「1年単位の変形労働時間制」とは?社労士試験対策のポイント

働き方改革で求められる「多様な働き方の実現」においては、変形労働時間制の活用がカギとなります。変形労働時間制とは、一定の期間内での労働時間を柔軟に調整する制度のこと。

その中でも、「1年単位の変形労働時間制」は、1ヵ月を超え1年以内の特定期間の週労働時間が平均して40時間以内になる範囲内で、業務の繁閑に応じた柔軟な労働時間配分を認める制度です。

目次

「1年単位の変形労働時間制」は年間カレンダーで計画する

年間カレンダー

1年単位の変形労働時間制を導入するためには、労働日や労働時間をあらかじめ設定しておかなければなりません。設定に際しては、以下のルールに則る必要があります。

労働日数の上限
(1年あたり)
280日
労働時間の上限
(1日あたり)
10時間
労働時間の上限
(1週間当たり)
52時間
※対象期間が3ヵ月を超えるときは、次の各号のいずれにも適合しなければならない。
① 対象期間において、所定労働時間が48時間を超える週を設定するのは連続3週以内とすること
② 対象期間をその初日から3ヵ月ごとに区分した各期間において、週48時間を超える所定労働時間を設定した週の初日の数を3以内とすること
連続して労働させることができる日数の上限 連続して6日
連続して労働させることができる日数の上限
(繁忙期)
1週間に1日の休日を設定し連続12日

労働日や労働時間の設定には、会社の年間カレンダーを踏まえた検討が不可欠です。上記の上限に関わるルールの他、対象期間の総所定労働時間数や総所定労働日数、業務の繁閑を考慮して決定します。

「所定労働時間数」は対象期間1年の場合、「2,085時間」が基準

対象期間について、所定労働時間数を算出します。

<対象期間1年の場合>

1年365日、1週7日を前提とすると、年間の週数は365日÷7日=52.14週間となります

労働時間を週平均40時間以内とすると、1年間の総労働時間数は次の通りです。
【1週間40時間×52.14週=2,085.6時間≒2,085時間】

よって、対象期間1年の変形労働時間制では、年間の総所定労働時間が「2,085時間」に収まるよう、労働時間を設定する必要があります。

「所定労働日数」と「年間休日」の考え方

1日の所定労働時間を8時間と決めている場合、年間の労働日数は
【2,085時間÷8時間=260.6日/年】
となります。

算出された「260.6日」について、1日未満の端数を切り捨てると、総所定労働日数は「最大260日」となり、年間休日が「105日」以上必要であることが導き出されます。

年間カレンダーでの検討が困難な場合、1ヵ月ごとの決定も可

1年単位の変形労働時間制では、前述の通り、対象期間に係る労働日や労働時間をあらかじめ定めておく必要があります。

ただし、長期的な計画立案が難しい場合には、最初の1ヵ月のみ具体的な労働日・労働時間を定め、それ以降の期間については毎月の労働時間数や労働日数の総枠のみを決めておくのみでも問題ありません。

その場合、各月の具体的なシフトについては、各期間の初日の30日前までにその都度決定し、労働者に対して通知します。

「1年単位の変形労働時間制」の労使協定締結事項

労使協定締結事項

1年単位の変形労働時間制の導入に際しては、労使協定の締結・届出が必要となります。盛り込むべき事項は、以下の通りです。

  • 対象労働者の範囲
  • 対象期間(1ヵ月を超え1年以内)及び起算日
  • 特定期間(繁忙期)
  • 労働日と労働日ごとの労働時間(「週40時間平均」や各種の「上限」に注意)
  • 労使協定の有効期間(1年程度とすることが望ましい)

参考:厚生労働省「1年単位の変形労働時間制」

36協定の限度時間に注意

「1日8時間、週40時間」の法定労働時間を超えて労働させる場合、会社は36協定(時間外・休日労働に関する協定届)の締結・届出をしなければなりません。36協定に定める「延長することができる時間」の限度時間は、通常「1ヵ月45時間、1年360時間」とされていますが、1年単位の変形労働時間制を採用する場合は、「1ヵ月42時間、1年320時間」とされている点に注意が必要です。

すでに届出済みの36協定届の内容については、変形労働時間制の導入前に確認し、必要に応じて締結・届出のし直しを検討します。

労使協定の他、就業規則への規定も必要

1年単位の変形労働時間制を導入する場合、労使協定の締結・届出の他、就業規則への規定も必要になります。盛り込むべき内容には、「1年単位の変形労働時間制を適用する旨」の他、「変形期間」「変形労働時間の各日・各週の所定労働時間」「始業・終業時刻」等があります。

ただし、「変形期間の各日・各週の所定労働時間」等、変形労働時間制の詳細については、労使協定や別表に委ねる形としても問題ありません。

「1年単位の変形労働時間制」の時間外労働

時間外労働

1年単位の変形労働時間制を適用した際の時間外労働の考え方については、社労士試験で深く問われることはないものの、実務担当者が特に頭を悩ませるポイントです。具体的には、以下の通り「1日ごと」「週ごと」「対象期間」の観点から検討します。

✓ 1日ごと:

特定期間においては労使協定で定めた時間、それ以外の日については8時間を超えて労働した時間

✓ 週ごと:

特定期間においては労使協定で定めた時間、それ以外の週は週40時間を超えて労働した時間(1日ごとの時間外労働と重複する時間を除く)

✓ 対象期間:

対象期間の法定労働時間総枠を超えて労働した時間(1日ごと、週ごとでカウントした時間外労働時間を除く)

「1年単位の変形労働時間制」の社労士試験出題実績

社労士試験出題実績

1年単位の変形労働時間制は、社労士試験でどのように問われているのでしょうか?過去の出題実績から出題傾向を把握し、社労士試験対策に活かしましょう。

週44時間特例の対象外(平成17年労基法)

以下の選択肢について、正誤を判別する問題です。

「使用者は、労働基準法別表第1第13号の保健衛生の事業のうち常時10人未満の労働者を使用するものについては、1週間について44時間、1日について8時間まで労働させることができる。また、この特例の下に、1か月単位の変形労働時間制、フレックスタイム制及び1年単位の変形労働時間制を採用することができる。」

回答:× 

1年単位の変形労働時間制の場合は、対象期間を平均して週40時間以内であることが条件となっています。変形労働時間制で週44時間の特例が適用されるのは、1ヵ月単位の変形労働時間制とフレックスタイム制のみです。

各種の変形労働時間制のルールを正しく覚えましょう。

労働時間の限度(平成30年労基法)

以下の選択肢について、正誤を判別する問題です。

「いわゆる1年単位の変形労働時間制においては、隔日勤務のタクシー運転手等暫定措置の対象とされているものを除き、1日の労働時間の限度は10時間、1週間の労働時間の限度は54時間とされている」

回答:× 

正しくは「1日10時間、週52時間」です。キーワードとなる数字は正しくおさえる必要があります。

まとめ

  • 1年単位の変形労働時間制とは、1ヵ月を超え1年以内の特定期間について、一定の要件を満たす場合に、業務の繁閑に応じた柔軟な労働時間配分を認める制度のことです
  • 1年単位の変形労働時間制の導入では、原則として対象期間に係る労働日や労働時間をあらかじめ設定することが必要で、この設定に際しては「特定期間の週労働時間数を40時間以内とすること」や「労働日数や労働時間数、連続して労働させることができる日数等の上限」等、各種の要件をクリアする必要があります
  • ただし、長期的な計画立案が難しい場合に限り、例外的に、最初の1ヵ月のみ具体的な労働日・労働時間を定め、それ以降の期間については毎月の労働時間数や労働日数の総枠のみを決めておくのみで良いとされています
  • 1年単位の変形労働時間制を適用した場合の時間外労働は、「1日ごと」「週ごと」「対象期間」の各区分から確認します
  • 1年単位の変形労働時間制は社労士試験でも出題実績のあるテーマのため、出題傾向を踏まえた対策が必要です
この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

「そうだったのか!」という驚きや嬉しさを積み重ねましょう
【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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