【貿易×知的財産権】特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権、育成者権、不正競争防止法関連の侵害物品について

知的財産権

輸出入してはならない貨物に、知的財産の侵害物品があります。知的財産権の概要と、さまざまな「○○権」がそれぞれ何を保護する権利なのか?特徴をまとめます。さらに、知的財産権を入り口に一時の間、貿易や通関の世界へとご招待します。

目次

知的財産権とは?

知的財産権(英語 IPR:Intellectual Property Rights)とは、人間の幅広い知的創造活動の成果について、その製作者に一定期間の権利保護を与えるようにした知的財産制度に基づき、さまざまな法律によって保護されている権利のことです。

次に、知的財産の種類について、簡単にまとめます。

➡通関士についてはこちら

知的財産権の種類

以下の知的財産権は、

  1. 創作意欲の促進を目的とした「知的創造物についての権利」と、
  2. 使用者の信用維持を目的とした「営業上の標識についての権利」 に大別されます。

<1.知的創造物についての権利など>

  • 特許権(Patent rights)
    「発明」と呼ばれる比較的程度の高い新しい技術的アイデアを保護するための権利。
    法律:特許法
    例:カメラの自動焦点合わせ機能
    保護期間:特許庁への出願から20年。一部25年に延長。
  • 実用新案権(Utility model rights)
    物品の形状など発明とまでは言えない考案を保護する権利。
    法律:実用新案法
    例:日用品の構造の工夫
    保護期間:特許庁への出願から10年
  • 意匠権(Design rights)
    物品、建造物、デザインを保護する権利。
    法律:意匠法
    保護期間:特許庁への出願から25年
  • 著作権(Copy rights)
    文芸、学術、美術、音楽、プログラムなどの作品を保護する権利。
    法律:著作権法
    例:書籍の文章、論文、美術、音楽、コンピュータープログラムなど
    保護期間:創作時から著作者の死後70年。法人は公表後70年。
  • 著作隣接権
    著作物の伝達に重要な役割を果たしている実演家、レコード製作者、放送事業者などに認められた権利。
    著作権とは誰に認められた権利なのか?に違いがあります。
    著作権→著作物の創作者
    著作隣接権→著作物を人々に伝達した者
    法律:著作権法
    保護期間:実演が行われたときから70年
  • 回路配置利用権(Layout-design rights)
    半導体集積回路の回路配置の利用を保護。
    法律:半導体集積回路の回路配置に関する法律
    保護期間:一般財団法人ソフトウェア情報センター(SOFTIC)への登録から10年
  • 育成者権(Plant breeder’s rights)
    法律:種苗法
    植物の新品種を保護する権利。
    保護期間:農林水産省への登録から25年。樹木は30年。
  • 技術上、営業上の情報に関する営業秘密
    ノウハウや顧客リストの盗用など不正競争行為を規制。
    法律:不正競争防止法(Unfair competition Prevention Law)

<2.営業上の標識についての権利など>

  • 商標権(Trademark rights)
    自分と他人が取り扱う商品やサービスを区別するための文字やマークなどを保護する権利。
    法律:商標法
    例)ロゴやマーク
    保護期間:特許庁への商標登録から10年。更新可能。
  • 商号
    会社名など商人が自己を表現するために使用する名称を保護する権利。
    法律:商法
  • 商品などの表示
    周知・著名な商標(トレードマーク)などの不正使用を規制。
    法律:不正競争防止法
  • 地理的表示(GI:Geographical Indications)
    品質、社会的評価その他の確立した特性が産地を結びついている産品の名称を保護する権利。
    法律:地理的表示法など

<その他のポイント>

●産業財産権
特許権、実用新案権、意匠権、商標権の4つは、「産業財産権」と呼ばれ、特許庁が所管しています。

  1. これらの権利を取得することによって、一定期間、新しい技術などを”独占的”に使用できます。
  2. 売却や譲渡などによって、他社に産業財産権を移転できます。
  3. 他者に新しい技術などの実施・使用を許諾するライセンスを与えることができます。

●いつ権利が生じる?
特許権、実用新案権、意匠権、商標権 は特許庁に、
回路配置利用権は(財)ソフトウェア情報センターに、
育成者権は農林水産省に、
それぞれ登録することで権利が生じます。

著作権は著作物を創作した時点で、著作隣接権は実演などを行った時点で、権利が発生するため登録は必要ありませんが、譲渡など権利を明確化するために文化庁への登録制度が設けられています。

●絶対的独占権vs相対的独占権
特許権、実用新案権、意匠権、商標権、育成者権は、特許庁などへの登録によって権利が発生し、客観的内容を同じくするものに対して排他的に支配できる「絶対的独占権」です。

それに対し、著作権、回路配置利用権、商号、不正競争防止法関連の権利は、権利に係る利益について、他人が独自に創作したものに及ばない「相対的独占権」です。

前者は知らなかったではすまされない権利、後者はマネしてはいけない権利です。

さまざまな知的財産権の概要と特徴についてみてきました。次からは、貿易・輸出入と関係のある部分をいくつかピックアップして、ご紹介していきます。

【貿易×知的財産権】輸出および輸入してはならない貨物

知的財産の侵害物品は、
輸出してはならない貨物(関税法第69条の2より)および、輸入してはならない貨物(関税法第69条の11より)と定められており、違反すると関税法第109条等によって処罰されることがあります。

対象の知的財産は以下の通りで、税関が取締りを行っています。

  • 特許権
  • 実用新案権
  • 意匠権
  • 商標権
  • 著作(隣接)権
  • 育成者権
  • 不正競争防止法 関連
  • 回路配置利用権 ※

上記の権利者が自己の権利を侵害していると思わしき時はどうするか?税関に対して、輸出や輸入を止めるように申立てを行います。

これを輸出差止申立・輸入差止申立制度といいます。上記の知的財産権を有する者または不正競争防止請求権者が、自己の権利を侵害すると認められる貨物が輸出入されようとする場合、税関長に対し、その貨物の輸出入を差し止め、知的財産侵害物品に該当すると思われる”侵害疑義物品”が本当に”侵害物品”に該当するかどうかの「認定手続」を執るよう申し立てます。

これら知的財産権侵害貨物はどうなるのか?税関の認定手続を経た後、税関長により没収、廃棄されます。

※回路配置利用権について、輸入してはならない貨物に該当しますが、輸出してはならない貨物には該当しません。輸出はできます。

また、輸入してはならない貨物ではありますが、権利者による輸入差止申立て制度の対象外です。権利者からの輸入差止”情報提供”により、税関が水際で取締りを行っています。

【貿易×知的財産権】輸入貨物の課税価格に加算されるロイヤルティなど

特許権、意匠権、商標権などの権利を使用する対価のことをロイヤルティ(royalty)といいます。

貨物を輸入する際には関税を支払いますよね。関税額は、関税定率法第4条 課税価格の決定の原則などに従い、貨物の価格に必要な費用を加算したり、不要な費用を控除したりした輸入貨物の課税標準となる価格(課税価格)に、品目ごと、適用する税率の種類ごとに決められている税率を掛け算することで算出します。

通関士試験において、課税価格に加算する費用なのか、加算されない費用なのか?正確に判断する必要があります。このように課税価格を決定することを関税評価といいます。

ここで、通関に馴染みのない方を通関士の世界へといざないます。

輸入者が輸入貨物のためにロイヤルティなどを支払っている場合があります。このロイヤルティは、輸入貨物に係るものであり、輸入者がそのロイヤルティを権利者に支払わなければ、実質的にその輸入貨物の取引を行うことができないと判断される場合に、課税価格に加算されることになります。

さて、クイズです。平成22年度 通関士試験 通関実務 輸入申告問題より、

輸入者は、米国所在の商標権者Aとライセンス契約を締結し、輸入貨物を使用して生産した商品の日本国内における販売において商標を使用する対価として4,032米ドルを支払う。

この4,032ドルは輸入者が売手に支払う商品価格以外に発生した費用です。この費用は課税価格に算入されるor算入されない どちらでしょう?

ヒントです。

この権利使用の対価がいつ発生するものなのか?にご注目ください。輸入前or輸入後?

輸入者が商品を「輸入した後」、日本国内で販売を行うためにロゴやマークを使用した時点で権利使用のロイヤルティが発生します。

輸入者がこのロイヤルティを支払わないと、その貨物を日本に輸入する取引を行えないというわけではありませんので、課税価格に算入されません。

答えは、算入されない でした。

話が前後しますが、課税価格に含まれるロイヤルティの権利は、広義です。

特許権といった保護される権利とまではいかずとも、生産や事業などに関して繰り返して使用される程度に確立された技術上の創作、独自の考案、秘訣その他経済的価値を有するもの、たとえばノウハウや登録されていない意匠などの使用対価も対象です。

【貿易×知的財産権】国際的なルール

WIPO(World Intellectual Property Organization:世界知的所有権機関)と呼ばれる国際的な知的財産権などの保護を目的とする国際連合の専門機関があります。多国間で知的財産権の国際的なルールを議論する場合は、このWIPOやWTO(世界貿易機関)などが舞台になります。

知的財産権の国際的な枠組みとして、

工業所有権の保護に関するパリ条約や著作権の保護に関するベルヌ条約など知的財産の種類ごとにつくられた多国間条約、

WTOの加盟国が履行すべき知的財産に関する国際ルールを設けたTRIPS協定(Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights:知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)、

偽造品の取引の防止に関する協定(ACTA:Anti-Counterfeiting Trade Agreement)などいくつか挙げられ, 近年、知的財産についての章を含むEPA(経済連携協定)も増えています。

いずれも知的財産権を保護しようとつくられたものですが、保護対象や保護水準、重視する観点などに違いがあります。たとえばTRIPS協定のように、途上国の反対を押し切って、先進国が自国にとって有利になるように知的財産権を広く強く保護しようと誕生したものなど、各国で知的財産権の保護に対してのスタンスが異なりますので、重視する観点の異なるルールが複数存在するのだと思います。

まとめ

知的財産権 保護対象
特許権 発明
実用新案権 考案
意匠権 デザイン
商標権 ロゴなど
著作(隣接)権 作品
育成者権 新品種
回路配置利用権 半導体
集積回路の回路配置
不正競争防止法 関連 営業秘密、商標などの不正使用

◇貿易×知的財産権

  • 知的財産侵害物品は、輸出入してはならない貨物です。
  • 輸入者が支払う権利使用の対価いわゆるロイヤルティは、輸入貨物に係るものであり、そのロイヤルティなしには輸入取引が成立しない場合、輸入貨物の課税価格に加算されます。
  • 知的財産権の保護を謳った国際的なルールはWTO加盟国が守るべきTRIPS協定などいくつかあります。

さいごに、著作権と聞いて思い出したことがあります。学生のころに受けたとある講義で、著作権とディズニーについて触れていました。

ディズニーはミッキーマウスの著作権が切れそうになるたびに、アメリカの著作権法改正を議会に働きかけ、著作権の保護期間延長、すなわち、ミッキーの延命措置を行ったと。

調べてみたところ、アメリカの法律上、初代ミッキーマウスの著作権は2023年末には切れるようです。あと数年です。知的財産権関連ニュースのなかで、今度こそミッキーの著作権が切れるのか?にも注目です。

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