インボイスとは?通関士が扱うものと商取引の2つの観点から解説!
更新日:2020年4月16日
通関士や通関従事者が普段目にしているインボイスとはどのようなものでしょうか?貿易取引や税関手続き(通関)に携わるのであれば知っておきたい、インボイスが必要とされる2つの場面や記載事項、基礎知識について解説します。また、あわせて最新通関事情もご紹介します。
通関士が知っておきたい!インボイスが必要な2つの場面
インボイス(invoice)とは、簡単にいうと国内取引で発生する請求書と同じです。貿易取引において不可欠な書類で、外国から商品などを仕入れる輸入取引、外国へ商品を販売する輸出取引のどちらにも必要となります。
では、インボイスが必要となる2つの場面を以下で確認しましょう。
- 貿易取引で使われる「商取引上のインボイス」
- 税関手続き(通関)で使われる「通関士が扱うインボイス」
商取引におけるインボイスの基礎知識を知ろう
ここからは、商取引(貿易取引)におけるインボイスの呼び方、インボイスの作成者と役割、さらに記載事項をご紹介します。
インボイス、仕入書、送り状、すべて同じ?
インボイスの呼び方には、「インボイス」「仕入書」「送り状」などがあります。
請求書として捉える際には「仕入れ書」と呼ばれています。東京税関のホームページに、仕入書(インボイス)と記載*1がある通り、インボイスと「仕入書」は同じものです。実務上は、税関職員によって、どちらを使用するかが異なります。
*1出典:(税関ホームページ)
また、実務上「送り状」と呼ばれることもあります。宅配便などを利用する時の送り状と同じ意味合いで使用する際に使われます。
正式には商業送り状(コマーシャルインボイス)のことであり、通関士が扱う通関用送り状(カスタムインボイス)と区別する際に多くみられます。また税関職員がインボイスを送り状ということもあります。
基本的にはすべてインボイスを指しており、どの意味合いで捉えるかによって異なるに過ぎません。また同じ立場の人でも、違う呼び方をすることがありますので混乱しないようにしましょう。
インボイスの作成者と役割とは?
インボイスを作成するのは輸出者です。請求書として使用するにしても、送り状として使用するにしても「商品などを、販売および発送する側が作成する」のが原則です。
これは、国内で商品を販売することを考えると分かりやすいでしょう。販売する側が商品を発送し、請求書を発行しますよね。国内取引と同様に、販売する側(輸出者)が購入側(輸入者)に対して発行します。これは輸入取引においても、輸出取引でも変わりません。
またインボイスの役割には以下のようなものがあります。
- 商品の明細書
- 納品書(商品名、品番、個数など)
- 請求書(単価、請求金額、支払期日など)
通関士の審査に使用する書類「インボイス」の記載事項とは?
通関業法第14条には、通関士の審査が必要とされる書類が規定されていますが、この中にはインボイスも含まれています。従って、通関士として審査を行うためには、インボイス上にどのような情報が記載されているかを知っておく必要があります。
インボイスには決まったフォーマットはありません。企業ごとに書式は多少異なりますが、記載事項は大きく変わりません。例えるならば、国内取引で発行される請求書の形式が企業によって異なるのと同じです。
ただし、通関士が審査をする上で必要な事項が記載されていないと、税関手続きがストップしかねません。これは、インボイスは税関長が輸出入許可を出す為に提出が必要とされる書類に該当*2するためです。
*2 出典:税関ホームページ(https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1107_jr.htm)
輸入申告を例にとって説明すると、税関職員もインボイスを含めた必要書類と「輸入(納税)申告書」を確認し、審査を行います。そのため、関税法基本通達68-3-1には、インボイスに記載すべき一般的な記載事項が規定されています。
その一方で、平成24年7月以降、通関関係書類の簡素化にともない、審査や検査が不要な輸出入申告に限っては提出省略となっています。
さて、インボイスへの使用言語は基本的に英語です。また記載事項は大きく分けて4つありますので、以下で確認していきましょう。
輸出者および輸入者情報(実在する者)
一つ目は輸出者および輸入者の情報です。当然のことながら、実在する輸出入者であることが基本となります。実務上は輸出入取引に関して、税関からの問い合わせに回答できる部署を記載するようにと指導があります。
インボイスを発行する輸出者情報がレターヘッド部分に、輸入者情報は「MESSERS:(~様の意味)」として記載されます。
以下に、記載事項をご紹介します。
- 法人名
(例)JAPAN Textile Company
- 住所
(例)1-1-1 Higashimachi, Nishi-ku, Osaka 550-000
- 連絡先(電話番号、ファックス番号など)
(例)tel: 81+06-1234-5678 fax: 81+06-1234-567
インボイスは請求書や納品書などの役割もあるため、作成する企業によっては以下の内容を記載することもあります。
- 部署名および担当者の名前
(例)Export Section/Attn.Mr.Oomori
- メールアドレスおよび自社ホームページ
(例)e-mail : xxxx@cccc.co.jp/ Website : http:www.cccc.com/
商品明細(貨物の品名、種類、数量)
二つ目に、輸出入取引をする商品明細を記載します。どのような商品を、いくつ、いくらで販売するかの情報が分かる部分です。商品情報が詳細に記載されていると税関手続きがスムーズです。これは、通関士が書類審査をする際に、商品情報によって統計品目番号と税率を確認するためです。
それぞれの記載事項と記載欄を確認していきましょう。
- 商品名および品番・型番、サイズなど
(例)Men’s Long T-shirts JT2020-M Size:M
※DISCRIPTION欄に記載
上記は、男性用ロングTシャツ 品番:JT2020-M Mサイズの商品を示しています。
- 商品の数量および単価
(例)10,000PCS @USD10.00 USD 100,000.00
※QUANTITY欄→10,000PCS
※UNIT PRICE欄→@USD10.00
※AMOUNT欄→USD 100,000.00
上記は、単価USD10.00の商品を10,000個で小計USD 100,000.00を示しています。
通貨はドル建てが多いですが、契約などにより日本円建てや別通貨のこともあります。
請求金額(建値含む)と無償の場合の記載
三つ目は、インボイスの総請求額(建値含む)と代金が無償の場合の記載です。
建値とは貿易取引における価格の決め方であり、契約条件でもあります。商品代金だけでなく運賃、保険料、危険負担などを含め、輸出入者のうち、どちらがどこまで負担するのかを示しています。
これらは輸入申告時に支払う関税などを計算する課税標準額*4に影響するため、記載が必要*5です。
*4 出典:税関ホームページ(https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1104_jr.htm)
*5 出典:税関ホームページ(https://www.customs.go.jp/tokyo/yuubin/1kakakukakunin_n.htm)
建値は、国際商業会議所が規定する最新のインコタームズ2020では全部で11種類あります。最近では契約条件も多様化していますが、FOB、C&F、CIFの 3つが主に使われます。
また、インボイスに記載の商品が代金決済不要の無償扱いの場合には「No Commercial Value」と記されています。ただし、実務上は関税対象となるため、有償で決済した場合の金額で輸入申告を行います。
では、記載例を見ていきましょう。
- 請求金額(建値含む)
(例)C&F NEY YORK USD 100,000.00
- 無償の場合の記載
(例)No Commercial ValueあるいはNo commercial value for customs clearance purpose only
※有償の場合は記載不要
NEY YORKまでの運賃を含む総請求額はUSD 100,000.00であることを示します。No Commercial Valueの記載があった場合は、あくまでも税関手続き上の価格であり金銭の決済がないことを意味します。
任意の記載事項
四つ目は、商品の輸送情報と輸出者のサインです。輸送情報には以下が記載されます。
- 船積み港
- 仕向け地
- 輸送便
- 船積日
また、最後に輸出者のサインが入るのが一般的です。
では具体的な記載例を見ていきましょう。
- 商品の輸送情報
- PORT OF SHIPMENT : KOBE,JAPAN
※船積み港:日本の神戸港
- PORT OF DESTINATION : NEY YORK,U.S.A.
※仕向け地:アメリカのニューヨーク港
- NAME OF VESSEL : NYK ARTEMIS
※輸送便:NYK ARTEMIS(船名)
- DATE OF SHIPMENT : 2011/02/28
※船積日 2011年2月28日出港
(例)
上記から分かることは、2011年2月28日に日本の神戸港を出港するNYK ARTEMISでアメリカのニューヨーク港まで輸送するという情報です。実務上、船名は航海番号として「Voyage No. 2706W」といった記載が船名の後に付いてきます。
通関士が扱うインボイスの基礎知識を確認
通関士は商取引におけるインボイスの役割を知った上で、税関手続き上の基礎知識を持つことが大切です。
主要都市の通関士は通関チームに属し、審査のみを行うことがほとんどです。一方、地方都市の通関士や通関業者の規模によっては、輸出入者と直接やり取りをすることも多々あります。
輸出入者から輸入取引の情報を正確に入手し、税関手続きを行うためには下記の3点を理解しておくようにしましょう。
1.インボイスはなぜ必要?法的根拠は?
インボイスは輸出申告時にも、輸入申告時にも必要です。そもそもなぜ必要なのでしょうか?
法的根拠は以下の通りです。
関税法(輸出申告又は輸入申告に際しての提出書類)
第六十八条 税関長は、第六十七条(輸出又は輸入の許可)の規定による申告があつた場合において輸出若しくは輸入の許可の判断のために必要があるとき、又は関税についての条約の特別の規定による便益(これに相当する便益で政令で定めるものを含む。)を適用する場合において必要があるときは、契約書、仕入書その他の申告の内容を確認するために必要な書類又は当該便益を適用するために必要な書類で政令で定めるものを提出させることができる。
上記に記載された「仕入書」がインボイスのことです。
商品が輸出されれば、相手国では商品の輸入手続きが行われます。そして税関長の輸入許可をもらうためには、関税が無税品、免税、減税などを受ける場合以外は関税を支払わないといけません。
関税を計算するための基礎となる価格(以下課税価格という)は、関税定率法第4条に原則的な課税価格の決定方法として定められています。法令によると、輸入取引において、実際に支払われた額と支払うべき額(実際の支払いの有無は問わない)の合計が課税価格となります。
つまり、インボイスの価格(商品代金など)が分からないと税関手続きができないのです。また輸出申告には輸出する貨物の価格を記載する欄があります。
プロフォーマーインボイスとは?
プロフォーマーインボイス(Proforma Invoice)は次の2つの場面で使用されます。
- 貿易取引で使われる「商取引上のプロフォーマーインボイス」
- 税関手続き(通関)で使われる「通関士が扱うプロフォーマーインボイス」
「商取引上のプロフォーマーインボイス」はいわゆる見積書です。見積書は変更となる可能性があることから、税関手続きでは使われません。
一方「通関士が扱うプロフォーマーインボイス」は次の2つのケースで使用されます。
- 輸出者発行のインボイスが手に入らないケース
- 輸入申告時の税関検査で、申告内容と現物が異なるケース
いずれも、作成者は輸入者です。「商取引上のプロフォーマーインボイス」がある場合は、それを元に作成します。
もし輸入者からプロフォーマーインボイスの作成依頼を受けても応じてはいけません。通関業者は輸出入者から受け取った書類を元に、代理で輸出入申告を行うことを業としています。
作成や修正に手を貸すと、インボイスの改ざんなどと捉えられ、税関長より処分を受けることもあるので、注意しましょう。
パッキングリストなど他の船積書類との整合性が大切!
通関士は輸出入申告の審査を行う際、何よりもまず以下の書類の整合性を確認することが大切です。
- インボイス
- パッキングリスト(梱包明細書)
- 他の船積書類(B/L、Air waybillなど)
- 原産地証明書など
実務上、ケアレスミスで起こりがちなのが次のような事例です。
- 同じ輸出入者の輸出入申告で、船便などが違うものをテレコで申告
- 同じ日に申告予定の輸出入申告で、異なる輸出入者の輸出入書類をテレコで申告
業務が多忙で書類の整理ができていないと、このようなミスが起こるため、注意が必要です。
あわせて、インボイスに記載されていない無償品や予備品などが貨物に入っていないかの確認も必要です。基本的に物=書類が合致するのが原則です。また値引きの有無も確認しておきましょう。値引きの種類によっては、値引き前のインボイス額で輸入申告が必要なケースがあります。
輸入時に支払う関税は申告納税方式*6であるため、インボイス額に相違がないかは輸入者の申告がないと分かりません。ただし、輸入者は何が伝えるべき情報なのか判断できないため、通関士あるいは営業スタッフが確認する必要があります。
*6 出典:税関ホームページ(https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1301_jr.htm)
通関士なら知っておきたい!インボイスを取り巻く最新通関事情
時代の流れとともに、ペーパーレス化が進み、輸出入申告官署の自由化*7が導入されるなど通関事情も変化を遂げています。これらにともないインボイスの取扱も変わってきています。ここからは通関インボイスへのサインと電子インボイスについてご紹介しましょう。
*7 出典:税関ホームページ(https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/jiyuka.html)
通関用インボイスへのサインは不要!?
「インボイス」の記載事項の部分で、輸出者のサインについて説明しましたが、実務上通関用インボイスへのサインは不要となっています。ただし税関官署、担当職員によってはサイン付きのインボイスの提出を求めることがあります。その際は、輸入者に輸出者のサインが入ったインボイスを取り寄せてもらいましょう。
前述した通り、インボイスの偽造もしくは修正、押印は絶対にNGです。通関士や通関従事者が安易にインボイスにサインをしてしまうことは避けなくてはいけません。
ペーパーレス化による電子インボイスの利用
通関関係書類の電子化・ペーパーレス化にともない、書面でのインボイスではなく電子インボイスを利用しての輸出入手続きも可能となっています。
電子インボイスは、輸出入申告などを行うNACCSというシステムを使用して、インボイス情報を登録することで作られます。つまりNACCSを使って登録した情報が電子インボイスとなるのであって、電子メールなどで税関にインボイスを送るのではありません。
これは、通関関係書類は非常に量が多く、また保存義務などもあることから、少しでもペーパーレスにしようという取り組みの一環です。
まとめ
難しく感じがちな、インボイスは「商取引」と「通関」という場面を整理して考えると分かりやすくなります。また記載事項や基礎知識を知っていれば、英語力がなくても理解できます。実際に、通関士の中には英語が苦手という人も多くいますので心配は無用です。
記載事項と法改正さえおさえておけば、インボイスの読み解きも通関書類の作成、審査も比較的スムーズになるでしょう。