争点訴訟とは?民事訴訟?それとも行政訴訟?

更新日:2021年7月12日

法廷

「争点訴訟」とは、私法上の法律関係に関する訴訟について、その前提として、行政庁の処分又は裁決の存否もしくはその効力の有無が争われる訴訟のことをいいます。

争点訴訟は、私法上の法律関係に関する訴訟であるため、基本的に民事訴訟として位置づけられます。

ただ、その訴訟の前提問題として、行政庁の処分や裁決が関わってくるため(=争点となるため)、行政事件訴訟に準じた扱いがなされます。

目次

争点訴訟の規定

争点訴訟に関する規定は、行政事件訴訟法第45条1項および4項にあります。

【行政事件訴訟法】

(処分の効力等を争点とする訴訟)
第45条1項 私法上の法律関係に関する訴訟において、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無が争われている場合には、第二十三条第一項及び第二項並びに第三十九条の規定を準用する。

4項 第一項の場合には、当該争点について第二十三条の二及び第二十四条の規定を、訴訟費用の裁判について第三十五条の規定を準用する。

この条文の見出しが、「処分の効力等を争点とする訴訟」であるため、略して争点訴訟と呼ばれています。

第23条1項、2項、第39条および第23条の2、第24条、第35条の詳細については、後ほど「行政事件訴訟法の準用規定」のところで紹介します。

争点訴訟の具体例

争点訴訟の具体例としては、以下のような場合等が挙げられます。

  • 土地収用により所有権を失った土地所有者が起業者に対して土地返還請求訴訟を提起し、その前提として土地収用裁決の効力を争う場合
  • 行政庁による課税処分により納税した人が税金の還付請求訴訟を提起し、その前提として課税処分の効力を争う場合
  • 農地を買収された地主が農地を売り渡された人に対して農地の返還請求訴訟を提起し、その前提として農地買収処分の効力を争う場合

行政事件訴訟法の準用規定

前述した行政事件訴訟法第45条1項および4項にいう準用規定は、以下のとおりです。

  • 行政庁の訴訟参加(第23条1項、2項)
  • 釈明権の特則(第23条の2)
  • 職権証拠調べ(第24条)
  • 訴訟費用の裁判の効力(第35条)
  • 出訴の通知(第39条)

第23条1項 裁判所は、処分又は裁決をした行政庁以外の行政庁を訴訟に参加させることが必要であると認めるときは、当事者若しくはその行政庁の申立てにより又は職権で、決定をもつて、その行政庁を訴訟に参加させることができる。

2項 裁判所は、前項の決定をするには、あらかじめ、当事者及び当該行政庁の意見をきかなければならない。

第23条の2 裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため、必要があると認めるときは、次に掲げる処分をすることができる。

一 被告である国若しくは公共団体に所属する行政庁又は被告である行政庁に対し、処分又は裁決の内容、処分又は裁決の根拠となる法令の条項、処分又は裁決の原因となる事実その他処分又は裁決の理由を明らかにする資料(次項に規定する審査請求に係る事件の記録を除く。)であつて当該行政庁が保有するものの全部又は一部の提出を求めること。

二 前号に規定する行政庁以外の行政庁に対し、同号に規定する資料であつて当該行政庁が保有するものの全部又は一部の送付を嘱託すること。

第24条 裁判所は、必要があると認めるときは、職権で、証拠調べをすることができる。ただし、その証拠調べの結果について、当事者の意見をきかなければならない。

第35条 国又は公共団体に所属する行政庁が当事者又は参加人である訴訟における確定した訴訟費用の裁判は、当該行政庁が所属する国又は公共団体に対し、又はそれらの者のために、効力を有する。

第39条 当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で、法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするものが提起されたときは、裁判所は、当該処分又は裁決をした行政庁にその旨を通知するものとする。

争点訴訟と形式的当事者訴訟の違い

「形式的当事者訴訟」とは、当事者の法律関係を確認し、又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で、法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とする訴訟のことをいいます。

土地収用裁決の例でいえば、形式的当事者訴訟は、土地収用裁決自体に不服はないものの、補償額に不服がある場合に提起します。

一方で、争点訴訟は、土地収用裁決自体に不服があり、収用裁決は無効であるため、土地を返還してほしいと主張する場合に提起します。

争点訴訟と無効等確認訴訟の違い

「無効等確認訴訟」とは、行政庁の処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟のことをいいます。

土地収用裁決の例でいえば、無効等確認訴訟は、収用裁決が無効であるかどうかを確認するのみです。

一方で、争点訴訟は、収用裁決が無効であることを前提として、土地を返還してほしいと主張することができます。

ちなみに、無効等確認訴訟は、処分又は裁決の効力等の確認を求めるにつき法律上の利益がある場合で、当該処分もしくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによっては目的達成が不可能な場合に提起することができます。

「現在の法律関係に関する訴え」とは、「当事者訴訟」と「民事訴訟(争点訴訟)」のことです。そのため、争点訴訟が提起できない場合に無効等確認訴訟を提起することができます。

まとめ

争点訴訟は、訴訟物が私法上の権利であり、民事訴訟の一種ですが、その前提となる争点が、行政庁の処分又は裁決の存否もしくはその効力の有無となるため、行政事件訴訟に類似して取り扱われています。

具体的には、行政事件訴訟法の第23条の行政庁の訴訟参加、第23条の2の釈明処分の特則、第24条の職権証拠調べ、第35条の訴訟費用の裁判の効力、第39条の出訴の通知に関する規定が準用されています。

争点訴訟と形式的当事者訴訟の相違点としては、形式的当事者訴訟は、行政庁の処分や裁決自体に不服はなく、争点訴訟は、行政庁の処分や裁決自体に不服があるということです。

争点訴訟と無効等確認訴訟の相違点としては、無効等確認訴訟は、行政庁の処分や裁決の効力の有無を確認するものですが、争点訴訟は、行政庁の処分や裁決が無効であることを前提として、私法上の法律関係を争うものであるということです。

この記事の監修者は
福澤繁樹(ふくざわ しげき)

分かりやすくて勉強する気になる講義を目指したい!
【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
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