貨物を外国へ輸出する際の手続き「輸出通関」を正しく理解しよう

コンテナと飛行機

関税法第2条にあるとおり、輸出とは、内国貨物を外国に向けて送り出すことを言います。

その中で貨物を輸出しようとするものは、その貨物の情報(品名や数量、価格等)を税関長に申告し、必要な検査を受けて、その輸出の許可を受けなければなりません。

この一連の流れを輸出通関手続と言います。
今回はこの輸出通関手続の流れや、流れごとの重要ポイント、例外等を中心にお話ししていきたいと思います。

目次

輸出通関の流れとは

貨物を輸出しようとするものは、関税法第67条に示された輸出通関の流れを順守し、必要な検査や許可を経る必要があります。具体的な流れを表にまとめると、以下の通りになります。

輸出したい貨物
手順① 輸出申告 貨物の品目や数量、価格を税関長に申告
手順② 輸出申告の審査 税関長が審査
手順③ 保税地域に搬入 保税地域で行われます
手順④ 貨物の検査 同上
手順⑤ 輸出の許可 同上
外国船へ積込み

手順①~⑤の一連の手続きの流れを「輸出通関手続」と言いますが、この流れは上記の通り、原則、「今貨物がある場所で」輸出申告から税関長の審査まで受けることとなります。そして、その後の輸出の許可を受けるまでの一連の手続きは保税地域に搬入することになります。

この点は、「税関長に許可をもらった貨物は外国貨物になる」という基本原則に起因します。つまり、許可をもらって外国貨物扱いとなったものは保税地域以外には置くことが出来ませんので、予め許可を得るという前提で保税地域に搬入しておく必要があるのです。

保税地域に搬入後は、税関が貨物の検査を行います。問題がなければ税関長が輸出の許可を出し、所有者が保税地域から搬出し、外国船へ積み込むという流れです。

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輸出通関の具体的な方法

それでは実際に、輸出通関手続の具体的な方法を見ていきましょう。原則と例外、記載内容をしっかり理解することが大切になります。

輸出申告の方法と例外

関税法第67条では、輸出申告は、「輸出申告書に所定の事項を記載して輸出許可を得るために、保税地域等の所在地を所轄する税関長に提出しなければならない」とされています。

ただし、この輸出申告には例外があります。具体的には以下の4つが当てはまります。

①口頭または通関手帳により輸出申告が出来る場合

通関手帳とは、商品のサンプル品など、一時的に輸入・使用される場合のみに適用される申告方法を指します。この通関手帳が提出された場合は、その通関手帳の後に出される再輸出証書を、輸出申告書として取り扱っても良いという例外です。

併せて、旅客または乗組員の携帯品に関しては輸出申告書を必要とせず、口頭で輸出申告をすることが出来るとされています。

これは私たちが海外旅行へ行く際のことを思い出していただければおわかりになりますよね。いちいち旅客や乗務員の持ち物一つ一つまで輸出申告書を提出していれば、途方もない手間と時間がかかってしまうという現場的な判断によります。

②air waybillで申告できる場合

Air waybillとは「航空貨物運送状」と訳され、航空貨物の運送に際して、運送人である航空会社が発行する貨物受取書を指します。このair waybillで輸出申告をすることが出来る貨物は明確に規定があり、

  • 航空貨物であること
  • 無償の救じゅつ品(災害の被災者を救済するための物資等)や総額200万円以下の無償の商品見本
  • 経済産業大臣の輸出許可や承認を必要としないもの
  • 1品目の価格が20万円以下のもの

という4つが当てはまる場合に限ります。

③輸出申告があったと「みなされる」場合

例えば貨物を輸出する際に必要な「コンテナ」は厳密には貨物に当たりますが、それ自体は単なる道具であって、それ自体を売り買いして輸出入するわけではありませんよね。

そのためコンテナの輸出入に関しては免税扱いとなりますが、この免税輸入されたコンテナを輸出する場合は、「積卸コンテナ一覧表」を税関長に提出することで、輸出申告があったものと同義に扱われます。

④輸出申告書の提出があったと「みなされる」場合

上記③と同じような表現で紛らわしいですが、③が「輸出申告」が対象であるのに対し、④は「輸出申告書」が対象となります。具体的には電子情報処理組織(NACCS)を使用して輸出申告をした場合がこれに当たります。

この電子情報処理組織(NACCS)とは平成25年より運用が開始された申告方法で、貨物の輸出者はNACCSのシステムを利用することでPDFファイル等により添付書類を税関に提出することが出来るようになりました。

輸出申告書の記載内容

さて、それではこの輸出申告書に関して、具体的にはどのような内容を記載しなければならないのでしょうか。大きく以下の4つに大別されます。

  1. 貨物番号・品名・数量及び価格
  2. 貨物の仕向地、仕向人の住所及び氏名
  3. 貨物を積み込む船舶(航空機)の名称または登録番号
  4. 貨物を入れる保税地域の名称、所在地

この中で説明が必要なのが①の「数量・価格」です。輸出申告書には、特に以下の点に注意し記載することが求められます。

数量 数量 財務大臣が貨物の種類ごとに定める単位により、正味の数量を記載
価格 日本の輸出港におけるFOB価格として、常に日本円で申告する

FOB価格とは、単に輸出貨物だけの価格ではなく、例えば輸出するために外国船に積み込むための輸送費や通信費など、一切の費用が含まれた価格を意味します。

併せて例外として覚えておきたいのが、無償で輸出される貨物については、有償で輸出されるものとして価格を記載するという点です。つまりは相手先から一切の輸出代金をもらわないで輸出する場合でも申告を0円とせず、もし販売した場合はいくらになるのかを申告しなければなりません。

尚、この輸出申告後、輸出許可を受ける前であれば申告の撤回をすることが出来ます。併せて税関長は、上記4点の内容に関しては必要がない項目だと認めるときは、その記載を省略させることが出来ます。

特定輸出申告制度とは

特定輸出申告制度とは、コンプライアンス(法令順守)の確保が大前提とした上で、予め税関長の承認を受けた輸出者(またはその貨物)について、保税地域の外に置いたままで輸出通関手続を行うことを可能にする制度です。

これまで述べてきたように通常の輸出通関手続は各種書類の完備、許可や承認の確保、保税地域への搬入と搬出など、実務上では様々な手間が発生する形となります。一方で、よりセキュリティを強化・確保しつつ効率化や国際基準に追いつくという意味でも、このようなAEO制度の重要性が叫ばれているのもまた事実です。

輸出者にとっては一種のステイタスとなるだけでなく、実務上では手続きの簡素化という大きなメリットがあります。

特定輸出申告制度を利用する事業者は大きく、「特定輸出者」と「認定製造者」に大別されます。

全ての輸出者に関る事項

まずはこの、「特定輸出者」と「認定製造者」両方に共通する事項を見ていきましょう。

輸出申告の特例について

税関長の承認を受けた特定輸出者は、通常の場合と異なる輸出通関手続となります。ポイントは、通常の場合で行われる「保税地域への搬入」という手続きが必要ないという点です。

輸出したい貨物
手順① 輸出申告 手順①~③はいずれも「保税地域に搬入することなく」許可及び積込みまで行われます
手順② 輸出申告の審査と検査
手順③ 輸出許可
外国船へ積込み

手続きとは別に、以下の4点において特に友情の輸出通関の流れとは異なります。

①輸出申告先の税関長が異なる

通常の輸出通関手続では、当該貨物を搬入する保税地域を管轄する税関長に対し、輸出申告を受けます。対して特定輸出申告制度を利用できる者は、当該貨物が置かれている場所又は外国船舶に積み込もうとする開港(空港)もしくは不開港の所在地を所轄する税関長に対し、特定輸出申告をすることとなります。

②保税地域に搬入する必要がない

通常の輸出通関手続では保税地域にて貨物の検査や輸出許可が出されますが、特定輸出申告では保税地域に置かれることなく、一切の手続きが進められます。これは先に述べた通りです。

③国内移動する際は保税運送の承認が不要

特定輸出申告者が保税地域外で輸出申告をした場合、その貨物を国内移動する際には保税運送の承認が不要になります。

④輸出許可を受ける必要がなくなった場合は取り消し申請で済む

通常の輸出通関により輸出許可を受けた場合において、その必要性がなくなった場合は「新たに輸入申告をする」形となります。一方で、特定輸出申告者の貨物が輸出の許可を受ける必要がなくなった際は、取り消しの申請だけで済みます。

ただし、税関長がこの取り消し手続きを行うことが出来るのは、「貨物が外国船等に積み込まれるまでの期間」となります。

特定輸出者、認定製造者それぞれの認定の要件

貨物を保税地域に搬入することなく、自社の倉庫などで輸出申告から許可まで行える「特定事業者」と、製造者ではない輸出者として保税地域に貨物を搬入せずに輸出の許可を受けることが可能な「認定製造者」では、その承認の要件はとてもよく似ています。

特定事業者 認定製造者
欠格事由に関して
  1. 関税法その他関税に関する法律に基づく規定に違反して処分を受けたもので、その処分が終了した日から3年を経過していないもの(その中で「輸出に関する規定」での処分に関しては2年となる)
  2. 同上の条件で、罰金刑、または禁固以上の刑に処され、その処分が終了した日から2年を経過していないもの
  3. 暴力団員でないこと(某量団員により事業活動を支配されている者も含む)
  4. 特定輸出者(認定製造者)の資格を取り消された日から3年を経過していないもの
電子情報処理組織に関して 特定輸出申告の手続きを電子情報処理を利用して適切かつ確実に行うことが出来る能力を有していること
法令順守規則に関して
  1. 関税法その他法令の規定を遵守するために、財務省令で定めた事項を規定した規則を定めていること
  2. 具体的には帳簿、取引に使用された書類その他は輸出の許可の日かの翌日から5年間は保存しなければならない

大きな「欠格事由」、「電子情報処理組織」、「法令順守規則」に関しては大差ありません。ただし、認定事業者は自己だけではなく輸出者(第三者)の輸出業務の遂行を適切に行うという性質を持っているため、

  • 輸出者が認定製造者から取得した貨物を輸出しようとする際は、認定製造者は貨物確認書の作成・輸出者への交付、その他必要な業務を遂行する能力を有していること
  • 輸出物が外国船に積み込まれるまでの間、その貨物の管理について状況を把握し、手続きが適正に行われるための管理の能力を有していること

という、認定製造者独自の要件が必須となります。

輸出申告の際の「証明」・「確認」とは

さて、実際の輸出入の現場においては、税関による貨物の検査の前に、法令等により許可や承認が必要な場合の貨物でしたら、それらを事前に受けている旨を税関長に「証明」しなければならない事例があります。

その上で税関長は、その「確認」をしなければならなく、この証明や確認がなされない場合は、輸出の許可はされません。

一例として、猟銃を挙げましょう。

猟銃は使い方によっては動物だけではなく人を殺めることのできる武器のため、これを何の制限もなく自由に輸出できるとしたら大きな問題が発生します。

そこで、このような貨物を輸出するためには税関の検査の前にワンクッション入れて、経済産業大臣の輸出許可を得る必要があります。税関の立場ではその貨物がどのような目的、用途で輸出することになるのか把握がしづらいため(膨大な量の貨物を日々確認するには限界があるという理由もある)、経済産業大臣への申請、許可という手続きを含めることとなります。

無事に経済産業大臣の輸出許可を得た後に、税関長へ輸出申告をする際に、上記の「証明」という手続きを踏むという流れです。その上で税関長が、経済産業大臣が作成した輸出許可証を「確認」し、正式に輸出許可が出るのです。

尚、この経済産業大臣への申請・許可を経たからと言って税関の検査は免除されるかというと、決してそのようなことはありません。

輸出してはならない貨物とその処理の方法

通関士の試験ではこれまで述べてきたように、通常の輸出通関の流れや例外等の問題が頻出されていますが、翻って、「輸出してはならない貨物」に関する規定と、それらに関する処分の流れに関してはあまり出題されません。

しかし通関士として現場で活躍する際には必要となる知識ですので、しっかりと理解することが大切になってきます。

輸出してはならない貨物の具体例

次にあげる貨物は、輸出してはならない貨物として関税法第69条で規定されています。

  • 麻薬および向精神薬、大麻、あへん及びけしがら、並びに覚せい剤
  • 児童ポルノ
  • 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、または育成者権を侵害する物品
  • 不正競争防止法第2条第1項第1号から第3号までに掲げる行為を組成する物品

輸出してはならない貨物を扱う際の流れ

上記のような貨物が輸出されるような場合は、税関長はそれらを没収して、破棄することが出来ます。

ただし上記の「児童ポルノ」に関しては、輸出不可と認めるのに相当の理由があると判断した際は「輸出者への通知」という処理となります。

これに関しては、憲法上保障されている思想・表現の自由という基本的人権の問題にかかわるものであるという通念によります。税関では没収や破棄という処分にはできず、「輸出は許可しない」という立場に留まらざるを得ず、その処理は輸出者の自由意思に委ねるという立場を取っています。

外国貨物の「積み戻し」について

貿易の現場ではよく耳にする「積み戻し」(シップバック)に関して。例えば商品を輸入しようとして輸入通関前の保税地域での内容点検時、商品に欠陥があるなどの諸事情が発覚して送り返すことを指します。関税法上では内国貨物の輸出と明確に区別されています。

この積み戻しの際も、通常の輸出の手続きが準用されます。具体的には

  1. 申告(この場合は積み戻し申告と言います)し、必要な検査を受けて税関長の許可(この場合は積み戻し許可と言います)を受ける
  2. 指定地で貨物の検査を受けます。この際、上述した証明や確認を受ける義務は適用される
  3. 同様に、輸出してはいけない貨物の規定も適用される

などは通常の輸出と同様です。

つまり、貨物はまだ正式に輸入されていない状態(外国貨物のまま)ですので、税関に対して積戻し申告を行わなければならないですし、実質的には輸出となり、輸出申告に準じた手続きが必要となります。

まとめ

通関士の試験の中で輸出通関の範囲は幅広く、かつ突っ込んだ箇所まで出題される重要分野です。それはつまり、通関士という職業がいかに貿易に携わる職業であるかを実感できるという意味も指します。

輸出通関の全体の流れを理解し、かつその流れの各段階でどのようなルールがあるかを興味を持って学んでいきましょう。

加えて、輸入申告の手続きと併せてその違いを明確に理解しておくことが求められます。

例えば輸出通関の手続きは、保税地域等への搬入「する前に」行うことが出来るというのは既に述べたところです。対して輸入通関の場合は、保税地域等に搬入「した後に」行うものとすると規定されています。

輸出通関、輸入通関ともその基本的な流れと段階ごとの整理、例外を理解するのはもちろんのこと、このように、両者の明確な違いを混同せずにしっかりと理解することが必要になります。

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