社労士(社会保険労務士)と顧問業務

社労士(社会保険労務士)と顧問業務

社会保険労務士と顧問業務

社会保険労務士事務所が請け負う主要な業務の一つに顧問業務があります。

企業の顧問になると、社会保険労務士はどんな業務を行うのでしょうか。

正解はありません。

顧問契約における受任業務の範囲によって異なります。

目次

顧問とは

顧問とは専門的な知識や経験をもって補佐や指導に当たる者のことです。

開業社会保険労務士が顧問を受託する場合、社外協力者として会社の外部から補佐や指導に当たります。

補佐や指導といっても、際限ない分野で補佐や指導に当たることは考えられません。

社会保険労務士の専門性をもって行える範囲で、補佐や指導に当たります。

事前に受任業務の範囲が決められ、あらかじめ決めた範囲内で、社会保険労務士は補佐や指導の業務を行います。

範囲は、社会保険労務士法第2条第1項が定める範囲には限りません。

第1項の1号業務にも2号業務にも3号業務にも属さない、例えば給与計算などを顧問として行う場合もあります。

企業と顧問契約をしたうえで行う業務の範囲

社会保険労務士は、専門性を生かして企業と顧問契約を結び補佐や指導の業務に当たります。

社会保険労務士として専門性を生かせる領域といえば、社会保険労務士法第2条第2項第1号から第3号の業務に関連するものです。従って、通常はこの範囲で顧問契約を結びます。

以下で、1号業務、2号業務、3号業務を顧問として行います。

①1号業務に関する顧問

1号業務とは、社会保険労務士法第2条第1項第1号の1~3に定められる業務(4~6は個別労働関係紛争に関する業務)です。条文を掲げると以下のとおりです。

一 別表第一に掲げる労働及び社会保険に関する法令(以下「労働社会保険諸法令」という。)に基づいて申請書等(行政機関等に提出する申請書、届出書、報告書、審査請求書、再審査請求書その他の書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識できない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。)をいう。以下同じ。)を作成すること。

一の二 申請書等について、その提出に関する手続を代わつてすること。

一の三 労働社会保険諸法令に基づく申請、届出、報告、審査請求、再審査請求その他の事項(厚生労働省令で定めるものに限る。以下この号において「申請等」という。)について、又は当該申請等に係る行政機関等の調査若しくは処分に関し当該行政機関等に対してする主張若しくは陳述(厚生労働省令で定めるものを除く。)について、代理すること(第二十五条の二第一項において「事務代理」という。)。

つまり、事業主に代わって、労働社会保険諸法令に基づいて申請書等を作成し、提出代行を行い、行政機関等の調査に際し、または処分に関して、主張若しくは陳述を行うことです。

1号業務の顧問となることは、補佐や指導というよりは、申請書類の作成や提出、行政機関への説明を代理することを意味します。

一般的に、社労士が企業の顧問となる場合、この1号業務に重点を置いて、労働者の雇入れや退職に伴う手続き、報酬改定に伴う手続きなどを事業主に代わって行います。

②2号業務に関する顧問

2号業務とは、社会保険労務士法第2条第1項第2号に定められる業務です。条文に次のようにあります。

労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類(その作成に代えて電磁的記録を作成する場合における当該電磁的記録を含み、申請書等を除く。)を作成すること。

つまり、2号業務とは、労働者名簿、給与台帳、出勤簿等の法定帳簿書類を整備する業務です。従業員10人未満の会社の就業規則や、独立規程等を整備する業務もこれに含まれると解されています。

労働者名簿、給与台帳、出勤簿等の整備は、会社側が自ら行うケースも多く、社会保険労務士が2号業務のみを対象に顧問となることは考え辛いです。

しかし、法定帳簿書類を整備も専門家のアドバイスを必要とするケースが多く、一般的に、顧問社労士は、1号業務の代行に併せて、2号業務についてのアドバイスも行います。

③3号業務に関する顧問

3号業務とは、社会保険労務士法第2条第1項第3号に定められる業務です。条文に次のようにあります。

事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について相談に応じ、又は指導すること。

平たく言えば、3号業務とは、労務相談、社会保険相談に応じてアドバイスをすることです。

この3号業務だけを対象に社会保険労務士が企業の顧問になることも考えられます。

しかしながら、3号業務は、社会保険労務士でない者、つまりコンサルタント業の方や中小企業診断士のような他士業の方も行うことができます。

そのため、経営コンサルタントのような方との競争にさらされることになり、社会保険労務士の専門性だけでは太刀打ちできない場面も出てきます。

そのため、社会保険労務士の専門性を生かすのであれば、1号業務から3号業務の労務及び社会保険関係の相談までをひとまとめにして請け負うのが得策であると言えます。

顧問になることのメリットとデメリット

この項では、社会保険労務士が企業の顧問となることのメリットとデメリットをみていきます。

①企業の顧問となることのメリット

企業の顧問となることのメリットは、顧問先からの毎月の顧問報酬により、安定的な収入が得られることです。

また、企業の顧問となることで、業務を通じて社会保険労務士としての経験値が高まります。

顧問先では、多くの労働者が日々働いているわけですから、労使間のトラブルも起きれば、出産、介護、病気により一定期間、休業をする労働者も現れます。

また、婚姻により新たに被扶養配偶者ができたという労働者も現れます。

さらに通勤災害や労働災害により、休業する方も現れます。

そのような労働者の労働・社会保険関係の手続き業務を行ううちに、社会保険労務士としての知識や経験が増していきます。

つまり開業したての社会保険労務士は、顧問先とともに成長すると言っても過言ではありません。

②企業の顧問となることのデメリット

企業の顧問となることはメリットばかりではありません。

顧問先企業には、毎日のように案件がある企業もあれば、年に数回しか連絡がない企業もあります。

毎日のように案件がある企業を数社契約すると、調べものやメールでの回答だけで忙殺されるということにもなりかねません。

また行政での相談員業務を中心に活動しようとする社会保険労務士が、顧問先を持ち過ぎたために、本来やりたかった仕事を断念するというケースもあります。

安定した売り上げになり、経験値が高まるというメリットがある一方で、このようなデメリットも存在するのです。

顧問となるために必要となる知識

社会保険労務士が顧問となるために必要となる知識は、ズバリ、1号業務~3号業務に関する正確な法令知識と経験です。

知識がなければ顧問業務はできず、そのため経験も積めません。

業務の経験をしなければ、いくら本で勉強しても実戦で使える知識は身につきません。

そのため、知識と経験の両方を備えるよう自らを高めていく必要があります。

①労働法令・社会保険法令の専門家として

顧問業務に必要となるレベルの労働法令・社会保険法令に関する知識は、社会保険労務士試験のテキストにある解説が入口になります。

しかし、試験で問われることは、基本的事項が中心です。

過去問の知識だけでは業務には不十分です。

社労士試験の論点とはならない条文も含めて法令に精通することはもちろん大切です。

それに加えて、ガイドライン、Q&A、行政通達なども精読する必要があります。

日々の努力や勉強の積み重ねで、手続きや相談に対応できる知識が身に付きます。

働き方改革関連法に関しても、各法律の各条項ごとに、施行年度がまちまちです。

例えば中小企業についての月60時間超残業に対する割増賃金率の引き上げは令和3年4月1日施行です。

36協定届を締結するにしても、いつからいつまでを対象期間とする届出をいつ提出すると改正法が適用されるのか。

このようなことについても、関連する行政通達に細かく目を通していないと、事業主に十分な説明ができません。

②幅広い相談や手続きに対応する経験とスキル

顧問先からの相談内容は、労働法令・社会保険法令に関するものばかりであるとは限りません。

ときには税務に関すること、様々な方面の許可申請に関することも相談される場合があります。

中には法令により、社会保険労務士が行い得ない事案についての相談も来ます。

そのような相談に触れて、適切に一般的な回答を行い、行政機関や金融機関を紹介し、あるいは他士業の紹介などを行う場合もありまです。

そのためにも、幅広い知識や人脈が必要となります。

手続きについても、資格取得喪失や離職票、労災5号様式などの定型業務ばかりではありません。

労働法令・社会保険法令の範囲においても、稀有な届出が多数存在しています。

顧問社労士が幅広く届出を知っていれば、事業主の費用負担も労働者の費用負担も軽減できる場合があります。

また、届出を適正に行うために、行政機関に問い合わせて確かな回答を引き出すスキルも必要になります。

顧問先となる顧客を開拓するには

社会保険労務士が顧問先企業を獲得するために、何をするのか。ズバリ営業です。

営業といっても、飛び込みの営業をするばかりではありません。

もちろん飛び込みの営業も必要です。しかし、多くはDM郵送や、メールやファックスによるDM送信、電話営業などです。

そのほかにも、経営者の集まりに出て、名刺やチラシを配ることもします。

また、前職での人間関係から経営者とのネットワークを広げることも必要です。

こうした地道な営業を粘り強く行ううちに、紹介をもらうようになり、少しずつですが顧問契約を結ぶ企業が現れます。

顧問業務と報酬

顧問業務の報酬は、相手先企業の規模や労働者の人数、受託する業務の範囲等により様々です。

社会保険労務士ごとに報酬の設定の仕方も異なります。

一般的に、業務の範囲に給与計算が含まれている場合は、顧問料が高くなります。

また、毎月の顧問料を抑えて、かわりに労働保険料の年度更新や算定基礎届を別立て報酬にするケースも見られます。

報酬は、社会保険労務士ごと自由に設定できるので、報酬の決め方はとても重要です。

開業したての社会保険労務士が、無理をして報酬を安価に設定し、顧問先を獲得しようとするケースが見られます。

報酬を後から引き上げるのはハードルが高いので、始めから自分に合った無理のない報酬設定をするべきです。

まとめ

社会保険労務士は、事例に触れなくては経験を高められません。実務経験を重ねなければ知識も深まりません。

自己のスキルを伸ばしていくためには、事例や実践の場を提供してくれる顧問先を持つことが近道です。

開業社労士になることを目指している方は、社労士試験に合格したら、まずは、顧問契約の範囲や報酬の設定など、顧問業務のビジネスモデルを考えてみてはどうでしょうか。