蔵置期間が経過した外国貨物の手続き「収容」って何?「公売」や「留置」との違いも解説
更新日:2020年8月25日
外国からの貨物を関税未納のまま置くことが出来る場所を、保税地域と言います。種類も「指定保全地域」や「保税蔵置場」、「保税工場」、「保税展示場」、「総合保税地域」と分けられていますが、それぞれ共通しているのが、蔵置期間(外国貨物を置くことが出来る期間)が有期という点です。
具体的には下記の通りとなります。
保管場所 | 蔵置承認を受けた日から経過した期間 |
---|---|
指定保税地域 | 1月(搬入日から起算) |
保税蔵置場 | 2年 |
保税工場・総合保税地域 | 2年 |
保税展示場 | 3月(搬入日から起算) |
ですが実際の現場では、この蔵置期間を過ぎてもなお、そのまま外国貨物が置かれたままになっているという場合も珍しくありません。
今回はその際の手続きの一つである「収容」を詳しく解説するとともに、似たような言葉である「公売」や「留置」の違いもお話ししていきましょう。
➡通関士についてはこちら収容の定義と背景
関税法第80条第1項では、「税関長は、保全地域の利用についてその障害を除き、または関税の徴収を確保するために、特定の貨物を収容することが出来る」と、収容に関して具体的に明記されています。
保税地域は、外国貨物が最終的に置かれる場所ではありません。輸入や輸出などの手続きを経て、それぞれの目的地へ移送する際の「前段階の場所」として、一定期間のみ蔵置できる場所になります。
ですが残念ながら、実際には様々な理由でこの定められた蔵置期間を過ぎたまま、置かれている貨物が少なくありません。保全地域もスペースに限りがありますし、何より輸入される貨物の場合速やかに関税の手続きを取らなければなりませんよね。
そのような状況の際の解決策の一つとして、税関長に対し、外国貨物を強制的に占有できる「収容」という権利が付与されているのです。もちろん、内国貨物の場合でもその貨物が保全地域の利用の妨げになる場合は、当然収容の対象になります。
収容する場合の具体例
収容の具体的な方法としては、「通常収容」と「緊急収容」の2つあります。言葉は似ていますが、その性質は全く異なります。
それぞれ説明していきましょう。
「通常収容」される場合
通常収容とは、保税地域の蔵置期間の経過後に収容するものを指します。幾つか具体例を挙げてみましょう。
- 一定の蔵置期間を経過したもの
- 指定保税地域が取り消されたり、その地域の許可が執行した後に、税関長の指定する期間を経過したもの
- 他所蔵置許可貨物で税関長が指定した期間を経過したもの
- 収容解除の承認を受けたにも関らず、その場所に置かれたまま3日を経過したもの(再収容と言います)
対して、緊急収容とはどのような場合を指すのでしょうか。
「緊急収容」される場合
緊急収容とは、その文字の通り、緊急に収容する場合に行われる措置です。
ポイントとしては、上記通常収容のいずれかの場合に該当する場合で下記の3つの状況の場合には、保税地域の蔵置期間経過後でも収容することができるという点です。
- 生活力を有する動植物の場合
- 腐敗もしくは変質したもの
- 他の貨物を害する恐れがあるもの
収容する場合に考えられる事例
収容とは、保全地域に置くことが出来る期間が過ぎた状態でも、そのまま置かれている状態のため税関が占有することを意味することは既に述べました。そして収容される貨物の質権者または留置権者は、その貨物を税関に引き渡さなければならないと規定されています(関税法第80条の2)。
質権、そして留置権という言葉が出てきましたね。収容という行為を行う上で、もしその貨物に
- 質権…お金を貸している人が、借りている人の「物」を預かることで、万が一お金を返してくれない場合はその「物」を売ったりすることが出来る権利
- 留置権…他人の「物」を占有している人が、その代金を払ってもらえる状態になったとき、その代金を受け取るまでは「物」を自分の手元に置いておくことが出来る権利
が設定されていたら、税関の収容行為と競合する恐れがあります。そのような状況を避けるために、質権や留置権は税関の収容行為に対抗できない、という規定が設けられているのです。
収容の効力
それでは実際に、収容の効力はどのようなものまで及ぶのでしょうか。私たちが一般的に想像できる貨物はもちろん、その貨物から生じる「天然の果実」にも及ぶものとすると、規定されています。
一例を挙げましょう。
例えば、収容されるべき外国貨物に「ニワトリ」が入っていたとします。ニワトリ自体は当然収容の対象になりますが、その手続きの最中、ニワトリが卵を産んだ場合はいかがでしょうか。
天然の果実とはこのような、「その実体から自然に生み出されたもの」を表し、ニワトリの卵や、牛から採れる牛乳、果樹園で採れる果実などが該当します。
上の例でいうと、ニワトリが生んだ卵が天然の果実に当たり、収容という行為はこの卵にまで及ぶとされています。
収容課金
実際の収容に際しては、貨物を所持する人に対し、貨物の種類や重さ、収容期間等に応じて「収容課金」が課せられます。つまりはペナルティですね。
無料ではなくペナルティが課されるということで、残念ながら、「お金を払うくらいならそのまま置いておいた方が良い」と考えてしまう所持者も珍しくありません。
収容の解除
さて、それでは逆に、この収容を解除するためには所持者はどのような手続きを踏めば良いのでしょうか。上記の通りペナルティとプラスして、実際に収容に要した費用(実費分)を税関に納付し、税関長の承認を得る必要があります。
実費で代表的なものとしては、輸送費や保管費用、公告に要した費用、通信費などが挙げられます。
ただし、あくまで実費分とペナルティが必要というだけであって、「関税の納付」は必要条件に入っていません。収容の解除の後に改めて輸入の手続きを踏む際に必要なのが関税の納付になります。通関士での試験では押さえておきたいポイントです。
収容と公売の関係とは
収容の内容や考えられる事例等を理解した上で、視点を変え、「公売」との関係を考えてみましょう。
公売とは、収容された貨物に対して収容の解除等の手続きをされないまま、4ケ月を経過してもなお収容されている際に行う手続きを指します。実際には公の機関が強制的に、入札などの競争により売買されます。
この「4ケ月」という期間は、先に述べた「緊急収容」(生活力を有する動植物の場合/腐敗もしくは変質したもの/他の貨物を害する恐れがあるもの)の際は短縮されることがあります。
また、公売が出来ない、あるいは実際に公売を行っても買受人が現れなかったような場合は競争入札ではなく、随意契約により売却される事例も少なくありません。
収容と留置の関係とは
公売と同様、留置という概念に関しても収容とセットで説明される言葉であり、はっきりと違いを理解しておきたいところです。
収容が保税地域のスペースの確保や関税の確保を第一義とするのに対し、留置とは、法律上問題のある(もしくは輸入に際して許認可を受ける必要のある)貨物が対象とされるのが大きな違いです。
例えば、海外から輸入しようとした貨物で原産地を偽った表示がなされている貨物の場合などがこれに当たります。この場合、輸入をしようとするものが指定期間内に、誤表示を消すこと、もしくは訂正すること、それが難しい場合は積み戻すことが求められます。
これらの行為のいずれも行われない場合は、税関長は、「留置」という手続きを進める形となります。
この留置をされた貨物を再度引き取りたい場合は、上記の「誤表示を消す、訂正する」の各手続と併せて、その留置に要した費用を納付する必要があります。
まとめ
収容や公売に関しては犯罪や法令違反等によるものではありません。収容された貨物は収容課金(ペナルティ)と収容に要した費用(実費)を納めれば「収容の解除」となりますので、そういう意味では「貨物の所有者の意志により」どうにでもすることが出来ます(もちろん、その後に輸入や輸出という手続きが残っていますが)。
ところが留置に関しては、貨物の所有者の意志ではどうにもすることが出来ず、法令違反による理由を100%解決しないと解除とはならないというのが、大きな違いです。
ですが実際の業務ではこのような留置の事例が発生した場合、所有者が名乗り出てマニュアル通り解除の手続きを行ってくれることは滅多にありません。特に犯罪に近い事例の場合では、名乗り出たら逮捕という可能性もあるため、所有者が最後まで明確ではないという場合がほとんどです。
そのような場合は公告の日から6か月を経過してなど、解除の手続きがなされない場合は、国庫に帰属することになります。
似て非なる「収容」と「留置」という概念ですが、このように、両者の事例が起こる際のバックグラウンドを考えてみると、比較的スムーズに理解できるのではないでしょうか。