貨物に税金を課すための課税要件の1つ「課税物件」の概念を正しく理解しよう
更新日:2020年9月8日
通関士とは、文字通り「通関分野のプロ」であると同時に、「関税分野のプロ」でなければなりません。その2本柱のうちの一つ、関税の分野の学習範囲も、本当に多岐にわたります。
今回はこの広範囲に及ぶ関税の導入部分、関税が課される対象貨物(課税物件と言います)に関して、確定の時期や例外、さらには重要な適用法令を中心に話を進めていきたいと思います。
課税要件とは
実は「課税要件」という言葉は、関税という税金を課すための基本的な条件を指します。つまり表現としてはとても抽象的と言っても差し支えないでしょう。この課税要件に該当する現実的な事態が発生した時に、課税という法律上の効果が生じることになるのです。
さて、それでは、この基本的な条件とは具体的には何を指すのでしょうか。
具体的には、「誰が」(納税義務者)、「何の」(課税物件)「どれくらいの数量で」(課税標準)、「どれくらいの関税割合で」(税率)という、4つが当てはまります。
今回は、この中で「課税物件」という概念にスポットを当てて、以下より詳しく触れて行きたいと思います。
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課税要件の中で、「何の」、つまり、関税が課されるのは何の貨物かという条件を課税物件と言います。これを別の用語でいうと、「輸入貨物」と表現できます。
関税の課税対象となるものは、輸入貨物に他なりません。
関税法第3条には、「輸入貨物には、国内産業と国外の競争から保護して国際競争力を与えることなどを目的として、関税法及び関税定率法その他関税に関する法律により、関税が課される」とあります。
つまり、関税を課す理由としては、国内産業の保護と、国の税収の確保が大きな目的となります。
課税物件の確定の時期と適用法令
課税物件の概念を考えるに当たって重要なのは、この関税が課される時期に関してとなります。モノは、時間の経過とともにその経済的価値を下げ(歴史的なものは逆に価値が上がる場合もありますが)、その性質が変化し、モノによっては数量まで変化することもありますよね。
つまり、そのモノに関して、具体的にいつの時点で関税を課すかという具体的なルールが必要になります。
また併せて、どの時点での税率が適用されるかというのも明確にしておかなければ、不公平感が浸透してしまいかねません。
上記のルールのことを「課税物件の確定の時期」と言い、適用される税率のことを「適用法令」と言います。具体的には以下のような形で関税法第4条、5条で明確な定義がなされています。
課税物件の確定の時期(いつの時点で関税を課すか) | 適用法令(どの税率で関税を課すか) |
---|---|
輸入申告の時 | 輸入申告の時 |
課税物件の確定の時期、そして適用法令とも「輸入申告の時」となります。
前者に関しては、既に述べてきたように、時間の経過とともに貨物に変化が生じることを踏まえ、輸入者の、輸入するという意思が具体的に形になったとき(輸入申告のとき)と規定されています。
また後者に関しても、輸入申告の日にその貨物に適用される税率を使って関税額を算出するというルールを作ることで、輸入者間の不公平感をなくすことに繋がっているのです。
課税物件の確定の時期の例外
輸入貨物の関税の発生時期は「輸入申告の時」というのは既に述べてきましたが、実際には例外が多数存在します。併せて輸入貨物の中には輸入申告自体を必要としないものもあります。
以下より具体的な例を見ていきましょう。
①場外作業や場外使用の場合
保税工場外や総合保税地域外での保税作業(場外作業)、あるいは保税展示場外や総合保税地域外での利用(場外使用)の場合における課税物件の確定の時期は、「場外作業や場外使用が許可された日」になります。
税関が関税を徴する際の貨物の現状を把握した時点とは、イコール場外作業の許可を受けた日(つまりは保税工場等から搬出した時)になるためです。
②保税展示場の期間満了の場合
保税展示場の期間が終了した後で、まだ搬出されていない貨物は一定期間後に関税が徴収されることとなります。この場合の課税物件の確定の時期は、「関税を徴収すべき事由が生じた時」となります。
上記の場合、税関長の対応としては期間を再度定めて貨物を搬出させるか、あるいはその他の処置を命令するかになります。これらの処置を施す期間が終了すると、「関税を徴収すべき事由」となるのです。
ポイントは、保税展示場の利用期間が終了後すぐに関税が徴収されるのではなく、上記のように一定期間が経過した後に関税が徴収されるという点です。関税が徴収された時点で輸入が許可されたとみなされるので、「関税を徴収すべき事由が生じた時」が課税物件の確定の時期とされています。
③亡失や滅却の場合
保税地域等で外国貨物が無くなった場合はどうでしょうか。この場合の課税物件の確定の時期は、「亡失または滅却の時」となります。外国貨物が亡失または滅却した場合、その時点で関税が徴収されることから、理由としては②と同様になります。
④保税運送の場合
保税運送や難破運送に際して指定期間内に貨物が目的地に到着していない場合はどうなるのでしょうか。この場合の課税物件の確定の時期は、「運送が承認された時」となります。
⑤船(飛行機)関連の用品の場合
外国貨物である船(飛行機)関連の用品が積込みの承認を受けたけれども指定の期間内に積み込みがされない場合は、「積込みが承認された日」が課税物件の確定の時期となります。
これまでお話ししてきた課税物件の確定の時期を表にまとめると、以下の通りになります。上記で触れていない貨物等に関するものも含めましたので、最低でも以下の8つは例外としてしっかり理解しておきたいところです。
原則 | 輸入申告の時 |
---|---|
例外①場外作業や場外使用の場合 | 場外作業や場外使用が許可された日 |
例外②保税展示場の期間満了の場合 | 関税を徴収すべき事由が生じた時 |
例外③亡失や滅却の場合 | 亡失または滅却の時 |
例外④保税運送の場合 | 運送が承認された時 |
例外⑤船(飛行機)関連の用品の場合 | 積込みが承認された日 |
例外⑥郵便物の場合 | 日本郵便株式会社から税関長へ郵便物が提示された時 |
例外⑦収容や留置の場合 | 公売又は売却の時 |
例外⑧輸入許可を受けずに輸入された貨物の場合 | 輸入の時 |
保税蔵置場等に置かれた外国貨物の例外
保税蔵置場または総合保税地域に置かれた外国貨物の課税物件の確定の時期は「輸入申告の時」ではなく、「置くことが承認された時」(蔵入承認または総保入承認の時)です。ただし、以下のように頻出する例外もありますので、区別して覚えておきましょう。
①蔵置中に蒸発して数量が減ってしまう貨物
例えばお酒等アルコールは、保税蔵置場等に蔵置中に自然に蒸発して容量が減ってしまいます。通例通りに課税物件の確定の時期を適用すると、容量が減ることで輸入申告の際には存在しない容量にまで課税がかかることになります。そのため、この場合の課税物件の確定の時期は「輸入申告の時」となります。
ただし、これは蒸留酒やリキュール等アルコール分が50%以上あって、かつ2リットル以上の容器に入っているものに限定されます。それ以外のアルコールはこの例外から外れ、「置くことが承認された時」になるので注意しましょう。
②保税工場又は総合保税地域内での保税作業による製品である外国貨物
本来でしたら保税工場又は総合保税地域内での保税作業によってできた製品は、外国に積戻しの流れとなりますが、時には何らかの理由で国内に輸入する形となる場合(例えば取引契約の破棄により積戻しが不可になったなど)も少なくありません。
ただし関税に関しては、保税工場又は総合保税地域内での作業の承認を受ける際に、税関が審査し確認をしていることから、「保税作業使用の承認の時」に課税物件の確定の時期が設定されています。
まとめ
課税物件の確定の時期に関しては、原則はもちろん、その例外が多数あるため、なかなか覚えづらいという方も多いと思われます。
一方でどんな例外でも関税がかかる時期、つまり「税関長が、貨物の性質や数量をチェックする時」が共通項となっているのがわかると思います。
各例外に沿って手続きの流れがどのようになっているかを理解することで、機械的ではない学習を確立して頂ければ幸いです。