社労士試験頻出の「平均賃金」は算定基礎や算定方法をチェック

更新日:2021年5月21日

社労士の試験範囲である労働基準法や労災保険法では、しばしば「平均賃金」のキーワードが登場することがあります。平均賃金というと、「その人の平均的な賃金」としてざっくり捉えられがちですが、法定の算定ルールは意外と複雑です。

このページでは、社労士試験頻出の「平均賃金」の基本をおさえましょう。

目次

平均賃金とは?算定が必要なケースを解説

平均賃金とは

平均賃金は、労働基準法や労災保険法に規定される手当や補償、減給制裁の制限額の算定基礎となります。

原則として、「事由の発生した日以前3ヵ月間にその労働者に支払われた賃金の総額」を、「その期間の総日数(暦日数)」で除すことで算出します。

平均賃金の算定が必要なケース

平均賃金を算定基準とする手当等は、以下の通り、多岐に渡ります。

それぞれの手当等の詳細は関連法令の学習時にご確認いただくとして、ここでは平均賃金の算定が必要なケースと法定の額を挙げておきます。

労働者を解雇する場合の予告にかわる手当の算定 平均賃金の30日分以上(労基法第20条)
使用者の都合により休業させる場合に支払う休業手当 1日につき平均賃金の6割以上(労基法第26条)
労働者が業務上負傷し、もしくは疾病にかかり、または死亡した場合の災害補償等 補償により異なる(労基法第76条から82条、労災保険法)
減給制裁の制限額 1回の額は平均賃金の半額まで、複数回の減給制裁は支払賃金総額の1割まで(労基法第91条)
じん肺管理区分により地方労働局⻑が作業転換の勧奨または指示を行う際の転換手当 平均賃金の30日分または60日分(じん肺法第22条)

有休消化時の賃金算出にも平均賃金が用いられる

年次有給休暇取得日の賃金算出で、「平均賃金」を用いることもあります。

ちなみに、有休消化日の賃金額の基準は、平均賃金の他、「通常の賃金」又は「労使協定に基づく健康保険法上の標準報酬日額相当額」とすることもでき、どの方法を採用するかを就業規則に定める必要があります。

平均賃金の算定基礎とは?

平均賃金の算定基礎とは

平均賃金は、「所定の3ヵ月間に労働者に支払われた賃金総額」を元に算出します。この「3ヵ月間」「賃金総額」は原則として文字通りの捉え方となりますが、例外的に除外すべき期間や支払項目があるため注意が必要です。

平均賃金の算定基礎は、社労士試験でも狙われるポイントのため、確実におさえておきましょう。

平均賃金の算定基礎の原則は「算定期間中に支払われるすべての賃金」

原則的な平均賃金の算定基礎には、通勤手当、精皆勤手当、年次有給休暇の賃金、通勤定期券代、昼食料補助等の他、現実に支払われていなくても賃金の支払が確定しているものも含めて幅広く算定基礎となります。

月をまたいで支払われるもの、例えば6ヵ月通勤定期については、1ヵ月ごとの金額を元に算入されます。

例外的に、平均賃金の算定基礎から除外されるものとは?

算定期間中に支払われた賃金のうち、以下については平均賃金の算定基礎から除かれます。

  • 臨時に支払われた賃金(結婚手当、私傷病手当、加療見舞金、退職金等)
  • 3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金(6ヵ月ごとに支払われる賞与など。なお、3ヵ月以内ごとの期間に支払われる賞与は除外されません)
  • その他労働協約で定められていない現物給与等

以上、平均賃金はあくまで「労働者の通常の賃金」を元に算出されるべきものであることから、臨時的な支払いは加味しないこととしています。

平均賃金算定基礎から控除されるべき期間と賃金額

併せて、平均賃金の算定基礎からは、以下の期間と賃金が除かれます。

これらも、労働者にとって通常の労働とは異なる状況下であることに鑑み、平均賃金算定に含めないこととされています。

  • 業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業した期間
  • 産前産後の休業した期間
  • 使用者の責任によって休業した期間
  • 育児・介護休業期間
  • 試みの使用期間

平均賃金の算定方法を細かく確認

平均賃金の算定方法を細かく確認

平均賃金は「事由発生日以前3ヵ月間の賃金総額/その期間の総日数(暦日数)」から算定できますが、社労士の実務に従事するにあたってはこの計算式を実際に使いこなす必要があります。

ここでは社労士受験生が頭を悩ませがちな「事由発生日」「以前3ヵ月間」について、試験対策上はもちろん、実務にも活きる考え方の基本を解説しましょう。

「算定事由の発生した日」の定義

平均賃金を算定すべきケースはいくつかありますが、いつの時点を「算定事由の発生した日」とすべきかは平均賃金算定の目的によって理解しておくと良いでしょう。

例えば、解雇予告手当であれば「労働者に解雇の通告をした日」、休業手当・年次有給休暇の賃金の場合は「休業日・年休日(2日以上の期間にわたる場合は、その最初の日)」となります。

また、休業補償算出のための平均賃金算定であれば「事故が起きた日、または診断によって疾病が確定した日」、減給の制裁の場合は、「制裁の意思表示が相手方に到達した日」となります。

各手当、補償の学習に併せて明確にしておきましょう。

「以前3ヵ月」の考え方

引き続き、平均賃金算出の計算式の分子となる「事由の発生した日以前3ヵ月間にその労働者に支払われた賃金の総額」について、「以前3ヵ月」の定義を確認しましょう。

原則としては、「算定事由の発生した日の前日から遡って3ヵ月」です。雇入後3ヵ月に満たない者については、雇入後の期間とします。

ただし、賃金締切日がある場合は、「直前の賃金締切日から遡って3ヵ月」、賃金締切日に事由が発生した場合は、「事由発生以前の締切日から遡及すること」とされている点に注意します。

時給制等の場合の平均賃金算定方法

時給制、日給制、出来高制の場合、以下の原則的な計算式①と計算式②の算出額を比較し、いずれか高い方を平均賃金として扱います。

① 事由発生日以前3ヵ月間の賃金総額/その期間の総日数(暦日数)

② (事由発生日以前3ヵ月間の賃金総額/その期間に働いた総日数)×0.6

なぜこのような考え方を採用するかというと、労働日数・時間が少ない場合の賃金をその期間の総日数(暦日数)で除してしまうと著しく低額となるおそれがあるからです。

この点、②で導き出した額を最低保障額に設定することによって、時給制等の平均賃金算出時に生じる不利益を回避することができます。

「平均賃金」の社労士試験出題実績

平均賃金の社労士試験出題実績

このページでは、「平均賃金」について、社労士試験で頻繁に問われるポイントを主軸に解説しました。「平均賃金」というと、一見するとさほど難しくないように感じられます。

しかしながら、社労士実務を想定し、平均賃金の定義や算出ルール等を詳しくみていくと、意外と分かりづらい点が多いことに気が付くのではないでしょうか?単に計算式のみを頭に入れるだけでなく、実際に活用できるレベルにまで落とし込んで、理解を深めることが肝心です。

最後に、過去の社労士試験で「平均賃金」がどのように問われるかを確認しておくことにしましょう。

算定事由の発生した日(平成25年労基法)

以下の選択肢について、正誤を判別する問題です。

「労働基準法第91条に規定する減給の制裁に関し、平均賃金を算定すべき事由の発生した日は、減給制裁の事由が発生した日ではなく、減給の制裁が決定された日をもってこれを算定すべき事由の発生した日とされている。」

回答:×

「減給の制裁が決定された日」ではなく、「減給の制裁の意思表示が相手方に到達した日」を算定事由発生日とします。

平均賃金の算定基礎(平成24年労基法)

以下の選択肢について、正誤を判別する問題です。

「労働基準法に定める「平均賃金」とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3ヵ月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいい、年に2回6ヵ月ごとに支給される賞与が当該3ヵ月の期間内に支給されていた場合には、それも算入して計算される。」

回答:×

設問の「年に2回、6ヵ月ごとに支給される賞与」は、賃金総額から除外される「3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当するため、算入しません。

この他「臨時に支払われた賃金」についても除外します。

平均賃金の算定期間(平成5年労基法)

以下の選択肢について、正誤を判別する問題です。

「平均賃金を算定する際には、年次有給休暇について支払われた賃金及びその休暇日数を、平均賃金を算定する事由の発生した日以前3ヵ月間の賃金総額及びその期間の総日数から控除しなければならない。」

回答:×

年次有給休暇中の賃金や日数は、平均賃金の算定基礎に含まれます。除外される賃金と期間は、以下の通りです。

  • 業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業した期間
  • 産前産後の休業した期間
  • 使用者の責任によって休業した期間
  • 育児・介護休業期間
  • 試みの使用期間

まとめ

  • 平均賃金は、労働基準法や労災保険法に規定される手当や補償、減給制裁の制限額等の算定基礎となります
  • 平均賃金の計算式は「事由発生日以前3ヵ月間の賃金総額/その期間の総日数(暦日数)」ですが、時給制、日給制、出来高制の場合は「(事由発生日以前3ヵ月間の賃金総額/その期間に働いた総日数)×0.6」を最低保障額とし、原則的な計算式との比較でいずれか高い方とします
  • 社労士試験対策上、平均賃金計算式の「事由発生日以前3ヵ月間に労働者に支払われた賃金総額」「その期間の総日数(暦日数)」については一歩踏み込んで理解し、実際に計算式を活用して平均賃金を算出できるようにする必要があります
  • 平均賃金は社労士試験頻出のテーマのため、過去問から出題傾向を把握し、おさえるべきポイントについて理解を深めておきましょう
この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

「そうだったのか!」という驚きや嬉しさを積み重ねましょう
【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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