社労士試験は「公務員優遇」?科目免除の内容や合格率を考察

並んでる人たちと一人だけ光ってる人

「社労士試験は公務員が目指すと有利」という話を聞いたことのある方も、いらっしゃるかもしれません。実際のところ、公務員としての勤務実績が社労士試験の科目免除対象となっており、その合格率は例年、全国平均以上となっています。

ところで、実際のところ、公務員としてのキャリアは社労士試験にどの程度役立つのでしょうか?このページでは、公務員が社労士試験を受験する際の科目免除の内容や、メリットやデメリットについて解説します。

目次

社労士試験の「公務員特例免除」とは?

公務員として一定以上の勤務実績がある受験生は、社労士試験科目の一部の受験が免除されます。こうした取り扱いが、「社労士試験は公務員優遇である」といわれる所以です。

まずは、社労士試験における公務員特例免除となる公務員の要件と、免除科目、公務員特例免除を受けた受験生の合格率について把握しましょう。

社労士試験科目が一部免除になる公務員の要件

社労士試験科目の免除対象となる公務員の要件は、試験センターが公開する「試験科目の一部免除資格者一覧」より確認できます。

ざっくりいうと、「国や地方公共団体の公務員として労働・社会保険関係法令の施行事務に従事した期間が通算して10年以上になる者」を中心に、特定の職に就き実務に携わった経験が5年以上ある者等も要件に含まれます。

なお、公務員としての実務経験の他、労働基準法及び労働安全衛生法については「労働基準監督官採用試験に合格した者」についても科目免除の対象となります。

公務員特例で免除となる社労士試験科目

公務員特例免除は、社労士試験科目すべてに設定されており、比較的幅広く認められていることが分かります。免除となる科目は、公務員として携わってきた実務や合格した試験内容に応じた関連法令であり、前述の「試験科目の一部免除資格者一覧」より詳細を確認できます。

公務員特例免除の場合の社労士試験合格率

公務員特例免除を受けた受験者の数や合格者数、合格率は、毎年の合格発表時にその詳細が公表されています。

2019年度の第51回社労士試験結果は、下記の通りです。

  • 受験者数 38,428人 (うち公務員特例の免除者492人)
  • 合格者数  2,525人 (うち公務員特例の免除者 67人)
  • 合格率    6.6% (公務員特例の免除者   13.6%)

出典:社会保険労務士試験オフィシャルサイト「第51回(令和元年度)社会保険労務士試験についての情報」

公務員特例免除者の合格率は例年、概ね10~15%の間で推移しており、科目免除のない受験者の合格率と比較すると2倍ほどとなるケースがほとんどです。

労働・社会保険関連実務に携わっていた経験から、免除科目以外の周辺法令に関わる知識を十分備えていた可能性はありますが、一方で、科目免除を受けて他の試験科目に時間をかけることができたという見方もできます。

いずれにせよ、公務員特例免除は、社労士試験において一定のメリットをもたらす制度と言えるのではないでしょうか。

公務員が社労士試験を受験するメリット

紙飛行機

公務員の実務経験を活かして社労士試験に挑戦するメリットは、「科目免除」のみではありません。公務員が社労士試験を受験することで、公務員の実務に活きる知識と共に、将来につながる新たな可能性を手に入れることができます。

実務経験の延長上で専門性を高められる

公務員として労働・社会保険関連法令に関わる仕事をしていたとしても、肝心な法令を体系的に理解できているかといえば、必ずしもそうではありません。どんな資格でも「試験と実務は別物」と言いますから、「実務をこなせる=知識が豊富」の構図は無条件に成り立つものではないでしょう。

この点、公務員が社労士試験に挑戦することで、従事している仕事の土台となる知識を習得し、仕事の延長上で専門性を高めることができます。公務員としてのキャリアにも、プラスに活きること間違いありません。

「元公務員」の肩書が、社労士開業の際に役立つ

加えて、公務員人生のその後を考えたときにも、社労士試験への挑戦が役に立つ道があります。開業社労士のうち行政出身者は少なくありませんが、公務員としてのキャリアを有する方が社労士に転身する場合、行政側の内情を熟知していることを仕事に活かすことができます。

例えば、労働基準監督署による臨検監督への対応、年金の裁定請求といった行政相手の対応時には、やはり行政としての視点が不可欠です。「元公務員」として行政対応に関わる業務を専門にできれば、社労士として開業する際の強みとなるのではないでしょうか。

社労士試験で公務員特例免除を活用する際の注意点

黄色の注意マーク

このように、試験対策上、そして第二のキャリアを考えたときに、公務員が社労士試験に挑戦するメリットは多岐に渡ります。しかしながら、公務員特例免除を活用した社労士試験受験には、いくつか気を付けなければならない点もあり、受験生にとっては意外な盲点となっています。

ここでは、公務員が科目免除を受けて社労士試験受験をする上での注意点をまとめます。

社労士試験と公務員試験はそもそも毛色が異なる

まず、「社労士試験と公務員試験は大きく異なる試験である」ことを心得ておかなければなりません。公務員の方が社労士試験を受験する場合、「自分は公務員試験に合格したのだから、どうにかなるだろう」と油断して取りかかるケースは珍しくありません。

確かに、公務員試験でも、社会科学分野への対応として法律を学びます。しかしながら、そもそも社労士試験と公務員試験では問われる法律が異なる上に、出題内容の難易度は圧倒的に社労士試験の方が高いといえます。

また、科目免除を活用するとはいえ、公務員として実務に携わっている法律以外の科目への習熟が必要になることを忘れてはいけません。

受験申込時に申請が必要

加えて、公務員特例免除の申請に係る手続きについても注意が必要です。公務員特例免除を利用する場合には受験申込時に申請しなければならず、これに付随して実務経験等の証明が必要となります。

受験生の中には、社労士試験への挑戦をオープンにしたくないという方も少なくないでしょうから、受験に先立ち必要な証明を受けなければならないことがネックとなります。

免除科目を普通に受験した方が良いことも

もっとも、実務経験を有する関連法令については、安易に免除申請をせず、他の受験生同様に受験をした方が良い場合があります。なぜかというと、公務員特例として免除を受けた科目は、採点上、満点換算されるのではなく、その年の合格基準を考慮した上で換算配点が決定されます。

ご存じの通り、社労士試験は1点の差が合否を分ける試験ですから、得意科目ではあえて免除を受けずに満点を狙い、苦手科目の失点をカバーするという戦略もあります。

社労士試験合格を目指す上では、採点上のメリットとデメリットにも十分に配慮し、適切な方法で受験できるようにするのが得策です。

まとめ

  • 社労士試験は公務員優遇といわれますが、その理由は「科目免除が受けられること」に加え「キャリア形成につながること」にあります
  • 公務員特例免除は、概ね10年以上所定の業務に従事した公務員が、業務に関わる労働・社会保険関連法令について、社労士試験で免除を受けられる制度のことです
  • 公務員特例免除を受けた受験生の社労士試験合格率は、例年、全体の合格率の2倍ほどどなる10~15%の間で推移しています
  • 公務員特例には事前の申請が必要であり、職場に実務経験等の証明を発行してもらわなければなりません
  • 得意科目(実務関連法令)で得点を伸ばしたい場合、あえて社労士試験で公務員特例免除を受けずに通常通り受験するという戦略もあります
この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

「そうだったのか!」という驚きや嬉しさを積み重ねましょう
【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

社労士コラム一覧へ戻る