社労士試験「労働保険事務組合」を攻略!キーワードは「認可」「責任」

更新日:2021年7月19日

事業主が行うべき労働保険事務は複雑多岐に渡り、現場においてはその対応が負担となるケースが多々見受けられます。

企業が業務負担軽減のために労働保険事務処理を外部に委託する場合、委託先候補として挙げられるのが社会保険労務士事務所、そして「労働保険事務組合」です。労働保険事務組合とは、事業主の委託を受けて、事業主が行うべき労働保険の事務を処理することについて、厚生労働大臣の認可を受けた中小事業主等の団体等のことです。

このページでは、社会保険労務士試験に出題されるポイントに沿って、「労働保険事務組合とは?」について解説しましょう。

目次

社労士試験出題テーマ「労働保険事務組合」のポイント

労働保険事務組合のポイント

社労士試験では、労働保険事務組合関連の出題がたびたび見受けられます。主に徴収法の一分野として狙われるテーマであり、労働保険事務組合の「認可」や「責任」「委託事務の範囲」に関わる出題が主となっています。

労働保険事務組合の認可申請

労働保険事務組合は、厚生労働大臣の認可(都道府県労働局長に権限委任)を受けることにより設立できます。認可を受けようとする団体等は、労働保険事務組合認可申請書を主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局長に提出します。

さらに、認可申請時の申請書や添付書類等の記載事項に変更があった場合、変更があった日の翌日から起算して14日以内に、変更事項を記載した届書を主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局長に提出します。

労働保険事務組合の認可基準

労働保険事務組合となる団体等は、以下の認可基準を満たしている必要があります。認可基準は多岐に渡りますが、社労士試験で問われやすい以下の項目については正しく把握しておきましょう。

特に、各項目の数字は要注意です。その他の事項については、テキスト等で確認してください。

  • 法人であるか否かは不問だが、法人でない団体等の場合、代表者の定めがあること
  • 団体等の事業内容、構成員の範囲、その他団体等の組織、運営方法(総会、執行機関、財産の管理運営方法等)等が定款等において明確に定められ、団体性が明確であること
  • 労働保険事務の委託を予定している事業主が「30以上」あること
  • 団体等は団体等として本来の事業目的をもって活動し、その運営実績が「2年以上」あること
  • 相当の財産を有し、法35条に規定する労働保険事務組合の責任(労働保険料の納付等の責任)を負うことができるものであること
  • 労働保険事務組合に労働保険事務を委託することができる事業主は、原則として、労働保険事務組合の主たる事務所が所在する都道府県に主たる事務所を持つ事業の事業主とするが、委託事業主の利便等を考慮して、当該都道府県に隣接する都道府県に主たる事務所が所在する事業の事業主が全委託事業主の「20%以内」である場合には、労働保険事務組合の認可をして差し支えないこと

労働保険事務組合の委託事務の範囲

労働保険事務組合に委託できる業務範囲は、概ね労働保険関連全般ですが、一部委託できない事務があるため注意が必要です。また、社会保険(健康保険・厚生年金)関連の一切の手続は委託できません。

【委託できる事務】

  • 労働保険料及びこれに係る徴収金の申告・納付に関する事務
  • 雇用保険の被保険者に係る届出等に関する事務
  • 保険関係成立届、労災保険又は雇用保険の任意加入申請書、雇用保険の事業所設置届等の提出に関する事務
  • 労災保険の特別加入の申請等に関する事務
  • その他労働保険についての申請、届出及び報告等に関する事務

【委託できない事務】

  • 印紙保険料に関する事項の事務手続及びその代行
  • 労災保険の保険給付及び社会復帰促進等事業として行われる特別支給金に関する請求書等に係る事務手続及びその代行
  • 雇用保険の保険給付に関する請求書等に係る事務手続及びその代行
  • 雇用保険二事業に関わる事務手続き及びその代行

労働保険事務組合の責任

少々細かな内容となりますが、社労士試験では、「労働保険事務組合の責任の範囲」についての出題も見られます。

この分野の設問では、正しい知識の習得が不可欠であることはもちろん、長文化する選択肢を落ち着いて読み込み、正誤を正確に判断できるようにしておきましょう。

  • 労働保険事務の委託に基づき、事業主が労働保険関係法令の規定による労働保険料その他の徴収金の納付のため、金銭を労働保険事務組合に交付したときは、その金額の限度で、労働保険事務組合は、政府に対して当該徴収金の納付の責めに任ずるものとする
  • 労働保険関係法令の規定により政府が追徴金又は延滞金を徴収する場合において、その徴収について労働保険事務組合の責めに帰すべき理由があるときは、その限度で、労働保険事務組合は、政府に対して当該徴収金の納付の責めに任ずるものとする
  • 政府は、前2項の規定により労働保険事務組合が納付すべき徴収金については、当該労働保険事務組合に対して第26条第3項(滞納処分)の規定による処分をしてもなお徴収すべき残余がある場合に限り、その残余の額を当該事業主から徴収することができる
  • 労働保険事務組合は、労災保険法第12条の3第2項(虚偽証明による保険給付の不正受給)の規定及び雇用保険法第10条の4第2項(虚偽証明による失業等給付の不正受給)の規定の適用については、事業主とみなす

労働保険事務組合の廃止等

労働保険事務組合が業務を廃止する場合は、60日前までに、その旨を厚生労働大臣(都道府県労働局長に権限委任)に届け出なければなりません。

また、厚生労働大臣(都道府県労働局長に権限委任)は、労働保険事務組合が労働保険関係法令に違反したときや、委託を受けて行うべき労働保険事務の処理を怠ったとき、もしくはその処理が著しく不当であると認められるとき、労働事務組合の認可を取り消すことができます。

以上、参考:一般社団法人全国労働保険事務組合連合会「労働保険事務組合制度とは」

「労働保険事務組合」の社労士試験出題実績

社労士試験出題実績

労働保険事務組合に関する出題は、比較的細かな知識まで問われる傾向にあるため、正確な知識が求められます。特に、頻出の「認可基準」や「責任」については、選択肢のひっかけにかからないよう、選択肢を落ち着いて読み解く力が求められます。

労働保険事務組合の法人格(平成29年雇用保険法)

以下の選択肢について、正誤を判別する問題です。

「労働保険事務組合の認可を受けようとする事業主の団体又はその連合団体は、事業主の団体の場合は法人でなければならないが、その連合団体の場合は代表者の定めがあれば法人でなくともよい。」

回答:×

労働保険事務組合の認可を受けようとする事業主の団体又はその連合団体は、法人でなくても構いません。ただし、法人ではない場合、「代表者の定めがあること」、「団体等の事業内容」等、団体性が明確であることが必要です。

労働保険事務組合の廃止手続き(平成23年雇用保険法)

以下の選択肢について、正誤を判別する問題です。

「労働保険事務組合が、労働保険事務の処理に係る業務を廃止しようとするときは、60日前までに、労働保険事務等処理委託解除届を当該労働保険事務組合の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局長に提出することによって行わなければならない。」

回答:×

労働保険事務組合が業務を廃止するときは、60日前までに、労働保険事務等処理委託解除届ではなく、「労働保険事務組合業務廃止届」を都道府県労働局長に提出します。書式の名称が紛らわしいので注意が必要です。

まとめ

  • 「労働保険事務組合」は、社労士試験の徴収法分野で頻繁に問われるキーワードです
  • 労働保険事務組合分野の頻出ポイントは、「認可」「責任」「委託事務の範囲」です
  • 労働保険事務組合の認可基準や責任に関わる事項は多岐に渡り、出題された際に選択肢が長文となる点に特徴がありますが、細かな部分でのひっかけがあるためそれぞれの設問を落ち着いて正確に読み込まなければなりません
  • 労働保険事務組合に委託できる業務範囲は、概ね労働保険関連全般ですが、雇用保険の保険給付に関する事務、雇用保険のニ事業に関する事務、労災保険給付に関する事務、特別支給金に関する事務、印紙保険料に関する事務についての委託はできません
この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

「そうだったのか!」という驚きや嬉しさを積み重ねましょう
【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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