「社会保険労務士」が無くなる?企業における需要や今後の展望を考察

横顔

社会保険労務士の今後の需要について、明るい展望を抱ける方はおそらくごく少数ではないでしょうか?

AIの進化を背景に、既存の職業の多くが淘汰されると見込まれています。AIに取って代わられる仕事については社労士も例外ではなく、某新聞によれば「社労士業の8割がAIに置き換え可能」とのこと。現在社労士として開業している私にとっても、そして社会保険労務士を志す受験生の皆さんにとっても、心中穏やかでいられる話題ではありません。

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目次

社労士は将来AIに取って代わられるのか?

「社労士」という職業は将来的にAIに取って代わられ、消滅してしまうのでしょうか?この点については様々な考え方があることは承知の上で、現役社労士である私の考えは迷わず「NO」です。

確かに、手続きや申請、給与計算などの単純業務は、AIの力で十分にまかなえそうです。現に、政府は各企業における雇用・社会保険関連手続きの電子申請化を推し進めています。また、こちらは未だ計画段階ではありますが、2019年を目途に「法人設立時の登記後の手続のオンライン・ワンストップ化」の実現が目指されています。

現状、手続き代行や給与計算代行などの顧問契約で成り立っている社労士事務所にとって、AIは脅威といえるかもしれません。しかしながら、社労士業には「AIでは対応できない分野」もあります。

AI時代到来、社労士の需要はどこにある?

PCを打つロボット

例えば、技術が進化し、AIの活用によって事務手続き等様々なことが可能になったとしても、使い手がAIを活用できるだけの能力を備えていなければ、手続きは一向に前に進みません。社員が入社したとして、事業主がそのまま放置すれば、入社した社員は雇用保険や社会保険に加入できません。

「雇用して手続きせずなんて、そんなことないだろう」と思われるかもしれませんが、実務上、無知識や失念による未加入問題への対応は少なくありません。こうした場合、社労士と事業主とのコミュニケーションの中で雇用が発覚し、必要な手続きが進められます。また、労使トラブルや障害年金裁定請求など、単純な手続きで完結するものではなく、社労士による深掘りが必要となる仕事もあります。

参考:同一労働同一賃金とは、ガイドラインや制度の背景などを解説|Marke TRUNK

社労士の需要発掘は、「人」だからこそ可能な仕事に注目

このように、「人」ならではのサポートやフォローに注目することで、社労士の需要がどこにあるのか、AIに取って代わられないためにどんな業務に注力するべきなのかが必然的に見えてくるものです。

社会保険関連の手続処理で、今後、各企業におけるAI活用が主流になったとして、使い手となる事業主や担当者の傍らについてサポートする仕事はおそらくなくなることはないでしょう。

また、新たな制度設計や労使紛争への対応に伴うコンサルティングについても、社労士によるヒアリングを経て初めて成功に導かれる場面は少なくありません。もっとも、「人」に相談することで安心感を得られる、という心理的効果もあります。社労士業にはまだまだ「人」が対応すべき業務がかなり存在しているのです。

社労士の需要を高める、働き方改革の追い風

社会的に「働き方改革」のキーワードが主流となる中で、社労士の需要は格段に高まっています。働き方改革を背景に今、各企業には、長時間労働が当たり前だった従来の働き方からの脱却、少子高齢化に伴う働き手不足への対応など、あらゆる変革が求められているのです。

こうした状況下において、AIの進化は業務効率化や課題抽出、問題解決に向けた一助とはなっても、働き方の見直しや改善を主導してくれる存在にはなり得ません。

現状、何が問題で、どこをどのように改善していけば良いのか、現場において実際に働き方改革を推進していけるのはやはり社労士です。事業主や労働者と十分にコミュニケーションをとり、その内容を受けて適切な方向性を見出せるのは、「人」だからこそなし得る技ではないでしょうか?

AIと共存可能な社労士には需要増の見込み

人とロボットの手

今後ますます進展する技術革新やAI化を見据え、今、社労士自身が働き方を変えていかなければなりません。従来、単純な手続き業務を主力としていた事務所では、これらの仕事がすべてなくなることを想定した上で、経営方針を見直す必要があります。

また、AIを敵対視するのではなく、積極的に活用していく姿勢も求められます。社労士業にとってAIは脅威となる一方、業務効率化を推進する重要なツールともなり得ます。

まずは社労士が上手く活用することで自身の業務改善を図ると共に、顧客の生産性向上に向けたアドバイスも可能になります。AI活用のメリットに注目しつつも、AIに淘汰されない業務の在り方を見据えることができる社労士には、需要が高まりそうですね。

社労士といえば、以前から「需要がない」「食えない」と囁かれることの多い士業。それでも依然として社労士業が存在し続けるのは、確かに「社労士が求められる場」があるからです。信憑性の薄いネガティブな情報に惑わされることなく、社労士として時代の変化に対応していくことに目を向けてみましょう!社労士の需要は、確実にあります。

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この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

「そうだったのか!」という驚きや嬉しさを積み重ねましょう
【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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