみに置かれる行政委員会としては、次の2つがあります。

  • 農業委員会
  • 固定資産評価委員会

都道府県と市町村の両方に置かれるもの

都道府県と市町村の両方に置かれる行政委員会としては、次の4つがあります。

  • 教育委員会
  • 選挙管理委員会
  • 人事委員会(公平委員会)
  • 監査委員

各行政委員会の職務内容

次に、上述した各行政委員会の具体的な職務内容等について紹介していきます。

公安委員会

警察法に基づき、都道府県警察を管理する機関のことをいいます。

委員は、都道府県の議会議員の被選挙権を持つ者で、任命前5年間警察や検察の職務を行ったことがない者の中から、知事が議会の同意を得て任命します。

任期は3年ですが、2回再任できます。

職務内容としては、都道府県警察の管理運営の他、運転免許証の交付や交通規制、古物商営業許可、風俗営業許可、質屋営業許可等を行っています。

地方労働委員会

地方労働委員会は、使用者委員、労働者委員、公益委員によって構成されます。

委員の人数は、東京で各13人、大阪で各11人です。ただし、条例により、各委員2人ずつ増員することが可能とされています。

使用者委員は、知事が使用者団体の推薦に基づき、任命します。

労働者委員は、知事が労働組合の推薦に基づき、任命します。

公益委員は、知事が使用者委員および労働者委員の同意を得て任命します。

委員の任期は2年です。

職務内容としては、労働組合法等に基づき、労働組合の資格審査や不当労働行為の審査、労働争議の調整等を行っています。

収用委員会

公共事業に必要な土地等の収用に関して公共の利益の増進と私有財産とを調整するために設置される委員会のことをいいます。

委員の人数は7人で、2人以上の予備委員が置かれます。

委員と予備委員は、法律や経済、行政等に関して優れた知識と経験を持ち、公共の福祉に関して公正な判断ができる者の中から、知事が議会の同意を得て、任命します。

任期は3年で、再任できます。

職務内容としては、土地収用法に基づき、土地の収用裁決や使用裁決、和解調書の作成等を行っています。

海区漁業調整委員会

農林水産大臣が定める海区ごとに設置される委員会のことをいいます。

委員の人数は、漁業者の直接選挙によって選出された委員9人と知事によって選任された学識経験委員4人、公益代表委員2人の合計15人です。

ただし、小規模な海区における委員の人数は、漁業者の直接選挙によって選出された委員6人と知事によって選任された学識経験委員3人、公益代表委員1人の合計10人です。

委員の任期は4年です。

職務内容としては、水産動植物の養殖保護や漁場使用における紛争解決等を行っています。

内水面漁場管理委員会

内水面における漁業調整を目的として設置されています。

委員の人数は原則10人であり、都道府県の区域内における内水面で漁業を営む者と水産動植物の採捕を営む者、学識経験者で構成され、知事によって選任されます。

委員の任期は4年です。

職務内容としては、都道府県の区域内の内水面における水産動植物の採捕や培養等を行っています。

農業委員会

農地利用の最適化を目的として設置されています。

各市町村に1つ置かれることが原則であるものの、農地面積が200ヘクタール未満であれば置かないこともできます。

農業委員は、市町村長が議会の同意を得て任命します。

任期は3年です。

職務内容としては、自作農の創設や維持、農地等の利用関係の調整、農地の交換分合、農地パトロール、農業年金関連事務等を行っています。

固定資産評価委員会

委員の人数は、3人以上であり、市町村の条例で定めます。

委員は、当該市町村の住民、市町村の納税義務がある者又は固定資産評価についての学識経験者の中から、市町村長が、議会の同意を得て選任します。

任期は3年です。

職務内容としては、固定資産課税台帳に登録された事項についての不服審査や決定その他事務を行っています。

教育委員会

教育委員会は、教育長と4人の委員で構成されます。

ただし、条例で都道府県もしくは市、地方公共団体の組合のうち都道府県もしくは市が加入する教育委員会は、教育長と5人以上の委員、町村又は地方公共団体の組合のうち町村が加入する教育委員会は、教育長と2人以上の委員とすることができます。

委員は、市町村長が、議会の同意を得て任命します。

委員の任期は、教育長は3年、その他の委員は4年で再任できます。

教育委員会には、その権限に属する事務を処理させるために事務局が設置され、都道府県では「教育庁」、一部の市では「教育局」と呼ばれています。

職務内容としては、公立学校等教育機関の設置、管理、廃止、教職員の任免その他人事関係、学習指導や生徒指導、教科書その他教材の取り扱い、校舎や教具の整備、教育関係職員の研修、幼児の保健、安全、厚生、福利、学校その他教育機関の環境衛生、学校給食、社会教育、スポーツ活動、文化財保護、ユネスコ活動、教育法人関係等を行っています。

選挙管理委員会

委員の人数は、4人であり、当該都道府県もしくは市町村の選挙権を持つ者で人格が高潔かつ政治および選挙に関して公正な識見を持つ者の中から議会において選挙して選任されます。

任期は4年です。

職務内容としては、選挙全般に関する事務、直接請求に関する事務、最高裁判所裁判官の国民審査に関する事務等を行っています。

人事委員会(公平委員会)

人事委員会の委員の人数は3人で、任期は4年です。

委員は、地方自治の本旨および民主的で能率的な事務処理に理解があり、かつ、人事行政に関して識見を持つ者の中から都道府県知事又は市町村長が議会の同意を得て任命します。

職務内容としては、人事行政の運営に関する任命権者への勧告、人事行政に関する研究、調査等、人事委員会の事務局長その他事務職員の任命、職員の競争試験や選考の事務処理、任用候補者名簿の作成、臨時的任用の承認、給与に関する事務、職員の苦情処理等を行っています。

人口15万人以上の市及び特別区には人事委員会の他、公平委員会が置かれます。

また、人口15万人未満の市町村および地方公共団体の組合には公平委員会が置かれます。公平委員会の委員の人数は3人であり、任期は4年です。委員は、市町村長が議会の同意を得て、任命します。

公平委員会の職務内容としては、職員の給与や勤務時間等勤務条件に関する措置の要求審査や職員に対する不利益処分に対する不服申立ての裁決又は決定、職員の苦情処理等を行っています。

人事委員会とは違い、人事行政に関する研究、調査等、職員の競争試験や選考の事務処理の権限はありません。

監査委員

行財政の公正かつ効率的運営の確保を目的として設置されています。

監査委員は独任制の機関です。

監査委員の定数は、都道府県及び政令で定める市では4人、その他の市及び町村では2人です。ただし、条例で定数を増加することもできます。

監査委員は、人格が高潔で、財務管理や事業の経営管理その他行政運営に関して優れた識見を有する者と議員の中から、都道府県知事又は市町村長が、議会の同意を得て任命します。

ただし、議員選出監査委員については、条例で選任しないことができます。

任期は、識見を有する者から選出された監査委員は、4年であり、議員から選出された監査委員は、議員の任期に準じます。

職務内容としては、定例監査、工事監査、随時監査、行政監査、決算審査、財政援助団体等の監査、住民監査請求に基づく監査等を行っています。

国の行政委員会

国に置かれる行政委員会は、独立行政委員会とも呼ばれています。国の行政委員会の種類には、以下のものが挙げられます。

  • 国家公務員法第3条に基づいて内閣に設置される人事院
  • 内閣府設置法第49条、第64条に基づいて設置される内閣府の外局で、公正取引委員会、国家公安委員会、個人情報保護委員会、カジノ管理委員会
  • 国家行政組織法第3条に基づいて他の法律の規定により設置される省の外局で、公害等調整委員会、公安審査委員会、中央労働委員会、運輸安全委員会、原子力規制委員会

【国家公務員法】

第3条 内閣の所轄の下に人事院を置く。人事院は、この法律に定める基準に従つて、内閣に報告しなければならない。

【内閣府設置法】

第49条 内閣府には、その外局として、委員会及び庁を置くことができる。

第64条 別に法律の定めるところにより内閣府に置かれる委員会及び庁は、次の表の上欄に掲げるものとし、この法律に定めるもののほか、それぞれ同表の下欄の法律(これに基づく命令を含む。)の定めるところによる。

公正取引委員会 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
国家公安委員会 警察法
個人情報保護委員会 個人情報の保護に関する法律
カジノ管理委員会 特定複合観光施設区域整備法
金融庁 金融庁設置法
消費者庁 消費者庁及び消費者委員会設置法

【国家行政組織法】

第3条 国の行政機関の組織は、この法律でこれを定めるものとする。

2 行政組織のため置かれる国の行政機関は、省、委員会及び庁とし、その設置及び廃止は、別に法律の定めるところによる。

3 省は、内閣の統轄の下に第五条第一項の規定により各省大臣の分担管理する行政事務及び同条第二項の規定により当該大臣が掌理する行政事務をつかさどる機関として置かれるものとし、委員会及び庁は、省に、その外局として置かれるものとする。

4 第二項の国の行政機関として置かれるものは、別表第一にこれを掲げる。

別表第一(第三条関係)

委員会
総務省 公害等調整委員会 消防庁
法務省 公安審査委員会 出入国在留管理庁
公安調査庁
外務省
財務省 国税庁
文部科学省 スポーツ庁
文化庁
厚生労働省 中央労働委員会
農林水産省 林野庁
水産庁
経済産業省 資源エネルギー庁
特許庁
中小企業庁
国土交通省 運輸安全委員会 観光庁
気象庁
海上保安庁
環境省 原子力規制委員会
防衛省 防衛装備庁

まとめ

地方自治法における「行政委員会」とは、複数人の行政委員によって構成される合議制の執行機関のことであり、規則制定権の他、審判や裁定を行ったり、事務の一部を補助機関等に委任又は補助執行させたりする権限を有しています。

行政委員会の種類としては、以下の表のとおりです。

都道府県のみ 市町村のみ 両方
・公安委員会
・地方労働委員会
・収用委員会
・海区漁業調整委員会
・内水面漁業管理委員会
・農業委員会
・固定資産評価審査委員会
・教育委員会・選挙管理委員会
・人事委員会(公平委員会)
・監査委員

国に置かれる行政委員会には、人事院や公正取引委員会、国家公安委員会、個人情報保護委員会、カジノ管理委員会、公害等調整委員会、公安審査委員会、中央労働委員会、運輸安全委員会、原子力規制委員会があります。

この記事の監修者は
北川えり子(きたがわ えりこ)

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【出身】東京都
【経歴】拓殖大学外国語学部卒。行政書士、海事代理士、宅建等の資格を保有。
【趣味】旅行、ドライブ
【座右の銘】雲外蒼天
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