社労士にとって「障害年金」は儲かる市場?報酬相場や需要からビジネスを考察

障害年金専門社労士

「社労士試験に合格したら、●●分野の専門家を目指したい!」と明確なビジョンをお持ちの方は、少なくないと思います。

幅広い業務分野を網羅する社労士業では、専門分野を定めずに手広く活躍するのも良いですが、一方で特定分野のスペシャリストとして強みを活かした働き方もまた、差別化につながる有効な手立てとなります。

本ページでは、障害年金専門の社労士としての働き方に着目することにしましょう。

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目次

「障害年金専門社労士」ってどうなの?

社労士というと、一般的には「企業顧問」のイメージが強いと思います。

しかしながら、労務相談や年金といった分野を中心に、個人向けにビジネスを展開することも可能です。

数ある年金の中でも、とりわけ障害年金は当事者が裁定請求を進めることが困難であり、年金の専門家である社労士による関与が特に進む分野とされています。

インターネット等で「障害年金専門」「社労士」と検索すると、いくつもの事務所のウェブサイトがヒットするでしょう。

ここでは、障害年金を専門とする社労士の可能性について、主に需要と報酬の側面から解説していきます。

「何でも屋」よりも「障害年金専門」が社労士の武器になる

「専門分野を定めて社労士として仕事をするのでは、業務範囲が狭まり、ビジネスチャンスに恵まれないのではないか」と懸念される方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、取扱業務の範囲は広い方が、顧客のターゲットを幅広く確保しやすくなると考えることができます。

しかしながら、昨今では顧客側の情報収集ツールの中心がウェブとなりつつあることを鑑みれば、特定の専門分野に絞り込んで情報発信する方が検索でヒットしやすく、効率良く集客できるとも捉えることが可能です。

もちろん、社労士であれば、個人に向けてよりも企業向けサービスを拡充する方が、相対的には高い需要を見込むことができるでしょう。

しかしながら、企業向けのビジネス展開となれば多くの社労士事務所と競合することになり、小規模の社労士事務所であれば思うような受注を見込めないケースは珍しくありません。

このように、社労士事務所が「●●専門」の看板を掲げることでより集客しやすくなることに加え、同業との差別化を図ることが可能となります。障害年金に特化することは、専門を活かして働く社労士の典型例と言えるでしょう。

社労士にとっては難しいが、需要の高い障害年金分野

社労士として活躍する上で、「どの分野に注力するか」は開業当初にしっかりとビジョンを定めておくべきです。

すでに特定分野での知識や経験を有するのであればそれを活かすのがベストですが、これから社労士業界に新規参入しようという方であれば「需要の高さ」から専門分野を決めるのも良いでしょう。

後者の場合、「障害年金」は有力な候補のひとつとなります。

なぜ社労士が障害年金に注目すべきなのかといえば、障害年金特有の請求の難しさがあるためです。

大前提として、障害年金の請求を検討するのは何らかの病気を患っている方ですから、ご自身で複雑な年金請求に取り組むことは難しいでしょう。

また、障害年金の裁定請求では、保険料納付要件や初診日要件等の満たすべき要件がいくつもあることに加え、適正額を受給するためには申請上のポイントをふまえる必要があります。個人の年金請求の中では特に知識や経験が求められる分野だからこそ、費用を負担してでも代行を依頼したいという方がたくさんいます。

一方、社労士試験に合格した社労士であっても、全ての者が障害年金に詳しいわけではありません。

試験では障害年金に関わるごく基本的な部分の知識しか習得せず、「障害年金専門」を掲げるにあたっては独自の勉強、情報収集が不可欠となります。

弁護士との差別化として心がけるべき障害年金専門社労士のスタンス

障害年金の裁定請求代行は、社労士だけでなく、弁護士も行うことができます。

最近では、弁護士が労働・年金等の社労士の専門業務に注力する例も見受けられ、障害年金分野についても例外ではありません。

障害年金の裁定請求代行の依頼先を弁護士とするか、社労士とするかについては、顧客側が決定することですが、社労士としては「豊富な専門知識・経験」はもちろん、「相談業務の敷居の低さ」や「報酬」の面で弁護士との差別化を図ることができます。

ただし、障害年金の裁定請求を社労士が代行する場合、弁護士との連携に目を向けるべきケースがあります。

一例としては、交通事故によって障害状態に陥った事例が想定され、交通事故の賠償金を算出する際に弁護士を介した方が良い場合もあるようです。

障害年金を専門とする社労士であれば、顧客利益を最優先事項として、他士業との差別化と併せて必要に応じた連携も視野に入れて業務にあたる必要があります。

障害年金を専門とする社労士は儲かる?

障害年金を専門とする社労士

これまでは、障害年金を専門とする社労士の可能性について、前向きな方向でお話をさせていただきました。

社労士にとって専門分野を有することは集客や差別化の面で武器となり、とりわけ障害年金分野については高い需要を見込むことができます。

とはいえ、ビジネスである以上、やはり重要なのは「その仕事で十分に稼げるかどうか」でしょう。

ここからは、障害年金専門の社労士は儲かるかどうかについて、報酬相場と業務特性の観点から解説していきます。

社労士に障害年金請求を依頼する場合の報酬体系

「障害年金を専門とする社労士がどの程度儲かっているのか」。

この問いの答えは、「人それぞれ」と言わざるを得ない部分がありますが、報酬体系等からある程度のシミュレーションをしていただくことは可能です。

障害年金の裁定請求代行に関わる報酬体系は、概ね「着手金+成功報酬」もしくは「成功報酬のみ」となっています。

着手金を設定する場合の相場は1~3万円程、初回相談は無料とする事務所が多いようです。

こうした報酬体系ゆえ、社労士としては、寄せられる相談の中からある程度「裁定請求の成功」をイメージできる案件のみ厳選して、受注することが求められます。

社労士による障害年金請求 成功報酬の相場は?

さて、気になる成功報酬についてですが、こちらも報酬体系同様、傾向があります。

具体的には、「年金の2ヶ月分(加算分を含む)相当額」もしくは「遡及された場合は遡及分も含めた初回入金額の10~20%」のうち、いずれか高額となる方を報酬としています。

障害年金としていくら受給できるようになるかは、障害等級や厚生年金加入状況、加算対象となる、子や配偶者の有無、遡及分の有無によって異なります。

特に遡及分の額については初診日に応じて大きく変動する可能性がありますから、代行者の腕の見せ所となります。

社労士として障害年金の制定請求を代行するのであれば、遡及適用できる期間や障害等級に着目し、顧客がより多くの額を受給できる様に取り組むことで、自身の報酬増を狙うことが肝心です。

障害年金分野に社労士の需要はあれど、「儲け続ける」ことが難しい可能性も

障害年金の裁定請求代行は、社労士にとって高い需要を見込める分野と考えることができます。

また、案件によっては高額報酬を見込むことも可能であることから、社労士が障害年金を専門とする意義は大いにあると言えます。

しかしながら、障害年金を主軸とする上では、下記の懸念事項を把握しておく必要があります。

  • 相談を受けても受注に至らない案件が多数存在する
  • 社労士側が障害年金に精通している必要がある
  • 初診日要件の確認等、裁定請求までに時間を要する
  • 企業顧問の様に、毎月安定した収入を見込むことができない
  • 障害は個人のデリケートな問題であることから、顧客対応に細心の注意が求められる
  • あくまで成功しなければ報酬が発生しない

需要は見込めるものの、ビジネスとなれば何かと難しい部分の多い障害年金の裁定請求代行。専門分野として看板を掲げる前には、上記のポイントを中心に慎重な検討が求められます。

障害年金を専門とする社労士になるために必要なノウハウ

必要なノウハウ

これまでのお話を踏まえ、「やっぱり障害年金専門の社労士になりたい!」という方であれば、その方向で前向きに頑張っていきましょう。

大前提として、まずは「社労士試験に合格すること」が目下の目標となりますが、それ以外にも障害年金を専門とする上での心構えを作っておくことで、モチベーション高く将来のビジョンを描くことが可能となります。

ここでは、障害年金を専門とする社労士に求められる姿勢として、大きく分けて2つのポイントをご紹介します。

障害年金専門社労士となる覚悟をもつ

障害年金に限らず、特定の専門分野で活躍しようと決めたなら、「覚悟をもつ」ことが肝心です。

具体的には、障害年金のスペシャリストとして活躍すべく、試験合格後も常に勉強に取り組む姿勢を維持することです。

もちろん、社労士としてどんな業務に従事しようとも、学ぶ姿勢は大切です。しかしながら、とりわけ障害年金は、受給できるかどうかで顧客の人生が大きく左右されますから、代行者として特に失敗の許されない業務と考えて間違いないでしょう。

社労士業界には、障害年金分野に特化した研究会や勉強会等のネットワークがいくつかありますから、そういったものに所属して知識を高めていくことができます。

障害年金専門でやっていくと決めたなら、他業務に浮気せず、あくまで障害年金一筋を貫くべきです。

「審査請求」に前向きなスタンスを貫く

障害年金を専門に扱うなら、「審査請求」への対応に向けた知識を習得し、意欲的に実務に従事する姿勢が求められます。

障害年金の裁定請求には新規の請求の他、一旦行政が決定した内容を覆す手続きである審査請求があります。

当然、審査請求に対応するためには高度な知識が求められるため、障害年金専門を掲げる社労士であっても積極的な受注を避けるケースは珍しくありません。

この点、積極的に審査請求を学び、専門性を高めていくことで、他との差別化を図りやすくなります。

とはいえ、開業当初から再審請求に精通している方も少ないと思います。障害年金の裁定請求に関わる実務経験に乏しければ、まずは勉強会等で貪欲に知識を蓄え、ご自身の血肉にしていくことから始めましょう。

そして、相談された案件には進んで対応していくことで、おのずと知識・経験が備わります。

まとめ

  • 特定分野に特化する社労士の中には、障害年金を専門とする方も少なくありません
  • 数ある社労士の専門分野の中でも障害年金は特に需要が高いと言えますが、一方でビジネスの主軸とする上では「高度な知識が求められる」「業務遂行に時間を要す」「安定した収入につながりにくい」等の懸念事項があります
  • 障害年金の裁定請求代行に関わる報酬体系は、概ね「着手金+成功報酬」もしくは「成功報酬のみ」であり、着手金は1~3万円程、成功報酬は「年金の2ヶ月分(加算分を含む)相当額」もしくは「遡及された場合は遡及分も含めた初回入金額の10~20%」のうち高額となる方が設定される傾向にあります
  • 障害年金専門社労士として実務家を目指すなら、常に知識・経験を高め、困難な案件にも積極的に挑戦していく姿勢が求められます
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この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

「そうだったのか!」という驚きや嬉しさを積み重ねましょう
【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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