社労士試験のキーワード「打切補償」とは?解雇や傷病補償年金との関係等

「打切補償」とは?

「打切補償」は労働基準法第81条に定められている制度です。社労士試験では労働基準法だけでなく労災保険法からの出題も散見する等、出題実績の多い用語のため、受験生であれば確実におさえておくべきキーワードです。

ところが、社労士試験で問われる「補償」は多岐に渡り、学習段階においてはあらゆる制度との知識の混同がネックとなることも少なくありません。「打切補償」についてもまさにその一つで、制度上のポイントとなる数字やキーワードを覚えても、いつの間にか頭の中で他の補償制度の内容と複雑に絡み合ってしまうことも珍しくないようです。

このページでは、社労士試験で問われる「打切補償」の概要を正しく理解すると共に、実際の出題から効果的な対策を検討することにしましょう。

目次

「打切補償」とは?社労士受験生がおさえるべき基本を復習

業務上の怪我や病気により治療を余儀なくされ、休業する従業員への対応を検討する際、企業では特に慎重になる必要があります。労災事故により従業員が傷病を負った場合、使用者には原則として、その傷病が完治(治癒)するまで、従業員に対し必要な補償を行う義務が生じます。

その一方で、法律上、使用者負担の軽減を図るために打切補償という措置を講じることも可能です。社労士試験対策では、労災保険上の補償と共に、打切補償についても学習し、理解を深めることになります。

労働基準法が定める打切補償

労働基準法第81条では、打切補償について下記の通り定めています。

‘第七十五条の規定によって補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。’

出典:電子政府の総合窓口e-Gov「労働基準法」

「第七十五条の規定」とは、労働者が業務上負傷したり、病気にかかったりした場合に、使用者が行う必要な療養、使用者が負担する療養の費用のことで、「療養補償」といいます。

労働基準法では、

① 業務上の傷病に対し、使用者負担による療養補償を受けていること

② 治療開始後3年を経過しても治っていないこと

③ 平均賃金の1200日分を支払うこと

を以て、将来に向かって補償を行わなくても良いと定めています。これが「打切補償」です。

また、③の要件については、治療開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又は同日後において傷病補償年金を受けることとなった場合も、打切補償を受けたとみなされます。

参考:電子政府の総合窓口e-Gov「労働者災害補償保険法」第19条

打切補償を支払うとどうなる?解雇制限との関係性

使用者が打切補償を支払うと、今後、補償責任から免れることができ、その従業員を解雇することができます。労働基準法第19条は、業務上の傷病による治療のための休業期間とその後30日間は解雇禁止としていますが、打切補償の支払いによってこの制限を受けなくなるのです。

ただし、実際に従業員を解雇する場合には、打切補償を支払っていたとしても、解雇予告手当の支払い、もしくは30日前に解雇予告が必要となる点に注意が必要です。

通勤災害と打切補償の関係

打切補償はあくまで「業務上の病気や怪我」に適用されるものであり、通勤災害は対象外となります。通勤途中の事故による傷病の発生原因については、必ずしも使用者責任を問えるものばかりではないというのが法律上の解釈であるためです。

併せて、通勤災害の場合、労働基準法第19条に定める治療のための休業期間とその後30日間の解雇制限の対象にも該当しない点もおさえておきましょう。

社労士試験における「打切補償」の出題

社労士試験における「打切補償」の出題

実際の社労士試験問題から、「打切補償」の出題を確認しましょう。試験での問われ方を確認することで、出題パターンを把握し、対策に活かすことができます。

平成19年労基-第4問(労働基準法に定める解雇等)選択肢B

業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のため休業している労働者については、使用者が、労働基準法第81条の規定によって打切補償を支払った場合(労働者災害補償保険法第19条の規定によって打切補償を支払ったものとみなされた場合を含む。)又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となりその事由について行政官庁の認定を受けた場合には、労働基準法第19条第1項の規定による解雇制限は適用されない。

- 正しい

<解説>
業務上の負傷または疾病による休業については、「休業する期間及びその後30日間」が解雇制限期間となります。ただし、打切補償を支払う場合、傷病補償年金を受け取っているまたは受け取ることとなった場合、もしくは事業継続が不可能と認定された場合は解雇制限の対象外となります。

社労士試験における「打切補償」対策とは

平成19年度本試験における選択肢は、平成13年度にも同様の形式で出題されており、試験対策上「解雇制限と打切補償」の関係性を捉えておくことが重要であると分かります。加えて、打切補償関連のキーワードである「業務上の負傷又は疾病」「3年」「傷病補償年金」「平均賃金の1,200日分」などの理解が問われます。

社労士試験での打切補償対策としては、テキストに登場する、もしくは過去に問われたことのある、ごく基本的なことを正確におさえておくことが肝心です。

まとめ

  • 打切補償とは、療養開始後3年を経過しても治らない業務上の負傷又は疾病について、使用者は平均賃金の1,200日分の打切補償を行うことで将来に向けて補償責任から免れ、解雇制限の対象外とする制度のことです。
  • 打切補償を適用するためには「業務上の傷病に対し、使用者負担による療養補償を受けていること」「治療開始後3年を経過しても治っていないこと」「平均賃金の1200日分を支払うこと、又は治療開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている、もしくは同日後において傷病補償年金を受けることになった」といった要件を満たす必要があります。
  • 社労士試験における打切補償関連の出題では、ごく基本的な事項を問うものがほとんどのため、テキストや過去問を中心とした基礎を正確におさえる対策が効果的です。
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この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

「そうだったのか!」という驚きや嬉しさを積み重ねましょう
【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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