社労士試験頻出「解雇制限」 労働基準法の定めや解雇制限除外の事例

ドラマ等で社長が従業員に対して「君は今日からクビだ!」と言い放つシーンがありますが、実際には従業員の解雇には様々なルールがあり、自由に行えるものではありません。

このページで解説する「解雇制限」もまた、解雇関連の数あるルールのひとつで、社労士試験対策では頻出キーワードとして把握しておくべきテーマといえます。

使用者は原則、「30日前の解雇予告」か「解雇予告手当の支払い」により労働者を解雇することができます。

ところが、労働者が一定の要件下にある場合、使用者は前述の手順を踏んでも解雇を成立させることができないことがあり、これを「解雇制限」といいます。

ここでは、社労士試験対策上、おさえるべき「解雇制限」のポイントを解説します。

目次

社労士試験頻出「解雇制限」2パターン

解雇制限は、労働者が解雇後の就職活動に困難をきたすことがないよう、たとえ労働者側の責めに帰す事由があったとしても、一定期間について解雇を一時制限する制度です。

「今、解雇されたら労働者の再就職に支障が出る」として配慮されるべき時期として、以下の2つのタイミングを覚えておきましょう。

解雇制限①「業務上の傷病により休業する期間とその後30日間」

労働者が仕事に関連するケガや病気によって休業している間とその後の30日間は、解雇制限の対象期間となります。

「その後30日間」の起算日は、復職した日です。

ここで重要なポイントは、「業務上の傷病による休業」であることです。

通勤災害や私傷病による休業の場合は解雇制限の対象外となりますから、解雇予告や解雇予告手当の支払いによる解雇が可能です。

解雇制限②「産前産後休業をしている期間とその後30日間」

業務上の傷病による休業に加え、労働基準法上、女性労働者に認められている産前6週間産後8週間の休業中とその後の30日間も、解雇制限の対象になります。

「その後30日間」の起算日は、産後8週間が経過した日もしくは産後6週間を超えて本人の請求により就労を開始した日のいずれかです。

産前産後休業を取得していない場合や、産後に8週間とその後30日間を過ぎても休業している場合は解雇制限の対象外として扱われます。

解雇制限の対象でも、除外となる2パターン

上記の解雇制限に該当しても、例外的に解雇が可能となる場合もあります。

社労士試験対策上必要な知識ですので、解雇制限の例外となる2パターンについても覚えておきましょう。

解雇制限の除外①「打切補償を行った場合」

一つめは、労働基準法上の打切補償を支払った場合です。

「打切補償」の解説は関連記事にあるので詳細は割愛しますが、以下に該当する従業員については、打切補償として平均賃金の1200日分を支払うことで解雇が認められます。

  • 業務に起因する病気やけがで治療中であること
  • 使用者の費用負担で治療中であること
  • 治療開始後3年を経過しても治療が終わらないこと

関連:「社労士試験のキーワード「打切補償」とは?解雇や傷病補償年金との関係等」

または、打切補償の支払いに代えて、従業員の治療開始から3年経過時点で傷病補償年金が支給されている場合にも、解雇制限が解除されます。

傷病補償年金は、療養開始から1年6ヵ月以上経過しても治療が完了せず、労災保険上の傷病等級3級以上に該当する場合に、これまでの休業補償給付からの移行という形で支給決定されます。

参考:厚生労働省「休業(補償)給付 傷病(補償)年金の請求手続」

社労士試験対策上、解雇制限の除外事例として「打切補償」だけでなく「傷病補償年金」のキーワードも把握し、それぞれの制度について理解を深めましょう。

解雇制限の除外②「天災事変等が原因で事業の継続が不可能となった場合」

自然災害等の天災事変により事業の継続が不可能になった場合、労働基準監督署の認定を受けることで、解雇制限中の労働者を解雇できるようになります。

「天災事変等」の具体事例について、通達では以下のケースが挙げられています。

  • 事業場が火災により焼失した場合。ただし、事業主の故意または重大な過失に基づく場合を除く。
  • 震災に伴う工場、事業場の倒壊、類焼等により事業の継続が不可能となった場合。

天災事変による影響であっても、「単なる経営悪化」では認められません。

また、「事業の継続が不可能」の該当事例には、事業の縮小や一時休業は含まれていないことにも留意する必要があります。

こんなときはどうする?解雇制限ケーススタディ

解雇制限について、社労士試験で問われる内容は概ねこれまで解説してきた通りです。

しかしながら実務の現場では、教科書通りの知識だけでは対応の難しい、応用的な検討が必要になるケースも少なくありません。

社労士試験対策からは逸れますが、ここからは、解雇制限のケーススタディに取り組みましょう。

解雇制限期間中に懲戒事由に該当

解雇制限期間中の労働者が懲戒事由に該当した時、解雇制限はどのように考えるべきなのでしょうか?

結論としては、解雇制限期限期間中に懲戒事由に該当しても、解雇制限が解除されることはありません。

例えば、労働者が会社のお金を横領した場合、「労働者の責に帰すべき事由」として解雇予告の除外対象とはなり得ますが、解雇制限の除外要件はあくまで「打切補償」「天災事変等による事業の継続不可能」のみです。

よって、懲戒事由に該当することがあっても、あくまで解雇制限期間後の処理となります。

解雇予告期間中に解雇制限に該当

すでに解雇予告をされている労働者が解雇制限に該当した場合、解雇制限期間中に解雇予告期間(30日間)が満了したとしても、解雇制限期間中は解雇することができません。

この場合、解雇制限期間を過ぎたタイミングで解雇できるようになります。

また、「解雇制限期間中に解雇予告をしてはならない」ということまでは制限されていないことも覚えておきましょう。

解雇制限期間と育休の関係は?

解雇制限期間は「産前産後休業中とその後30日」であり、期間の一部は育休と重複する可能性があるものの(「その後30日」の部分)、育休を終えるまで解雇できないというわけではありません。

よって、法定の解雇制限期間を過ぎれば、その後は解雇予告手続きを経て解雇が可能となりますが、女性労働者に対する「妊娠、出産、育休取得」を理由とする解雇は違法となります(男女雇用機会均等法9条)。

まとめ

  • 「業務上の傷病により休業する期間とその後30日間」と「産前産後休業をしている期間とその後30日間」が解雇制限期間であることは、社労士試験対策上おさえておくべきポイントです
  • 「業務上の傷病により休業する期間とその後30日間」について、通勤災害や私傷病による休業の場合は解雇制限の対象外となるため、解雇予告または解雇予告手当の支払いによる解雇が可能です。
  • 社労士試験対策上知っておくべき「例外的に解雇制限の除外となるケース」として、「打切補償を行った場合(もしくは「傷病補償年金が支給されているとき」)」「天災事変等が原因で事業の継続が不可能となった場合」があります
この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

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【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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