「日雇労働求職者給付金」とは?社労士受験生の苦手テーマを解説

更新日:2021年7月16日

雇用保険というと、真っ先に頭に浮かぶのは失業期間中に受給できる通常の基本手当でしょう。

ところが、社労士試験対策上、雇用保険法の理解を深めるためには、より幅広い給付制度を理解する必要があります。

例えば、日雇労働者について、そもそも日雇労働者の被保険者となれることをご存じない方も多いと思いますが、この「日雇労働被保険者」に対しても失業時の給付となる「日雇労働求職者給付金」というものがあります。

日雇労働者関連のテーマは一般的になじみの薄い分野となりますが、社労士試験での出題実績もあることから確実におさえておきましょう。

目次

日雇労働者は雇用保険の被保険者になれるのか?

青空が広がる建設現場

雇用保険の通常の被保険者となるためには、「勤務開始時から最低31日間以上働く見込みがあること」「1週間あたり20時間以上働いていること」等の要件があります。

これらに鑑みれば、「日雇労働者が雇用保険の被保険者となることは不可能」と考えるのが自然でしょう。ところが、雇用保険には日雇で働く方を対象とする特別な制度があります。

まずは、日雇労働被保険者について理解しましょう。

日雇労働被保険者の要件とは?

日雇労働者とは、「日々雇用される者」「30 日以内の期間を定めて雇用される者」に該当する労働者のことを指しますが、これらの方々が以下のいずれかを満たす場合には雇用保険の日雇労働被保険者となることができます。

① 適用区域内(※)に居住し、適用事業に雇用される者

② 適用区域外の地域に居住し、適用区域内にある適用事業に雇用される者

③ 上記以外の者であってハローワーク(公共職業安定所長)の認可を受けた者

適用区域とは、特別区若しくは公共職業安定所の所在する市町村の区域(厚生労働大臣が指定する区域を除く)又はこれらに隣接する市町村の全部又は一部の区域であって、厚生労働大臣が指定するもの

ただし、連続する2ヵ月の各月において18日以上同一事業主の適用事業に雇用された場合、もしくは同一の事業主の適用事業に継続して31日以上雇用された場合は、一般被保険者または短期雇用特例被保険者の取扱いを受けることになります。

日雇労働被保険者の雇用保険料

日雇労働被保険者を雇用した事業主は、雇用保険印紙保険料と一般保険料を納付しなければなりません。

これらの保険料は所定の保険料率に基づき労使負担額を算出するものとし、事業主は日雇労働被保険者に賃金を払う都度、保険料分を控除できます。

<雇用保険印紙保険料>

  • 第1級(賃金日額11,300 円以上):176円(事業主負担88円、労働者負担88 円)
  • 第2級(賃金日額8,200円以上11,300円未満):146円(事業主負担73円、労働者負担73円)
  • 第3級(賃金日額8,200円未満):96 円(事業主負担48円、労働者負担48円)

<一般保険料>

事業の種類によって定められた保険料率で算出することとし、2021年度は以下の通り

  • 一般の事業:9/1000(事業主負担6/1000、労働者負担3/1000)
  • 農林水産、清酒製造の事業:11/1000(事業主負担7/1000、労働者負担4/1000)
  • 建設の事業:12/1000(事業主負担8/1000、労働者負担4/1000)

保険料徴収を具体例で考えてみましょう。

賃金日額10,000円の日雇労働者を雇用した建設事業の事業主が、日雇労働者負担分の保険料を計算した場合

① 雇用保険印紙保険料・・・73円[146円(第2級)×1/2(労働者負担分)]

② 一般保険料・・・40円[10,000円×4/1000(建設事業の労働者負担分)]

よって、事業主は賃金を支払う都度、労働者から113円(①73円+②40円)を徴収します。

「日雇労働求職者給付金」をざっくり解説

時計と背景にお金

日雇労働求職者給付金とは、日雇労働被保険者が失業した際に支給される給付のことで、通常の被保険者の基本手当をイメージしていただけると分かりやすいと思います。

日雇労働者の生活の安定を図りつつ、常用就職に向けて支援を行うことを目的として支給されます。

日雇労働求職者給付金には、「普通給付」と「特例給付」があります。

それぞれの相違を踏まえて社労士試験対策上必要なポイントをおさえましょう。

とりわけ、ここに登場する具体的な数字と、それぞれ何を表すものなのかを整理して学習することで、社労士試験で得点につながります。

普通給付

日雇労働求職者給付金の給付の原則は「普通給付」です。

失業した日の属する月の前2ヵ月間に、通算して26日分以上の印紙保険料が納付されている日雇被保険者が、その者の選択するハローワークで日々その日について失業の認定を受けながら給付を受けます。

「失業した日の属する月の前2ヵ月間に、通算して26日分以上の印紙保険料が納付されている」という要件については、具体例で考えると分かりやすいでしょう。

*資格取得を1月とする
1月 2月 3月 4月 5月
納付日数 14 12 11 17 13
受給資格 14+12=26 12+11=23 × 11+17=28

特別給付

前述の普通給付の要件を満たすことができない場合でも、「特別給付」の要件を満たすことで求職時の給付を受けられます。

特別給付の要件は以下の通りで、主に季節によって仕事量が変動することにより、就労と失業の期間が年間で比較的まとまっている場合に適用します。

① 失業の日の属する前6ヵ月間に各月11日以上、かつ通算して78日以上の印紙保険料を納付していること

② 基礎期間のうち後の5ヵ月間に普通給付を受けていないこと

③ 基礎期間の最後の月の翌月以降に普通給付を受けていないこと

以上の要件を満たす日雇労働者が、基礎期間の最後の月の翌月以降4ヵ月以内にハローワークに申し出て、4週間に1回ずつ失業の認定が行われることでまとめて給付を受けます。

日雇労働求職者給付金の受給手続き

日雇労働求職者給付金の受給手続きに際し、失業認定を受ける必要があります。失業認定は、普通給付と特例給付いずれの場合でも、求職申込をしたハローワークに出頭し、日雇労働被保険者手帳を提出することで受けられます。

日雇労働被保険者手帳とは、ハローワークの認可を受けて被保険者となったその日に、日雇労働被保険者に対して交付されるものです。

労働者は賃金が支払われる都度、日雇労働被保険者手帳を事業主に提示し、雇用保険印紙の貼付・消印を受け、これが保険料納付の証明となります。

日雇労働求職者給付金の「日額」は頻出

日雇労働求職者給付金の支給額は、印紙保険料の納付状況により次のとおり決められます。

※このページですでに解説している通り、印紙保険料は賃金日額によって異なり、第1級で176円、第2級で146円、第3級で96円となっています。

①第1級・・・7,500円

普通給付=第1級印紙保険料が24日以上納付されているとき

特例給付=第1級印紙保険料が72日以上納付されているとき

②第2級・・・6,200円

普通給付=第1級及び第2級印紙保険料が合計24回以上納付されているか、または納付された第1級、第2級、第3級 印紙保険料の平均額が、第2級印紙保険料の日額以上であるとき

特例給付=第1級及び第2級印紙保険料が合計72回以上納付されているか、または納付された第1級、第2級、第3級印紙保険料の平均額が、第2級印紙保険料の日額以上であるとき

③第3級・・・4,100円

普通給付=上記①及び②に該当しないとき

特例給付=上記①及び②に該当しないとき

日雇労働求職者給付金の「給付日数」は印紙保険料の納付状況で決まる

日雇労働求職者給付金の給付日数の考え方は、普通給付と特例給付で異なります。

<普通給付>

失業した日の属する月の直前の2ヵ月間における印紙保険料の納付状況に応じて、その月の給付日数が決定されます。

  • 26枚から31枚まで:13日
  • 32枚から35枚まで:14日
  • 36枚から39枚まで:15日
  • 40枚から43枚まで:16日
  • 44枚以上:17日

<特例給付>

基礎期間の最後の月の翌月以後4ヵ月の期間内の失業している日について、通算して60日を限度とし支給されます。

「60日」の数字が頻繁に狙われていますので、社労士試験対策上おさえておきましょう。

「日雇労働求職者給付金」の社労士試験出題実績

以上、日雇労働求職者給付金についてざっくり解説しました。

日雇労働求職者給付金は、一般的にあまりなじみのない制度であることから、受験生が苦手としがちなテーマの一つに数えられますが、社労士試験ではたびたび問われています。

日雇労働求職者給付金について、社労士試験での出題実績を確認しましょう。

日雇労働求職者給付金の不支給(平成18年雇用保険法)

以下の選択肢について、正誤を判別する問題です。

「日雇労働求職者給付金の支給を受けることができる者が、公共職業安定所の紹介する業務に就くことを正当な理由なく拒んだ場合、その拒んだ日から起算して10日間は、日雇労働求職者給付金は支給されない。」

回答:×

日雇労働求職者給付金の支給を受けることができる者が、正当な理由なく、公共職業安定所の紹介する業務に就くことを拒んだときは、その拒んだ日から起算して「7日間」は、日雇労働求職者給付金を支給されないとされています

日雇労働求職者給付金の給付日数(平成24年雇用保険法)

以下の選択肢について、正誤を判別する問題です。

「日雇労働被保険者が失業した日の属する月における失業の認定を受けた日について、その月の前2月間に、その者について納付されている印紙保険料が通算して28日分である場合、日雇労働求職者給付金のいわゆる普通給付は、その月において通算して13日分を限度として支給される。」

回答:

日雇労働求職者給付金の普通給付については、失業した日の属する月の直前の2ヵ月間における印紙保険料の納付状況に応じて給付日数が決定され、13~17日分の間で定められています

まとめ

  • 雇用保険には、常用労働者に適用する制度の他、日雇労働者を対象とする特別な被保険者制度があります
  • 日雇労働者が雇用保険被保険者となるためには、「日々雇用される者」「30 日以内の期間を定めて雇用される者」に該当し、雇用保険適用事業所に雇用される、もしくはハローワークの認可を受ける必要があります
  • 日雇労働被保険者の雇用保険料は、労働者に支払われる雇用保険印紙保険料と一般保険料をから算出されます
  • 日雇労働求職者給付金とは、日雇労働者の失業時に支給される給付のことで、「普通給付」と「特例給付」の2種類があります
  • 日雇労働求職者給付金の支給要件及び給付日額は、普通給付と特例給付それぞれについて社労士試験頻出のポイントです
この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

「そうだったのか!」という驚きや嬉しさを積み重ねましょう
【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

社労士コラム一覧へ戻る