貿易保険がカバーする2つのリスクとは?海上保険との違いも解説!
更新日:2020年10月27日
海上保険は通関書類でもよく目にするけれど、貿易保険とはどのような保険なのだろう?
輸出入取引を扱う通関士や通関従事者であれば、簡単に保険の概要や海上保険との違いを知っておきたいものです。
一歩上をいく通関士が豆知識として知っておきたい、貿易保険について分かりやすく解説します。
貿易保険とは?
企業が、輸出入や海外投資、融資といった海外取引を行う際のリスクをカバーする保険です。カバーするリスクが大きいことから、日本だけでなく世界各国でも「国の事業」として貿易保険制度が設けられています。
貿易保険が生まれた歴史的背景
貿易保険制度は、輸出促進を目的として1950年に政府によって創設されました。
日本企業の海外進出を推奨する反面、政治・宗教・文化・慣習などが異なる外国との取引においては、さまざまな認識違いや突発的な事件などが起こることが予想されます。そのような、通常の保険でカバーできないリスクを補填することで、多くの日本企業が海外進出するための敷居を下げ、日本経済の拡大につなげたいという意図があるのです。
簡単に説明すると、経済発展のためには国内市場だけでは限りがあるが、海外進出にはリスクがつきもの。そこで二の足を踏みがちな日本企業に対して、政府が貿易保険制度によってリスクをカバーすることで、海外取引も視野に入れたビジネスを行わせようという背景があるのです。
貿易保険がカバーする2つのリスクとは?
貿易保険がカバーするのは以下の2つのリスクです。
1.取引する国自体が原因で起こる「非常危険」
取引する相手先が原因ではなく、国の情勢などが原因で起こることからカントリーリスクとも呼ばれます。具体的なリスクには、以下のようなものがあげられます。
- 輸入制限や輸入禁止といった国の政策
- 為替取引の制限および禁止など国の政策
- 戦争や内乱、革命などによるもの
- 支払い国に原因がある外貨送金の遅延
- 制裁的意味合いを持つ高関税やテロ行為
- 経済的制裁
- 収用行為
- 自然災害など、当時者の責めによらない事態
2.取引する相手先が原因で起こる「信用リスク」
国自体の制限ではなく、取引する相手先が原因で発生するのが、信用リスクです。具体例を確認しましょう。
- 取引先の破産など
- 代金決済期限から3ヶ月以上にわたる不払い
- 輸出取引などの一方的キャンセル
※外国政府などを取引先とする場合
上記のような事態により発生した以下のような被害を補填するのが、貿易保険です。
- 貨物を船積みできない
- 貨物代金が支払われない
- 投資先が事業不能になる
- 貸付金が償還されない
貿易保険のメリットとデメリットとは?
貿易保険をかけることのメリットとデメリットをご紹介します。
貿易保険のメリットとは?
貿易一般保険を例にあげると、輸出や投資などにともなう非常リスクと信用リスクを、船積み替えから保証してもらえることでしょう。
取引先全体を対象として包括的に付保することもできますが、取引先を選択して付保することも可能です。国の産業政策の一環であるため、カントリーリスクが高い国の企業にも付保できるのは大きなメリットでしょう。ただし、金額や条件などに制限が課せられることもあります。
貿易保険のデメリットとは?
デメリットは、実際に信用リスクなどが発生した際の書類や手続きが煩雑となる点でしょう。そのため、取引先が破産した際、実際に保険金が支払われるまでに1~2ヶ月程度要してしまいます。
結果、資金繰りがスムーズにいかないといったリスクを生じさせる可能性があります。
貿易保険の種類と民間保険との比較
貿易保険の種類、また公的保険と民間保険との相違点をみていきましょう。
貿易保険の種類
貿易保険には「個別保険」と「包括保険」の2種類があります。
「個別保険」は、海外取引経験が浅い企業や、リスク補填が必要な取引に限定して付保したい企業に向いています。「包括保険」は、継続して、また反復して複数の取引先との海外取引を持つ企業に適した保険です。
貿易保険のうち代表的なものを例にあげてご紹介します。
- 輸出取引に関する貿易保険
- 貿易一般保険
→日本からの直接貿易および日本以外から出荷する仲介貿易も対象とした保険
- 中小企業・農林水産業輸出代金保険
→中小企業や中堅企業、農林水産事業に従事する人が利用対象であり、1回の取引は5,000万円以下、日本からの輸出のみと規定されている
- 限度額設定型貿易保険
→特定の海外取引先と定期的に一定額の取引がある場合に適した保険で、1年間有効な保険金支払額を設定する
- 輸出手形保険
→荷為替手形が満期日に不払いになった場合の損失をカバーするための保険
- 貿易一般保険
- 輸入取引に関する貿易保険
- 前払輸入保険
→契約に応じて前払いした貨物が輸入できず、かつ前払い金の返還もされない場合の損失をカバーする保険
- 前払輸入保険
- 投資取引に関する貿易保険
- 海外投資保険
→海外投資のカントリーリスクによる損失をカバーする保険
- 海外事業資金貸付保険
→子会社など、日本からの海外への出資先企業に対する直接貸付や、子会社などが行う借り入れに対する保証
- 貿易代金貸付保険
→海外事業に必要な資金に対する貸付を付保する
- 海外投資保険
貿易保険は公的保険と民間保険の2種類
貿易保険は、創設当初より50年間は政府が運営していました。その後、2001年に独立行政法人日本貿易保険が設立され、事業が引き継がれましたが、2017年に経済産業省が100%出資した株式会社日本貿易保険(NEXI)へと移行しています。
従来、貿易保険といえば、株式会社日本貿易保険(NEXI)が運用する公的保険だけでした。しかし、2005年より多くの民間の保険会社でも扱うようになりました。ただし、貿易保険といった名称ではなく、取引信用保険、ポリティカルリスク保険など取扱商品名は異なります。
公的保険と民間保険の違いは?
公的保険と民間保険の違いは主に3つあります。
- 日本への利益があるか否かが付保可否に影響する
公的保険は、政府が100%出資していることもあり、日本に利益がある取引でないと付保されないことがほとんどです。しかし、民間保険の場合はその判断基準はありません。
- OECDガイドラインの縛りの有無
公的保険は、OECD(経済協力開発機構)に加盟している国に配慮する傾向にあり、OECDガイドラインの縛りに左右されることがあります。一方の民間保険では、ガイドラインに縛られることなく保険会社の判断で契約することができます。
- 既存契約への付保の可否
公的保険は、原則として既に契約している取引に関して付保することはできません。海外投資保険は例外です。ただし、相手国の事情や相手企業の財政状態が悪化し、貿易保険をかけたいというケースは出てくるものです。民間保険の場合は、既存契約にも付保することができます。
このように、民間保険は公的保険がカバーしづらい案件を補填することができるという側面を持っています。
貿易保険の疑問点をチェック!
貿易保険において知っておきたい3つの疑問点について解説します。
1.貿易保険はどの国が相手でもかけられる?
貿易保険は、どの国であっても、どの取引先相手であっても付保できるわけではありません。これを可能にしてしまうと、保険会社が破綻してしまうからです。
そこで、国別の引受方針や基準が設定されています。これをカントリーリスクといい、A~Hまでの8ランクに分類し、引受金額や期間を一部制限することもあります。また、取引先についても、信用状態に応じて格付けされており、引受の可否が判断されます。
2.海上保険とどう違うの?
貿易保険は、輸出入や海外投資、融資といった「海外取引に対してかけられる保険」です。一方の、海上保険は「海上輸送される物自体に対してかける保険」であり、保険対象がまったく異なります。
もう少し具体例を挙げて説明すると、貿易保険は以下のような取引上の損失をカバーします。
- 貨物を輸出できなくなった
- 輸出した貨物の代金が回収できなくなった
一方の海上保険は、以下のような物質的損失を補填するためのものです。
- 海上輸送中に貨物が破損した
- 海上輸送中に貨物が盗難にあった
3.貿易保険をかけられる人の条件は?
貿易保険をかけられる人の条件は、以下のいずれかに該当する人です。
- 日本国内に住んでおり、経済活動の基盤が日本国内にある日本人または日本の法人
- 日系企業の海外子会社や海外支店
※現地企業の利用規制を受けない場合に限る
まとめ
貿易保険は、はじめて取引する国や相手先とのリスクを回避するのに心強い保険です。比較的、海上保険を付保する企業が多いですが、同時に海外取引自体に保険をかけておく重要性も知っておきましょう。
また、付保を検討するにあって、カントリーリスクや信用調査での格付けについても、調査しておくことが大切です。
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合格を勝ち取るイメージを持ち、思い描く未来へ進みましょう
【出身】埼玉県
【経歴】2019年通関士資格取得 運送会社の通関部門に航空貨物の通関担当を経験した後、通関士としての勤務経験を経て通関士資格講師へ
【趣味】カフェ巡り
【座右の銘】暗闇を呪うより一本の蝋燭に火を点せ
●フォーサイト公式YouTubeチャンネル「通関士への道」