行政指導とは?行政処分との違いも教えます!

更新日:2021年6月3日

壊れた家と人の絵

「行政指導」とは、一定の行政目的を達成するために、助言、指導、勧告等の非権力的な手段を行使することにより、国民を行政庁の意図する方向へ誘導する事実的行為のことをいいます。行政指導には、法的拘束力はありません。

ちなみに、「助言」とは、ある事項を進言することであり、「指導」とは、助言よりも強く、ある事項を具体的に教え導くことであり、「勧告」とは、指導よりも強く、ある事項について具体的な行動を取るように勧めることです。

目次

行政処分との違い

「行政処分」とは、法律の定めに従い、一方的な判断に基づいて、国民の権利や義務に直接影響を及ぼす行為のことをいいます。

行政指導は、非権力的で、「できればこうしてくれませんか?」というお願いスタンスであるのに対して、行政処分は、より強制的、権力的で、「こうしなさい!」という命令スタンスのものです。

イメージとしては、例えば、行政庁が違法建築物を有する国民Aに対して、まずは、行政指導として「違法建築物を除去していただけますか?」とお願いし、それでも改善が見られない場合には、行政処分として「違法建築物を除去しなさい!」と違法建築物除去命令を出す、という順番になります。

行政手続法における行政指導

行政指導に関する規定は、行政手続法第四章の第32条~第36条の2にあります。

まず、第32条には、行政指導の一般原則が規定されており、1項では、行政指導は、その行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと、行政指導の内容が相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならないことが規定されています。

2項では、行政指導に携わる者は、相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならないことを規定しています。

次に、第33条では、申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導について、行政指導に携わる者は、申請者がその行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず、申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない旨を規定しています。

第34条では、許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を有する行政機関が、その権限を行使することができない場合や、行使する意思がないのに行政指導をする場合には、行政指導に携わる者は、その権限を行使できる旨を殊更に示すことによって、相手方に行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない旨を規定しています。

第35条では、行政指導の方式が規定されており、行政指導に携わる者は、相手方に対して、①行政指導の趣旨、②内容、③責任者を明確に示すことになっています。

2項では、行政指導に携わる者は、行政指導をする際に、行政機関が許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を行使できる旨を示す場合には、相手方に対して、①その権限を行使できる根拠となる法令の条項、②要件、③要件に適合する理由を示すことが規定されています。

3項では、行政指導が口頭でされた場合、相手方から第35条に規定する事項を記載した書面の交付を求められた場合には、その行政指導に携わる者は、行政上特別の支障がない限り、交付しなければならないことが規定されています。

ただし、①相手方に対して、その場において完了する行為を求める行政指導、②既に文書又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるもののこと。)により、その相手方に通知されている事項と同一の内容を求める行政指導については、書面を交付しなくてもよいとされています。

第36条では、複数の者に対し行政指導をしようとする場合には、行政機関は、あらかじめ、事案に応じて行政指導指針を定めて、行政上特別の支障がない限り、公表しなければならないことが規定されています。

最後に、第36条の2では、法令に違反する行為の是正を求める行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているもの限定。)の相手方は、その行政指導が法律に規定する要件に適合しないと思うときには、その行政指導をした行政機関に対し、行政指導の中止その他必要な措置をとることを請求できるという、行政指導の中止に関する規定が置かれています。

また、2項では、中止等の申出をする場合、①申出をする者の氏名又は名称及び住所又は居所、②行政指導の内容、③行政指導がその根拠とする法律の条項、④要件、⑤行政指導が要件に適合しないと思う理由、⑥その他参考となる事項を記載した申出書を提出することが規定されており、さらに、3項では、中止等の申出があった場合には、行政機関は、必要な調査を行い、その行政指導が法律に規定する要件に適合しないと認める場合には、行政指導の中止その他必要な措置をとらなければならないということを規定しています。

行政指導指針とは?

行政手続法第36条に規定されている 「行政指導指針」とは、命令等に含まれ、同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときにこれらの行政指導に共通してその内容となるべき事項のことをいいます。

行政指導の分類

行政指導には、主に①助成的行政指導、②調整的行政指導、③規制的行政指導の3種類があります。

助成的行政指導

給付行政の一環として行われる行政指導のことをいいます。例えば、農業指導、経営指導、保健指導等が挙げられます。

調整的行政指導

私人間の利害の対立を調整し、好ましい秩序を作り出す行政指導のことをいいます。例えば、建築主と近隣住民との間の紛争の仲介等が挙げられます。

規制的行政指導

公益実現に障害となる行為を予防し、抑制する行政指導のことをいいます。例えば、違法建築物是正の指導、物価の値上げ抑制の指導等が挙げられます。

行政指導の問題点

行政指導は、法律の不備を補充するために行われるものであり、上述のとおり、法的拘束力はありません。

しかしながら、現実には、行政庁が公権力を背景として、国民に行政指導に従うように強制しているのが実態であり、法律による行政の原理(行政活動は、国民の代表者で構成された立法府の制定する法律に従って行わなければならないという原理)に反するという問題点があります。

行政指導に対する救済手段

行政指導に対して国民が不利益を被った場合、原則として行政不服審査法に基づく不服申立てや行政事件訴訟法に基づく抗告訴訟はできないとされています。

繰り返しになりますが、行政指導には法的拘束力がなく、任意のものであり、不服があれば従わなければ良いだけであるからです。また、それによって処分を受けた場合には、その処分に対して審査請求や取消訴訟等を行うことが可能であるからです。

一方で、行政指導によって、何等かの損害を被った場合、国家賠償法による損害賠償請求をすることはできます。

行政指導に関する重要判例

行政指導に関する重要判例としては、①病院開設中止勧告事件、②教育施設負担金事件、③給水拒否事件、④品川マンション事件の4つが挙げられます。以下、それぞれの判例について、詳しく紹介をしていきます。

病院開設中止勧告事件(最判平成17年7月15日)

【事案】

Xは、病院開設を計画し、知事Yに対して許可申請をしましたが、Yは、医療法の病床数に関する規定に基づき、病院開設の中止を勧告しました。

Xは、勧告を拒否したため、Yは、許可処分をすると同時に、「中止勧告にもかかわらず病院を開設した場合には、厚生省通知において保険医療機関の指定の拒否をすることとされているので、念のため申し添える」との記載がされた文書を送付しました。

それに対して、Xは、勧告の取消し又は通告処分の取消しを求めて訴訟提起をしました。

【争点】

医療法の規定に基づき、都道府県知事が病院を開設しようとする者に対して行う病院開設中止の勧告は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

【理由および結論】

医療法の規定に基づく病院開設中止の勧告は、医療法上は、勧告を受けた者が任意に従うことを期待してされる行政指導として定められている。

しかし、医療法及び健康保険法の内容の運用の実情に照らすと、勧告を受けた者に対し、これに従わない場合には、相当程度の確実さをもって、病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらすものということができる。

そして、国民皆保険制度が採用されている日本においては、健康保険、国民健康保険等を利用せず病院を受診する者はほぼおらず、保険医療機関の指定を受けずに診療行為を行う病院がほぼ存在しないことは公知の事実であるから、保険医療機関の指定を受けることができない場合には、実際上病院の開設自体を断念せざるを得ないため、病院開設中止の勧告は、行政庁の処分その他公権力の行使にあたる。

教育施設負担金事件(最判平成5年2月18日)

【事案】

武蔵野市Yでは、昭和40年代からマンション建設が相次ぎ、そのため、日照障害、テレビ電波障害、騒音等の問題が生じ、また、学校、保育園、交通安全施設等が不足し、Yの行財政を圧迫していました。

そこで、Yでは、宅地開発指導要綱を制定し、「教育施設負担金」を納付すること等が規定されました。

Xらは、3階建て賃貸マンションの建築を計画したところ、巨額の教育施設負担金を寄付しなければならないことに不満を持ち、負担金の減免等を請求しましたが拒否され、また、Yからの上下水道の利用拒否といった制度をおそれて、結局、教育施設負担金を納付しました。

Xらは、寄付が強迫によるものとして意思表示を取消し、負担金の不当利得返還請求訴訟を提起しました。

【争点】

Yが、Xに対して、宅地開発指導要綱に基づいて教育施設負担金の寄付を求めた行為は、違法な公権力の行使にあたるか?

【理由および結論】

行政指導として教育施設充実のために寄付金の納付を求めること自体は、強制にわたるなど、事業主の任意性を損なうことがない限り、違法ではない。

しかし、指導要綱の文言や運用の実態からすると、Yは、事業主に、法が認めておらず、しかもそれが実施されれば、マンション建築が事実上不可能となる水道の給水契約締結の拒否等の制裁措置を背景として、指導要綱を遵守させようとしていたといえる。

そうすると、負担金の納付を求めた行為は、行政指導に従うことを余儀なくさせるものであり、Xに負担金の納付を事実上強制しようとしたものといえるため、違法な公権力の行使にあたる。

給水拒否事件(最判平成元年11月7日)

【事案】

武蔵野市Yでは、マンション建設の増加に伴い、日照権やプライバシー権をめぐって住民と事業者間にトラブルが生じていました。

そこで、Yは宅地開発等指導要綱を施行しました。

この中には、要綱に従わない場合、市の上下水道等の利用について必要な協力を行わないことがある旨規定されていました。

建設業者Aは、指導要綱に基づく行政指導に従わず、マンションを建設し、水道の供給を申し入れたところ、水道管理者であった武蔵野市長Xは、水道の供給を拒否しました。

この行為が水道法第15条1項に違反するとして、AがXを被告として訴訟提起をしました。

水道法第15条1項 水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならない。

【争点】

①市の宅地開発指導要綱を遵守させるために給水契約締結を留保したことは、水道法第15条1項にいう「拒んだ行為」にあたるか?

②宅地開発指導要綱に従わないことに、水道法第15条1項にいう「正当な理由」が認められるか?

【理由および結論】

①XがAから給水契約の申込書を受領することを拒絶した時期には、Aはすでに宅地開発指導要綱には従わない意思を明確に表明し、マンションの購入者も入居にあたり給水を現実に必要としていた。

そのため、当該要綱による行政指導を継続する必要があることを理由として給水契約の締結を留保することは許されない。

したがって、本件において、給水契約締結を留保したことは、水道法第15条1項の「拒んだ行為」にあたる。

②Xは、給水することが公序良俗を助長する事情がないにもかかわらず、本件要綱を遵守させるために給水契約締結を拒んだため、水道法第15条1項にいう「正当な理由」は認められない。

品川マンション事件(最判昭和60年7月16日)

【事案】

X社は、マンション建築を計画し、東京都Yの建築主事に対して建築確認申請書を提出しました。

しかし、周辺住民の反対があったため、建築確認申請を受理したYの建築主事は、Xに対して周辺住民との話し合いによる円満解決を指導しました。

そして、その間、建築確認処分を保留し、申請から約5カ月後に建築主が周辺住民と和解をした段階で、建築確認処分をしました。

そこで、Xは、Yに対して建築確認処分の違法な留保を理由として、国家賠償請求訴訟を提起しました。

【争点】

建築主に対して、行政指導が行われていることを理由として、建築確認申請に対する処分を留保することは、違法であるか?

【理由および結論】

地方自治法や建築基準法の趣旨目的に照らすと、建築主が任意に行政指導に応じている場合に、社会通念上合理的と認められる期間、建築主事が確認処分を留保して行政指導の結果に期待しても、ただちに違法な措置とまではいえない。

もっとも、このような確認処分の留保は、建築主の任意の協力・服従のもとに行政指導が行われていることに基づく事実上の措置に留まるため、建築主の明示の意思に反してその受任を強いることは許されない。

したがって、建築主が、行政指導に協力できない旨の意思を真摯かつ明確に表明して建築確認申請に対し、ただちに応答すべきことを求めた場合は、行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するといえるような特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われているという理由だけで、申請に対する処分を留保することは、違法となる。

まとめ

行政指導についてご理解いただけましたでしょうか?

ポイントは、行政指導は主に3種類あるということ、行政指導は、行政処分と異なり、任意であるため、基本的には従わなくても良いものであること、それに伴い、行政指導に対する救済手段として、審査請求や取消訴訟は原則不可能ですが、国家賠償請求訴訟は可能であるということ、ただ、判例には、行政指導(勧告)が行政事件訴訟法における抗告訴訟の対象となり得ると判断されたものもあるということです。

この記事の監修者は
北川えり子(きたがわ えりこ)

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【出身】東京都
【経歴】拓殖大学外国語学部卒。行政書士、海事代理士、宅建等の資格を保有。
【趣味】旅行、ドライブ
【座右の銘】雲外蒼天
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