社労士試験頻出「フレックスタイム制」!基本ルールと2019年改正点

「フレックスタイム制」という言葉は知っていても、「詳しい制度内容についてはよく分からない」という方は多いのではないでしょうか?柔軟な働き方を実現するための一制度として知られるフレックスタイム制は、社労士の実務上重視されるだけでなく、社労士試験の頻出テーマのひとつでもあります。

つまり、社労士として実務に携わる上ではもちろんのこと、社労士試験合格を目指す上でも、フレックスタイム制について理解を深めておくことは不可欠と言えます。

目次

社労士試験で狙われる「フレックスタイム制」とは?

フレックスタイム制とは

フレックスタイム制とは、労働者自身が日々の始業・終業時刻や労働時間の長短を決めることのできる制度です。

しかしながら、実運用上は、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で労働しなければならない等の細かなルールに則る必要があり、制度内容は意外と複雑です。

フレックスタイム制の基本的な制度内容の解説については社労士試験対策テキストに委ねるとして、ここではフレックスタイム制における労働時間の考え方を解説しましょう。

フレックスタイム制導入で、労働時間はどうなる?

労働時間の原則は「1日8時間、週40時間」ですが、フレックスタイム制を導入すると、この枠組みを超えた場合、もしくは不足がある場合に、直ちに時間外労働や欠勤として扱われるわけではありません。原則として、フレックスタイム制では一定期間(清算期間)における実労働時間のうち、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間数が時間外労働となります。

清算期間における法定労働時間は、以下の計算式から算出できます。

一週間の法定労働時間(40時間、特例措置対象事業場は44時間)×清算期間の日数/7

フレックスタイム制における労働時間を明らかにするために、導入に際してあらかじめ以下の項目について労使協定を締結し、制度の枠組みを確定させておく必要があります。

①対象となる労働者の範囲

②清算期間

③清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)

④標準となる1日の労働時間

⑤コアタイム(※任意)

⑥フレキシブルタイム(※任意)

フレックスタイム制のキーワード「コアタイム」とは?

フレックスタイム制導入のための労使協定に登場する「コアタイム」「フレキシブルタイム」は、フレックスタイム制特有のキーワードのため、正しくおさえておきましょう。

コアタイム
1日のうちで必ず就業しなければならない時間帯のこと。
必ずしも設定しなければならないわけではありませんが、複数人で行う会議や作業の予定を立てやすくするため等、業務上の都合により設定され、あまりに長時間でなければ労使で自由に決定できます。

フレキシブルタイム
コアタイム以外の時間帯を指し、働く・働かないを労働者が自由に判断できる時間帯のこと。

コアタイム、フレキシブルタイムについては、図で確認すると分かりやすいでしょう。

2019年4月改正!フレックスタイム制の清算期間上限が3ヵ月に

清算上限

フレックスタイム制では、「コアタイム」「フレキシブルタイム」の他、「清算期間」というキーワードについても理解を深めておく必要があります。

清算期間とは、フレックスタイム制で労働者が労働すべき総労働時間と実労働時間とを清算するための単位期間です。

労働時間の過不足は、1日や一週間の法定労働時間ではなく、清算期間における労働時間の枠で判断します。

フレックスタイム制の清算期間は、従来、上限「1ヵ月」とされてきましたが、法改正により2019年4月以降、上限「3ヵ月」となっている点に注意が必要です。清算期間の上限が3ヵ月となることにより、月をまたいだ労働時間の調整が可能となり、労働者にとってはより一層柔軟な働き方の実現が期待できます。

フレックスタイム制の清算期間が1ヵ月を超える場合のルール

フレックスタイム制の清算期間が1ヵ月超となる場合、以下の要件を満たす必要があり、以下のいずれかを超える労働時間は時間外労働となります。

✓ 清算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠以内
(=清算期間全体の労働時間が、週平均40時間を超えないこと)
✓ 1ヵ月ごとの労働時間が週平均50時間以内

清算期間における総枠に加え、新たに「1ヵ月ごとの労働時間の週平均(50時間)」の基準が加わった点に注意しましょう。

導入には「就業規則改定」「労使協定届出」が必要

清算期間が1ヵ月を超えるフレックスタイム制を導入する際には、就業規則を改定し、労使協定で所定の事項を定めた上で、その労使協定を所轄の労働基準監督署へ届け出なければなりません。

清算期間1ヵ月までのフレックスタイム制では、労使協定の締結は必要であるものの届け出不要とされている点に鑑みれば、この点も法改正に伴う重要な改正ポイントと言えそうです。

清算期間1ヵ月超のフレックスタイム制で複雑化する労働時間管理

フレックスタイム制の清算期間の上限延長により、これまで以上に柔軟な働き方が可能になる一方、勤怠管理を複雑化させる要因となる可能性があります。労使双方がフレックスタイム制のルールを正しく理解し、適切な労働時間管理を行うことができなければ、たちまち未払い賃金の温床となるでしょう。

また、制度を上手く活かせないことで、結果的に現状よりも時間外労働が長時間化してしまう恐れがあります。忙しい時期に労働時間を増やしたにも関わらず、比較的忙しくない時期にも結局、労働時間を短縮しないで働いてしまうというケースは多々あるようです。

清算期間が1ヵ月超のフレックスタイム制は、繁忙月と閑散月が比較的明確な業種になじむ制度と言えます。加えて、労働者各人の出勤・退勤がまちまちになることから、多様な働き方を認め合える職場風土の醸成も必要になってくるものと思われます。

社労士試験のフレックスタイム制関連の出題は、改正を踏まえて確認すべし

フレックスタイム制関連

フレックスタイム制に限ったことではありませんが、法改正項目が生じればどうしても改正前後で制度内容が変わり、設問によっては正答だったはずの選択肢が正答でなくなることがあります。よって、社労士試験対策としてフレックスタイム制の過去問を解く際、2019年の改正ポイントを踏まえて各設問や選択肢を考える必要があります。

例えば、以下の選択肢は、2019年4月改正以前は正答でしたが、法改正以降は誤りの肢となります。皆さんは、どの点がどのように変わったか、判断することができるでしょうか?

'' 労働基準法第32条の3に規定するいわゆるフレックスタイム制を採用した場合に、法定時間外労働が発生する場合、同法第36条第1項に規定する協定を締結する必要があるが、1日について延長することができる時間を協定する必要はなく、清算期間を通算して時間外労働をすることができる時間を協定すれば足りる ''

時間外・休日労働が生じる場合には36協定の締結が必要ですが、この協定について「1日について延長することができる時間を協定する必要はない」という点はそのままですが、法改正により、

× 清算期間を通算して時間外労働をすることができる時間を協定すれば足りる
○ 1ヵ月及び1年について協定すれば足りる

となりますのでご注意ください。

参考:厚生労働省「改正労働基準法に関するQ&A 1-2」

まとめ

  • 労働者自身が日々の始業・終業時刻や労働時間の長短を決めることのできるフレックスタイム制は、社労士試験頻出のキーワードであるため、受験生であれば制度を正しく理解しておく必要があります
  • フレックスタイム制では「1日8時間、週40時間」の法定労働時間ではなく、清算期間における労働時間の総枠を基準に労働時間の過不足を確認します
  • 2019年4月の労基法改正により、これまで「1ヵ月」とされていた清算期間の上限が「3ヵ月」に延長されました
  • 清算期間の上限が1ヵ月を超える場合、「フレックスタイム制導入に係る労使協定の労働基準監督署への届出義務が生じる」「時間外労働扱いとなる基準に“清算期間における総枠”に加え、新たに“1ヵ月ごとの労働時間の週平均50時間以内”が追加される」等の変更点があります
  • 法改正が生じたテーマについて過去問演習に取り組む際、各設問、選択肢については法改正事項を踏まえて検討する必要があります
この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

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【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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