社労士試験に頻出の「労働時間」 労基法から読み解こう

社労士試験に頻出の「労働時間」

労務管理の専門家である社労士にとって、「労働時間」に関わる知識は不可欠です。実務に携わる上ではもちろん、社労士試験対策上も労基法の定めを正しく理解しておく必要があります。

このページでは、社労士試験でおさえておきたい「労働時間」について、社労士試験の頻出ポイントと共に、現場の労務管理を考える上での指針「労働時間等見直しガイドライン」策定の基礎となる労働時間等設定改善法の2019年度改正項目を解説します。

目次

【労基法】社労士試験で問われる「労働時間」のポイント

ひと口に「労働時間」といっても、社労士として知っておくべき事柄は多岐に渡ります。

法律に定められている基本的な労働時間の考え方や、特例的なケースに適用する変形労働時間制、さらに大企業では2019年度、中小企業では2020年度から施行された時間外労働の上限規制等、法定の大原則はもちろん、法改正を踏まえた最新の知識が必要となります。

ここでは、試験対策や実務に取り組む上で重要となる、「労働時間」の3つのポイントについて理解を深めましょう。

法定労働時間と所定労働時間の違い

社労士試験対策で初めて「労働時間」を学ぶ方にとって、まず把握しておかなければならないキーワードといえば「法定労働時間」と「所定労働時間」です。

「法定労働時間」とは、労働基準法で定められている労働時間の限度であり、 原則として「1週40時間、1日8時間」を指します。

一方で「所定労働時間」とは、法定労働時間とは別に、労使間の雇用契約で定められた労働時間のことです。具体的には、就業規則や雇用契約書で定められた、休憩時間を除く始業から終業までの時間であり、職場によって6時間や7時間半等様々なケースが考えられます。

ただし、所定労働時間はあくまで、「1週40時間、1日8時間」の法定労働時間内で設定しなければなりません。

変形労働時間制の種類

労務管理上、従業員の労働時間は法定労働時間の範囲内で定められるべきです。ところが、一定期間の中で明らかな業務の繁閑がある場合、特例的に「忙しいときは労働時間を長くし、その代わりに比較的業務が少ないときには労働時間を短縮する」という調整によって柔軟に対応することができます。

変形労働時間制には、期間の単位に応じて「1ヵ月単位の変形労働時間制」「1年単位の変形労働時間制」があります。

また、小売業、旅館・料理店・飲食店の事業で常時30人未満の労働者を使用する事業場では「1週間単位の変形労働時間制」も認められます。始業・終業の時間を労働者に委ねることができる「フレックスタイム制」も、労働時間に柔軟性を持たせるための制度のひとつです。

各制度の詳細については、テキストの他、厚生労働省が公開する資料でも理解を深めることができます。

参考:
厚生労働省「変形労働時間制の概要」
厚生労働省「1箇月単位の変形労働時間制 導入の手引き」

労働時間を大きく変える「時間外労働の上限規制」とは?

休日労働を除く時間外労働の上限は、法律上、「月45時間、年360時間」に定められています。しかしながら、多くの企業において、法定を遵守した場合、通常業務に支障が生じることとなり、労働者を守るための労働基準法がむしろ労働者にとって業務遂行の妨げともなりかねません。

こうした不都合を回避するために締結するのが、「36協定」です。36協定というキーワードは、受験生の皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?

36協定を締結すると、臨時的な特別の事情がある場合に限り、法定の時間外労働の上限である「月45時間、年360時間」の枠を超えて労働させることが可能になります。

ところが、従来の36協定では時間外労働の上限が設定されておらず、「事実上、制限なしに長時間労働が可能となる」ことが問題視されていました。この点、大企業では2019年度から、中小企業では2020年度から、36協定を締結する場合にも超過することのできない時間外労働の上限が定められました。

参考:厚生労働省「時間外労働の上限規制」

社労士が知っておくべき「改正労働時間等設定改善法」

「改正労働時間等設定改善法」

社労士の実務の現場で、労働時間を検討する際に参照するのが「労働時間等見直しガイドライン」です。

このガイドライン策定の基準となる労働時間等設定改善法が改正され、2019年4月1日より施行されました。労働時間等設定改善法の内容は、社労士試験の頻出テーマである「労働時間」を学ぶ上で重要である他、今般の働き方改革に関連して今後の社労士試験で特に問われやすいポイントと言えます。

ここでは、労働時間等設定改善法の2019年度改正項目を確認しておきましょう。

改正労働時間等設定改善法① 勤務間インターバル

「勤務間インターバル」とは、労働者が十分な生活時間や睡眠時間を確保し、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら働き続けることを目的に、終業から翌日の始業までに一定時間の間隔を設ける制度のことです。

近年、労働時間の長時間化やこれに伴う過労死が増加傾向にあることを踏まえ、2019年度から、勤務間インターバル制度の導入が事業主の努力義務となりました。

参考:厚生労働省「勤務間インターバル制度」

改正労働時間等設定改善法② 取引上の配慮促進

労働時間の長時間化を是正するためには、業務の見直しや効率化、人員配置の調整といった各事業所での取り組みが不可欠であることはもちろんですが、中小企業においては従来の取引慣行を見直すことも重要な課題のひとつとなります。

下請企業が事業所内でどんなに業務改善に乗り出したとしても、発注元からの著しく短い納期での発注や、発注内容の頻繁な変更に応じる必要があるとすれば、もはや自社努力のみで長時間労働の現状を変えることは不可能です。

こうした問題点を鑑み、改正労働時間等設定改善法には、事業主が取引上配慮すべき事項として、「事業主の責務として、短納期発注や発注の内容の頻繁な変更を行わないよう配慮するよう努めるものとする」との定めが追加されました。

改正労働時間等設定改善法③ 労働時間等設定改善企業委員会の新設

企業における労働時間の在り方を見直す上では、労使間での話し合いの場を設けることが不可欠です。

労使の話し合いの場となり得るのが、事業場単位で設けられた労働時間等設定改善委員会、もしくは2019年度改正で新設された企業にひとつの労働時間等設定改善企業委員会です。

労働時間や年次有給休暇等に関わる労働時間等設定改善委員会、もしくは労働時間等設定改善企業委員会での決議は労使協定を代替する効果をもつとされました。こうした取扱いにより、労使間の話し合いの活発化を図ることができると共に、手続きの簡略化を図ることができるようになりました。

社労士の仕事は大変?!社労士の労働時間を知る

社労士の労働時間を知る

このページで解説した「労働時間」に関わる事項は、社労士として知っておくべき内容のごく一部に過ぎません。実際に労務管理の実務に携わる上では、労働関係法令に定められる諸制度について、さらに細かく理解を深めておく必要があります。

ところで、企業における労働時間の長時間化が問題視される中、社労士の労働時間はどのような実態なのでしょうか?この点については、ひと口に社労士といっても個々の働き方が大きく異なる以上、労働時間や残業の状況を一括りに語ることは不可能です。

しかしながら、労働時間の専門家である社労士倫理として、労働時間の長時間化には細心の注意を払うべきと考えるのが妥当です。

まとめ

  • 「労働時間」に関わる正しい知識を有していることは、社労士試験対策上、そして実務上も不可欠です。
  • 社労士試験において「労働時間」は頻出テーマのひとつですが、労働関係法令に定められる原則はもちろん、法改正を踏まえた最新の知識が求められます。
  • 運用上のルールが複雑な変形労働時間制については、社労士試験対策上、それぞれの制度を区別して正しく理解しておく必要があります。
  • 「労働時間」は、2019年度から順次施行される働き方改革関連法令上も重要なテーマであり、とりわけ「時間外労働の上限規制」や改正労働時間等設定改善法に盛り込まれた「勤務間インターバル制度」は社労士試験対策上もおさえておくべきポイントです。
  • 社労士の労働時間は各人の働き方によってそれぞれ異なりますが、労働時間の専門家である社労士倫理を鑑みれば、長時間化しないよう適正に管理されるべきと言えます。
この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

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【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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