行政罰とは?行政刑罰と秩序罰の違いを解説します!

行政罰とは

「罰則」と聞くと、一般的には、刑法や民法等に違反した場合に、懲役や禁錮の罰で刑務所に収監されたり、罰金や損害賠償で金銭的負担を与えたりすることであり、裁判所によって決定されるものを想像するかと思います。

しかしながら、国民が行政上の義務に違反した場合、裁判所とともに行政機関が国民に対して罰則を与える場合があります。

目次

行政罰とは?

「行政罰」とは、国民が行政上の義務に違反した場合に、制裁として科される罰のことをいいます。

行政罰は、さらに、「行政刑罰」と「秩序罰」という2つの種類に分類されます。

行政罰は、過去の義務違反に対する制裁ですが、同じく行政上の強制手段である行政強制は、将来の義務履行を促進するための制裁であるため、目的が異なります。(行政強制について詳しくはこちら)

また、行政罰には法律(地方自治法第14条の規定により条例も含む。)の根拠が必要です。

【地方自治法】

第14条 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。

② 普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。

③ 普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、二年以下の懲役若しくは禁錮、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。

行政刑罰

「行政刑罰」とは、行政上の重大な義務違反に対して、犯罪として、刑法に定める刑罰を科すことをいいます。刑法に定める刑罰とは、「死刑」、「懲役」、「禁錮」、「罰金」、「拘留」および「科料」です。

「死刑」は、ご存知かと思いますが絞首刑のことで、「懲役」は、刑務所に身柄を拘束される刑のことであり、受刑者に刑務所内で所定の作業を行わせる刑のことです。

「禁錮」も、懲役と同じく刑務所に身柄を拘束される刑のことですが、受刑者に刑務所内で所定の作業を行わせるものではありません。そのため、懲役と禁錮では懲役の方が刑罰が重いです。

「拘留」も、懲役や禁錮と同じく刑務所に身柄を拘束される刑のことですが、1日以上30日未満の期間拘束されることをいいます。

「罰金」は、金銭を支払わせることですが、その金額が1万円以上のものをいいます。

「科料」も、罰金と同じく金銭を支払わせることですが、その金額が1,000円以上1万円未満のものをいいます。

注意すべきは、刑法に定める刑罰として死刑を記載しましたが、行政刑罰においては、現行法上死刑を定めるものはありません。行政刑罰の具体例としては、信号無視やシートベルトの着用義務違反等に対する罰金等が挙げられます。

行政刑罰は、刑法に定める刑罰を科すため、刑法総則の適用があり、法人の代表者等が違反行為を行った場合に、法人にも処罰がなされる両罰規定が認められています。

そして、行政刑罰は、刑事訴訟法の手続きに基づき裁判所によって科されます。

秩序罰

「秩序罰」とは、行政上の軽微な義務違反に対して、犯罪とまではされずに科される罰則のことをいいます。秩序罰として挙げられるのは、「過料」のみです。

「過料」は、「科料」と混同されやすいのですが、「過料」は刑罰ではなく、あくまで行政上の罰則です。つまり、「科料」を科される場合は犯罪に値する行為ですが、「過料」を科される場合は犯罪とまではいえない行為であるという点に違いがあります。

例えば、引っ越しをしたにもかかわらず、住民票の変更届をしないまま、一定期間過ぎると、住民基本台帳法第52条2項に基づき、5万円以下の過料を科されることになります。

秩序罰は、繰り返しになりますが、刑罰ではないため、刑法総則の適用はありません。

秩序罰は、国の法令に基づく場合には、非訟事件手続法に基づき、裁判所によって科されますが、条例や規則に基づく場合には、地方公共団体の長によって科されます。

【住民基本台帳法】

第52条2項 正当な理由がなくて第二十二条から第二十四条まで、第二十五条又は第三十条の四十六から第三十条の四十八までの規定による届出をしない者は、五万円以下の過料に処する。

行政刑罰と秩序罰の違い

行政刑罰 秩序罰
違反の程度 行政上の重大な義務違反 行政上の軽微な義務違反
手続の根拠法 刑事訴訟法 非訟事件手続法
刑法総則の適用 あり なし
罰則の種類 (死刑)、懲役、禁錮、罰金、拘留および科料 過料のみ
罰を科す者 裁判所 国の法令に基づく場合→裁判所
条例や規則に基づく場合→地方公共団体の長
法律の根拠 必要 必要

二重処罰の禁止の法理との関係

憲法には、第39条において、二重処罰の禁止の法理が規定されています。すなわち、同一人物は、同じ犯罪において二度処罰されることはありません。この二重処罰の禁止の法理の関係と、行政罰との関係がしばしば問題になります。

まず、行政刑罰と行政刑罰との併科についてですが、行政刑罰は、行政上の重大な義務違反に対するペナルティーであることから一度の義務違反に対して二度ペナルティーを与えることは当然のことながらできません。

次に、行政刑罰と秩序罰との併科については、両者が目的を異にすることから、できるとされています(最判昭和39年6月5日)。

最後に、行政刑罰と行政上の強制執行の併科についても、両者が目的を異にすることから、できるとされています。

【憲法】

第39条 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

行政罰に関する重要判例

行政罰に関する重要判例としては、3つの判例が挙げられます。以下、それぞれの判例について具体的に説明していきます。

最判昭和39年6月5日

【事案】

正当な理由なく証言拒絶をした証人Xが、刑事訴訟法第160条1項「証人が正当な理由がなく宣誓又は証言を拒んだときは、決定で、十万円以下の過料に処し、かつ、その拒絶により生じた費用の賠償を命ずることができる。」という規定に基づき、過料を科せられたのち、同法第161条「正当な理由がなく宣誓又は証言を拒んだ者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。」という規定に基づき、起訴されました。

【争点】

行政刑罰である罰金、拘留と秩序罰である過料との併科が二重処罰の禁止の法理に違反しないか?

【理由および結論】

刑事訴訟法第160条は、訴訟手続き上の秩序を維持するために秩序違反行為に対して当該手続きを主宰する裁判所又は裁判官によって直接科せられる秩序罰としての過料を規定したものであり、同法第161条は、刑事司法に協力しない行為に対して通常の刑事訴訟手続きによって科せられる刑罰としての罰金、拘留を規定したものであり、両者は目的、要件および実現の手続きが異なり、必ずしも二者択一の関係にあるものではないため、二重処罰の禁止の法理に違反しない。

最判昭和33年4月30日

【事案】

法人税を未納していたXが、法人税法第43条に基づき追徴税を課され、さらに、刑事罰として罰金を科せられました。

【争点】

法人税法第43条の追徴税と、罰金との併科が二重処罰の禁止の法理に違反しないか?

【理由および結論】

法人税法第43条の追徴税は、単に過少申告・不申告による納税義務違反の事実があれば、同条所定のやむを得ない事由のない限り、その違反の法人に対して課せられるものであり、これによって過少申告・不申告による納税義務違反の発生を防止して、納税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の措置である。

法が追徴税を行政機関の行政手続きにより租税の形式で課すべきものとしたことは追徴税を課せられるべき納税義務違反者の行為を犯罪とし、これに対する刑罰として課す趣旨でないことは明らかであるから、そのような追徴税の性質を鑑みれば、憲法第39条に規定する二重処罰の禁止の法理に違反しない。

最判平成10年10月13日

【事案】

カルテル行為について私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律違反事件において、既に刑事罰である罰金刑が確定し、違反事実を原因として国から不当利得返還請求されている法人事業者Xに対して、公正取引委員会が、同一の事実に係る課徴金の納付を命じる審決をしました。

【争点】

刑事罰である罰金刑と課徴金を賦課することは、二重処罰の禁止の法理に違反しないか?

【理由および結論】

刑事罰が確定し、国から不当利得返還請求の民事訴訟が提起されている場合には、課徴金の納付を命じることは、最判昭和33年4月30日の趣旨から、二重処罰の禁止の法理に違反しない。

まとめ

行政罰には、「行政刑罰」と「秩序罰」の2種類があり、それぞれ特徴があります。

行政罰は、過去の義務違反に対する制裁であり、過去の義務違反に罰を加えることで、義務者に心理的圧迫を与え、抑止力が働いています。そのため、間接的な義務履行確保手段といわれています。

行政罰には、法律の根拠が必要と考えられています。

そして、二重処罰の禁止との関係では、①行政刑罰と行政刑罰の併科は不可能、②行政刑罰と秩序罰の併科は可能、③行政刑罰と行政上の強制執行の併科も可能です。