社労士実務の豆知識「懲戒解雇」の該当事例!手続きや退職金との関係等

解雇の種類は「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」と様々ありますが、このページでは「懲戒解雇」について解説しましょう。

「懲戒解雇」は、社労士試験で深く問われることはないものの、社労士の実務では意外と理解しておくべきテーマであるため、注意が必要です。

社労士として実際に懲戒解雇の事例を取り扱うことはなくても、就業規則作成時には必ず懲戒規定についての検討が必要であり、その際に正しい知識を有していなければならないからです。

目次

社労士実務上おさえるべき「懲戒解雇」とは?

懲戒解雇とはどんなことか、皆さんは説明できるでしょうか?

ごく一般的な認識としては、ざっくり「懲戒解雇=クビ」と位置付ける程度で問題ありませんが、社労士受験生であればもう一歩踏み込んで懲戒解雇を理解しておかなければなりません。

まずは社労士試験対策上、そして実務上おさえておくべき「懲戒解雇の定義」を解説します。

懲戒解雇は「企業秩序違反行為」に対する制裁罰

懲戒解雇は、会社が労働者に対して行う処分としては最も重いペナルティです。

具体的には「労働者としての義務や規律違反といった企業の秩序維持を著しく乱す者に行われる解雇」のことで、いわば労働者の悪質な違反行為や非行に対する制裁罰として考えられます。

懲戒解雇事由は就業規則や労働契約書に定めをおくことになっていますが、会社が決めた要件が必ずしも正当な懲戒解雇事由として認められるわけではなく、不当解雇と判断される場合もあるため、企業側は注意が必要です。

懲戒解雇が認められるための判断基準

懲戒解雇が認められる事例は、主に判例から確認できます。

具体的な事由としては以下6つの例が典型です。

  • 業務上の地位を利用した犯罪行為(横領など)
  • 会社の名誉を著しく害する重大な犯罪行為(殺人や強盗など)
  • 重大な経歴詐称
  • 長期の無断欠勤
  • セクハラやパワハラ
  • 就業規則上の懲戒処分該当行為を繰り返し行う

ポイントは、労働者の行為が「悪質な規律違反」「重大な背信行為」であることです。

労働基準監督署による解雇予告除外認定を受ければ、解雇予告の対象外として即時解雇が可能となります。

懲戒処分は解雇だけではない

ところで、一般的に「懲戒」というと「クビ(解雇)」のイメージが強いようです。

しかしながら、懲戒処分には行為の重大性や悪質性に応じたいくつかの段階、種類があります。

社労士受験生であれば、解雇以外の懲戒処分についても大まかに把握しておきましょう。

① 戒告

文書や口頭によって厳重注意をし、将来を戒める処分

② 譴責(けんせき)

始末書を提出させて将来を戒める処分

③ 減給

賃金の一部を差し引く処分

④ 出勤停止

一定期間の出勤を禁止する処分

⑤ 降格 

地位や職位を引き下げる処分

⑥ 諭旨解雇

退職届の提出を促す処分。

労働者から退職届の提出がない場合は懲戒解雇に移行する

⑦ 懲戒解雇

制裁として、労働者を一方的に解雇する処分

懲戒解雇の手続きの流れ

懲戒解雇は、悪質性の高い規律違反や重大な背信行為を犯した労働者に対するペナルティとして課される処分です。

いわば労働者側の責に帰す事由によって行われるものではありますが、労働者の生活や将来に大きな影響を与える厳しい処分であるために、慎重かつ適正な手続きによって行われなければなりません。

ここからは、社労士が実務上おさえておくべき懲戒解雇の流れを解説しましょう。

① 大前提として、就業規則に懲戒規定を設けておくこと

解雇を含む懲戒処分は、必ず就業規則等に根拠を置く必要があります。

とりわけ解雇に係る事由は、就業規則の絶対的記載事項のひとつとなっている関係から特に重視されており、判例では「就業規則に懲戒解雇の規定がない」として懲戒解雇が無効となったケースもあります。

就業規則にも雇用契約にも懲戒解雇事由が明記されていない場合、どんなに悪質な行為をしたとしても、懲戒処分として解雇することは困難となります。

この場合、普通解雇扱いとなり、悪質な労働者も原則、解雇予告や退職金支払いの対象とします。

② 事実確認

懲戒解雇は労働者に対する非常に厳しいペナルティであるため、これを課す企業側には慎重な判断が求められます。

懲戒の該当事例が生じた際、会社がまず取り組むべきは「客観的な事実確認」です。

誰がいつ何をしたのか、それによって会社(または他の労働者)にどのような影響があったかを正確に把握します。

③ 処分の検討

確認した事実を元に、どんな処分に課すのが適切かを、合理的かつ客観的な観点から検討します。

懲戒処分には前述の通り、戒告、譴責(けんせき)、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇の7種類がありますが、行為の重大性や悪質性に照らし合わせ、慎重な判断が求められます。

④ 本人への説明および弁明の機会を設ける

処分内容を決定したら、懲戒対象者に対して懲戒解雇通知書を交付し、これまでに会社で把握している事実とこれに対する処分内容の説明を行います。

会社から行う説明と同時に、本人には弁明の機会を与え、処分を下す前に十分に意見を聞く必要があります。

⑤ 懲戒解雇の実施

①~④の手続きを経て、懲戒解雇事由に該当すると判断したら、解雇の処理を進めていきます。

解雇に伴い必要な事務処理として社会保険関係の諸手続きがあり、これらは通常の退職同様の流れとなりますが、一つ大きく異なるのは雇用保険離職票の記載です。

懲戒解雇の場合、雇用保険離職票の離職理由欄には、離職理由欄の4(2)の「重責解雇」にチェックをつけてハローワークに送付することになります。

<番外編>懲戒委員会とは?

ちなみに、事実確認から処分の検討、関係者への意見聴取、本人への弁明の機会付与など、懲戒処分に係る一連の取り組みのために、社内に懲戒委員会を設けることも可能です。

懲戒委員会とは、懲戒処分を合理的かつ客観的に決定するための組織であり、通常、役員や管理監督者、労働者代表などで構成されます。

懲戒委員会を設ける場合には、就業規則への記載と労働基準監督署への届け出が必要になります。

ただし、この懲戒委員会には法律上の設置義務がないこと、適正な流れで開催されなければ決定された懲戒自体が無効となる可能性があること等に鑑みれば、「あえて懲戒委員会を設けない」という選択もできます。

よく誤解されがちなのですが、「懲戒委員会を設置して決議しなければ、懲戒処分ができない」というわけではありませんので、十分に検討すべきでしょう。

必ずしも「懲戒解雇=退職金不支給」ではない

「会社を解雇された」というと「退職金はもらえなくても仕方ない」と考えがちですが、実務上、必ずしも退職金不支給とできるわけではありません。

なぜかというと、退職金には功労報償的な性質があるため、「解雇事由に該当する行為」と「過去の労働に対する評価」は区別して考えるべきとされているからです。

もちろん、懲戒解雇の場合には、過去の貢献や評価を全て抹消させてしまう程度の著しい不信行為があったと判断されるケースも珍しくありませんが、行き過ぎた処分と判断されないよう、慎重な検討が求められるでしょう。

また、「懲戒解雇処分にした社員に対しては退職金を支給しない」旨を就業規則に明記し、懲戒解雇時の退職金不支給の根拠を社内規程に置いておくことも肝心です。

懲戒解雇でも解雇予告を不要とするために労働基準監督署の認定が必要

懲戒解雇の場合でも、原則は解雇予告が必要となりますが、労働基準監督署に解雇予告除外認定の申請を出すことで即時解雇が可能となる場合があります。

懲戒解雇は「従業員の責に帰すべき事由」による解雇であり、とりわけ悪質性や重大性の高い事例であるため、実務上は必要に応じて認定を受けることを検討します。

まとめ

  • 「懲戒解雇」のキーワードについて、社労士試験で深く問われることはありませんが、実務上は必ずおさえておく必要があります
  • 懲戒解雇は労働者に対する最も重い処分で、「労働者としての義務や規律違反といった企業の秩序維持を著しく乱す者に行われる解雇」を指します
  • 懲戒解雇は就業規則や労働契約書に定める事由に該当した際に行われますが、有効な解雇として認められるか否かは、判例を元に客観性や合理性の観点から判断されます
  • 懲戒処分は、事実確認、第三者への意見聴取、本人への弁明機械の付与といった一連の手続きを経て、厳正に実施されなければなりません
  • 懲戒解雇の場合でも、直ちに即時解雇が可能になったり、退職金不支給となったりするわけではありません
この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

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【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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