行政不服審査法における教示制度とは?

更新日:2021年7月6日

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「教示」とは、教え示すことですが、行政不服審査法における「教示」は、行政庁から、国民に対して、不服申し立ての方法を教えることをいいます。

行政庁から処分を受けた国民が、処分を不服とした場合でも、不服申立ての存在や方法を知らなければ、泣き寝入りすることにもなりかねません。

そこで、行政不服審査法では、広く国民に不服申立制度を活用してもらうため、そもそも不服申立てができるのか否か、できる場合には、どのような方法で行うのか等を教えることを定めています。

教示制度は、行政事件訴訟法にも存在しますが、行政不服審査法では、教示を懈怠した場合や教示を誤った場合等の国民側の救済措置についても規定されています。

行政事件訴訟法ではそのような救済措置規定はありません。

目次

教示義務

行政不服審査法において、教示すべき場合は2つの場合です。

まず、第一に、行政庁が審査請求や再調査の請求、他の法令に基づく不服申立てをすることができる処分を書面で行う場合です。

この場合には、相手方に対して、

①当該処分につき不服申立てをすることができる旨

②不服申立てをすべき行政庁

③不服申立てをすることができる期間

を書面で教示します。ただし、処分を口頭で行う場合には、教示義務そのものがありません。

第二に、利害関係人から、教示を求められた場合です。

利害関係人とは、行政庁の処分に対する直接の当事者ではありませんが、法律上の利害関係を有する者のことをいいます。

利害関係人から行政庁に対して、

①当該処分が不服申立てをすることができる処分であるか否か

②当該処分が不服申立て可能な場合、不服申立てをすべき行政庁

③不服申立てをすることができる期間

について教示を求められた場合、これらの事項を教示する義務があります。

【行政不服審査法】

第82条 行政庁は、審査請求若しくは再調査の請求又は他の法令に基づく不服申立て(以下この条において「不服申立て」と総称する。)をすることができる処分をする場合には、処分の相手方に対し、当該処分につき不服申立てをすることができる旨並びに不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間を書面で教示しなければならない。ただし、当該処分を口頭でする場合は、この限りでない。

2項 行政庁は、利害関係人から、当該処分が不服申立てをすることができる処分であるかどうか並びに当該処分が不服申立てをすることができるものである場合における不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間につき教示を求められたときは、当該事項を教示しなければならない。

3項 前項の場合において、教示を求めた者が書面による教示を求めたときは、当該教示は、書面でしなければならない。

ちなみに、行政事件訴訟法における教示をすべき場合は、3つあります。

第一に、取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合です。この場合には、処分又は裁決の相手方に対して、

①当該処分又は裁決に係る取消訴訟の被告

②当該処分又は裁決に係る取消訴訟の出訴期間

③法律に当該処分についての審査請求に対する裁決後でなければ処分の取消訴訟を提起することができない旨の定めがある場合(=不服申立前置主義の定めがある場合)には、その旨

を書面で教示する義務があります。ただし、処分を口頭で行う場合には、教示義務はありません。

第二に、法律に処分についての審査請求に対する裁決に対してのみ取消訴訟を提起することが可能な旨の定めがある場合、つまり、裁決主義の定めがある場合です。

この場合には、処分の相手方に対して、法律にその定めがある旨を書面で教示する義務があります。ただし、処分を口頭で行う場合には、教示義務はありません。

第三に、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で、法令によりその法律関係の当事者の一方を被告とするものを提起する場合、つまり、形式的当事者訴訟を提起する場合には、処分又は裁決の相手方に対して、

①当該訴訟の被告

②当該訴訟の出訴期間

を書面で教示する義務があります。ただし、処分を口頭で行う場合には、教示義務はありません。

【行政事件訴訟法】

第46条 行政庁は、取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合には、当該処分又は裁決の相手方に対し、次に掲げる事項を書面で教示しなければならない。p>ただし、当該処分を口頭でする場合は、この限りでない。

一 当該処分又は裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者

二 当該処分又は裁決に係る取消訴訟の出訴期間

三 法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、その旨

2項 行政庁は、法律に処分についての審査請求に対する裁決に対してのみ取消訴訟を提起することができる旨の定めがある場合において、当該処分をするときは、当該処分の相手方に対し、法律にその定めがある旨を書面で教示しなければならない。ただし、当該処分を口頭でする場合は、この限りでない。

3項 行政庁は、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするものを提起することができる処分又は裁決をする場合には、当該処分又は裁決の相手方に対し、次に掲げる事項を書面で教示しなければならない。ただし、当該処分を口頭でする場合は、この限りでない。

一 当該訴訟の被告とすべき者

二 当該訴訟の出訴期間

教示方法

行政不服審査法における教示の方法は、処分の相手方に教示する場合、書面で教示しなければなりません。

利害関係人に教示する場合、原則口頭の教示で良いとされますが、例外的に、利害関係人から、書面で教示するように求められた場合には、書面で教示しなければなりません。

教示を懈怠した場合

冒頭に述べたとおり、行政不服審査法においては、行政庁が教示を懈怠した場合や誤った教示を行った場合等の国民側の救済措置が規定されています。

様々な場合について細かく規定がありますので、それぞれ紹介していきます。

まず、行政庁が教示義務に違反して教示を行わなかった場合、不服申立人は、当該処分庁に対して不服申立書を提出することが可能です。

この場合、もし、本来は処分庁以外の行政庁に提出すべきとされていた場合には、不服申立書を受領した処分庁が速やかに、本来提出すべきとされていた行政庁に送付する義務が生じます。

そして、処分庁を経由して本来提出すべきとされていた行政庁に不服申立書が提出されると、初めからその行政庁に不服申立てがなされたものとみなされます。

第83条 行政庁が前条の規定による教示をしなかった場合には、当該処分について不服がある者は、当該処分庁に不服申立書を提出することができる。

3項 第一項の規定により不服申立書の提出があった場合において、当該処分が処分庁以外の行政庁に対し審査請求をすることができる処分であるときは、処分庁は、速やかに、当該不服申立書を当該行政庁に送付しなければならない。当該処分が他の法令に基づき、処分庁以外の行政庁に不服申立てをすることができる処分であるときも、同様とする。

4項 前項の規定により不服申立書が送付されたときは、初めから当該行政庁に審査請求又は当該法令に基づく不服申立てがされたものとみなす。

5項 第三項の場合を除くほか、第一項の規定により不服申立書が提出されたときは、初めから当該処分庁に審査請求又は当該法令に基づく不服申立てがされたものとみなす。

審査請求において教示が誤っていた場合

次に、審査請求において誤った教示がなされた場合についてですが、現行の行政不服審査法に直接規定されているのは、1つのパターンのみです。

すなわち、審査請求可能な処分について、処分庁が誤った行政庁を教示し、審査請求人がその教示に従って誤った行政庁に審査請求書を提出してしまった場合には、その審査請求書を受領した行政庁は、速やかに、処分庁又は審査庁となるべき行政庁に審査請求書を送付します。

そして、その旨を審査請求人に対して通知しなければなりません。

また、処分庁が、上記の誤った行政庁から審査請求書の送付を受けた場合は、速やかに、審査庁となるべき行政庁に送付して、その旨を審査請求人に通知しなければなりません。

審査請求書が審査庁となるべき行政庁に送付された場合には、審査請求書が教示どおりの誤った行政庁に提出された時点で、審査庁となるべき行政庁に審査請求がなされたものとみなされます。

ちなみに、審査請求期間が誤って教示された場合には、行政不服審査法第18条の「正当な理由」に当てはまるとされ、期間外でも請求できます。

第22条 審査請求をすることができる処分につき、処分庁が誤って審査請求をすべき行政庁でない行政庁を審査請求をすべき行政庁として教示した場合において、その教示された行政庁に書面で審査請求がされたときは、当該行政庁は、速やかに、審査請求書を処分庁又は審査庁となるべき行政庁に送付し、かつ、その旨を審査請求人に通知しなければならない。

2項 前項の規定により処分庁に審査請求書が送付されたときは、処分庁は、速やかに、これを審査庁となるべき行政庁に送付し、かつ、その旨を審査請求人に通知しなければならない。

5項 前各項の規定により審査請求書又は再調査の請求書若しくは再調査の請求録取書が審査庁となるべき行政庁に送付されたときは、初めから審査庁となるべき行政庁に審査請求がされたものとみなす。

第18条 処分についての審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して三月(当該処分について再調査の請求をしたときは、当該再調査の請求についての決定があったことを知った日の翌日から起算して一月)を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

2項 処分についての審査請求は、処分(当該処分について再調査の請求をしたときは、当該再調査の請求についての決定)があった日の翌日から起算して一年を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

再調査の請求において教示が誤っていた場合

最後に、再調査の請求において誤った教示がなされた場合には、以下3つのパターンに分けて救済方法が規定されています。

再調査の請求ができないにもかかわらずできるとの教示がなされた場合

審査請求はできますが、再調査の請求はできない処分について、処分庁が誤って再調査の請求ができるという旨の教示をして、再調査の請求人が当該処分庁に再調査の請求をした場合、処分庁は、速やかに、再調査の請求書等を審査庁となるべき行政庁に送付します。

そして、その旨を再調査の請求人に通知しなければなりません。

審査庁となるべき行政庁に、再調査の請求書等が送付された場合には、処分庁に再調査の請求を行った時点で、審査庁となるべき行政庁に審査請求がなされたものとみなされます。

つまり、いずれにせよ再調査の請求はできません。

第22条3項 第一項の処分のうち、再調査の請求をすることができない処分につき、処分庁が誤って再調査の請求をすることができる旨を教示した場合において、当該処分庁に再調査の請求がされたときは、処分庁は、速やかに、再調査の請求書(第六十一条において読み替えて準用する第十九条に規定する再調査の請求書をいう。以下この条において同じ。)又は再調査の請求録取書(第六十一条において準用する第二十条後段の規定により陳述の内容を録取した書面をいう。以下この条において同じ。)を審査庁となるべき行政庁に送付し、かつ、その旨を再調査の請求人に通知しなければならない。

5項 前各項の規定により審査請求書又は再調査の請求書若しくは再調査の請求録取書が審査庁となるべき行政庁に送付されたときは、初めから審査庁となるべき行政庁に審査請求がされたものとみなす。

審査請求ができる旨の教示をしなかった場合

審査請求と再調査の請求ともにできる処分について、処分庁が誤って審査請求ができる旨の教示をせずに、処分庁に再調査の請求がなされた場合には、再調査の請求人からの申立てにより、処分庁は、速やかに、再調査の請求書および関係書類その他の物件を審査庁となるべき行政庁に送付しなければなりません。

再調査の請求書および関係書類その他の物件の送付を受けた行政庁は、速やかに、その旨を再調査の請求人および当該再調査の請求の参加人に通知しなければなりません。

審査庁となるべき行政庁に、再調査の請求書等が送付された場合には、処分庁に再調査の請求を行った時点で、審査庁となるべき行政庁に審査請求がなされたものとみなされます。

この規定は、行政処分に不服のある人が、再調査をすることなく、直接審査請求をしたかったという場合の救済規定です。

第22条4項 再調査の請求をすることができる処分につき、処分庁が誤って審査請求をすることができる旨を教示しなかった場合において、当該処分庁に再調査の請求がされた場合であって、再調査の請求人から申立てがあったときは、処分庁は、速やかに、再調査の請求書又は再調査の請求録取書及び関係書類その他の物件を審査庁となるべき行政庁に送付しなければならない。この場合において、その送付を受けた行政庁は、速やかに、その旨を再調査の請求人及び第六十一条において読み替えて準用する第十三条第一項又は第二項の規定により当該再調査の請求に参加する者に通知しなければならない。

5項 前各項の規定により審査請求書又は再調査の請求書若しくは再調査の請求録取書が審査庁となるべき行政庁に送付されたときは、初めから審査庁となるべき行政庁に審査請求がされたものとみなす。

再調査の請求ができる旨の教示をしなかった場合

審査請求と再調査の請求ともにできる処分について、処分庁が誤って再調査の請求ができるという旨を教示しなかった場合、審査請求人が、当該教示に従って、審査請求をした後でも、審査請求人からの申立てにより、審査庁は、審査請求人に弁明書が送付されていない段階であれば、速やかに、処分庁に審査請求書を送付しなければなりません。

そして、審査請求書等の送付を受けた処分庁は、速やかに、その旨を審査請求人および参加人に通知しなければなりません。

処分庁に審査請求書等が送付された場合には、審査庁に審査請求書等が提出された時点で、処分庁に再調査の請求がなされたものとみなされます。

処分庁が誤って、再調査の請求もできるという旨の教示をせずに、審査請求ができる旨のみを教示し、その教示に従って審査請求がなされた場合、不服申立人が、再調査の請求をしたかもしれないという可能性を考え、審査庁から処分庁に審査請求書等を送付させ、初めから再調査の請求がなされたものとみなして、不服申立人を救済しています。

第55条 再調査の請求をすることができる処分につき、処分庁が誤って再調査の請求をすることができる旨を教示しなかった場合において、審査請求がされた場合であって、審査請求人から申立てがあったときは、審査庁は、速やかに、審査請求書又は審査請求録取書を処分庁に送付しなければならない。ただし、審査請求人に対し弁明書が送付された後においては、この限りでない。

2項 前項本文の規定により審査請求書又は審査請求録取書の送付を受けた処分庁は、速やかに、その旨を審査請求人及び参加人に通知しなければならない。

3項 第一項本文の規定により審査請求書又は審査請求録取書が処分庁に送付されたときは、初めから処分庁に再調査の請求がされたものとみなす。

まとめ

行政不服審査法における「教示制度」とは、国民に不服申立制度を積極的に活用してもらう目的で、行政庁から、国民に対して、不服申立てができるか否かや不服申立ての方法を教えることをいいます。

教示義務は、①不服申立て可能な処分を行う場合と②利害関係人から教示を求められた場合に生じます。

教示方法は、①の場合は、原則書面ですが、処分が口頭の場合には教示義務がありません。②の場合は、原則口頭ですが、利害関係人から書面の交付請求があれば、書面で行います。

行政事件訴訟法にも、①取消訴訟が提起可能な場合、②裁決主義の定めがある場合、③形式的当事者訴訟が提起可能な場合に教示義務はあります。

その違いとしては、行政不服審査法の教示では、利害関係人の規定があり、上記で紹介したような国民側の救済措置規定がありますが、行政事件訴訟法の教示では、利害関係人の規定はなく、国民側の救済措置規定もないという点です。

ちなみに、行政手続法の行政指導の部分でも、教示制度があります。「行政指導」のコラム にて紹介していますので、こちらのコラムと併せてお読みいただければと思います。

この記事の監修者は
福澤繁樹(ふくざわ しげき)

分かりやすくて勉強する気になる講義を目指したい!
【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
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