社労士目指すなら知っておきたい!労基署の是正勧告対策

ある日突然、会社に調査が入り、労働関係法令違反を指摘される・・・。労働基準監督署の臨検や是正勧告といった会社にとっての不測の事態も、かたや社労士にとってはビジネスチャンスとなる可能性があります。社労士を志す皆さんであれば、労基署の是正勧告対策を正しく知り、いざ企業から相談があった際に適切な対応ができるようにしておくのが得策です。

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目次

社労士なら知っておくべき、「是正勧告」の基礎知識

社労士なら知っておくべき、「是正勧告」の基礎知識

是正勧告をきっかけに、その対応を社労士に相談する企業は少なくありませんが、一方ですべての社労士が是正勧告対応に精通しているわけではありません。実際のところ、労基署出身の社労士でない限り、社労士であってもつい、労基署や労働局からの指摘には必要以上に身構えてしまうこともあるでしょう。

しかしながら、企業の労務顧問・専門家である社労士であれば、当然のことながら万が一の際の適切な対応を把握しておかなければなりません。

まずは是正勧告のきっかけとなる臨検(調査)の種類を知り、関与先が調査対象となった趣旨を正しく理解しておくことが肝心です。

是正勧告はどんな時に行われるの?

ひと口に「臨検」といっても、その種類は大きく4つに分かれます。

前述の通り、企業側にはその趣旨に合った対応が求められることは言うまでもありません。現場にとっては「労基署が調査に来る」というだけで慌ててしまう出来事ですが、専門家としては臨検の種類から冷静に対応を検討し、事業主に対しては調査の趣旨や準備を説明できるようにしておく必要があります。

ここでは、労基署の臨検の種類について、「定期監督」「申告監督」「再監督」「災害時監督」を解説します。

労基署の臨検①「定期監督」

労基署が実施する臨検監督のうち、一般的なのは「定期監督」です。

定期監督は、各都道府県労働局が策定する行政方針に基づき、労働基準監督署が調査対象とする業種や調査内容を定め、定期的な計画に基づいて行われる調査を指します。

事前の予告なしに実施される例もあり、「ある日突然、労基署が調査にやってきた」というケースがまさに定期監督に該当します。

しかしながら、実務上はあらかじめ電話で調査日の連絡が入るケースの方が多いようです。

労基署の臨検②「申告監督」

「申告監督」とは、文字通り、労働者等からの申告に応じて、労基署が申告内容と実態の確認のための行う調査のことです。

形式的には、労働者から申告があったことが伏せられ、定期監督のように行われることが多いですが、申告内容によっては申告監督であることを明らかにした上で実施するケースもあります。

労基署等への申告は、労働者が直接窓口に出向いて行う他、厚生労働省のウェブサイトにある「労働基準関係情報メール窓口」から行うことも可能となっており、近年では労働者にとって声を上げやすい環境が整備されています。

労基署の臨検③「再監督」

過去に定期監督や申告監督等の臨検を受け、是正勧告が行われた企業に対しては、「再監督」によってその後の是正状況が確認されることがあります。

再監督の対象となる例としては、以前の是正勧告を受けて報告書で方針を示した場合の状況確認の他、過去に是正勧告を受けたにも関わらず指定期日までに是正報告書を提出しなかったケースもあります。

企業から再監督についての対策を相談された場合、以前の是正勧告への対応状況を正しく確認することから、今後に向けた検討が始まります。

労基署の臨検④「災害時監督」

「災害時監督」とは、労働災害によって被災者の死亡や重篤な傷害、複数人の被災があった場合、事故報告書などから法違反の可能性が疑われるケースで実施されます。

これまでに解説した定期監督、申告監督、再監督は主に労務管理に関わる法違反の有無や取り組みの適正さを確認するものですが、災害時監督は労働基準法上の是正の他、労働安全衛生法の遵守状況から、災害発生原因の把握と解消、再発防止を図る目的で行われる調査です。

災害時監督では、労災事故発生後に提出された死傷病報告や労災の請求書の内容から、調査対象が抽出されます。監督時には、主に作業方法や作業に用いる機械、作業環境に関わる確認事項について、業務遂行の状況や管理体制に関わる調査が行われ、必要に応じて是正勧告を受けます。

社労士による是正勧告対策 実務のポイント

社労士による是正勧告対策 実務のポイント

是正勧告対応を相談された社労士は、行われた調査の内容を正しく把握した上で、勧告内容を確認し、実態を踏まえて是正に向けた取り組みを検討します。

労基署による臨検の種類には複数ありますが、ここではいかなる調査を受けた場合にも共通して心得ておくべき、是正勧告対策のポイントを2点挙げておきます。

是正勧告の内容に合った、迅速かつ誠実な対応

まず大前提として、是正勧告対応の基本は「勧告内容に沿った取り組みを誠実に行うこと」にある旨をしっかりと心得ましょう。

会社側からは、「こんなに小さな会社がそこまでの取り組みに対応するのは難しい」「そんなに細かなところまで徹底していたら会社が潰れてしまう」等の声が上がることも少なくありませんが、会社規模を問わず、会社として守るべきことは、法律上多岐に渡ります。

社労士であれば、使用者に対し法令遵守の必要性を十分説明した上で、会社と共に、前向きに是正に向けた取り組みを進めていかなければなりません。

もっとも、ご自身が顧問として関わってきた会社が臨検の結果、是正勧告を受けたということになれば、社労士自身が勧告内容を受け入れられないといった状況もあるかもしれません。

しかしながら、是正勧告を受けるということは、明らかな法令違反、改善すべき点があるということに他なりません。「事業主には再三言っていたのに聞いてもらえなかった」「以前に労基署の担当者がそれで良いといった」等、顧問社労士としての言い分もあるでしょうが、まずは状況を真摯に受け止め、今後に目を向けていく姿勢が肝心です。

また、是正勧告を受けた後の報告書の提出期限は、比較的タイトに設定されていることがほとんどです。迅速な取り組みと期限厳守への対応は不可欠と言えます。

さらなる是正勧告の原因を取り除く

目の前の是正勧告対応と併せて、社労士が目を向けるべきは「リスク管理」です。

勧告の内容に対応するだけであれば、社労士でなくても、会社の担当者レベルでこなせてしまうかもしれません。労務管理の専門家である社労士の仕事であれば、今回指摘を受けた内容の他、更なる労務トラブルの火種がないかを確認することにも対応しておきたいところです。

もちろん、現段階で法違反があれば、直ちに法に合うように改善しておくべきことは言うまでもありません。

社労士にとって「是正勧告」などの企業のピンチこそがチャンス

社労士にとって「是正勧告」などの企業のピンチこそがチャンス

労基署の監督対象となる企業の多くはすでに問題を抱えている可能性が高いため、特に実務経験に乏しい社労士の場合、積極的な関与を避けがちなケースは少なくない様です。

とはいえ、他士業との比較の中で企業関与率の低さが問題視される社労士業においては、臨検や是正勧告をきっかけとした企業支援は、貴重なビジネスチャンスともなり得ます。

もちろん、臨検・是正勧告への対応業務は容易ではありませんが、社労士としてご自身の今後の可能性を広げる分野と言えますから、過度に敬遠せず挑戦していく姿勢が大切です。

まとめ

  • 是正勧告のきっかけとなる労基署の臨検には、大きく分けて「定期監督」「申告監督」「再監督」「災害時監督」の4種類があります
  • 臨検の結果、求められる是正勧告の内容は主に労働基準法関連の是正ですが、災害時監督では労働安全衛生法の観点での確認や対応が求められます
  • 社労士が是正勧告対応に携わる際のポイントは2つ、「是正勧告の内容に合った、迅速かつ誠実な対応」「今後に向けたリスク管理」にあります
  • 臨検や是正勧告をきっかけとした企業支援は、社労士にとって今後の可能性を広げるカギとなり得ます
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この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

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【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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