社労士の年末調整は税理士法違反!社労士と税理士の業務範囲を考察

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士業の業際問題はあらゆる場面で話題となりますが、とりわけ社労士業界で長年問題視されてきたテーマといえば「年末調整」でしょう。

民間企業においては、給与計算を社労士事務所にアウトソーシングする例は珍しくありません。

ところが、年末調整については、給与計算業務に付随して社労士に任せるべきか、それとも税務関連業務のため税理士に依頼するべきか、判断に迷うケースは多いようです。

目次

年末調整はどちらの仕事?社労士と税理士それぞれの業務範囲

「年末調整は社労士の仕事か、それとも税理士の仕事か」について、結論から申しますと、「税理士」の仕事であると断言できます。

ただし、ひと昔前まではその取扱いが曖昧であり、実際のところ、年末調整業務に携わる社労士の存在も見受けられました。

この点、2016年を境に業務範囲が厳格化し、現在では年末調整が税理士業務であり、社労士の仕事ではないことが明らかにされています。

社労士が年末調整を行うのは税理士違反

年末調整業務については、日本税理士会連合会と全国社会保険労務士会連合会との間で、どちらの職務領域に属するかが話し合われてきました。長年の議論の末、2016年6月にようやく導き出されたのが、下記の着地点です。

‘年末調整に関する事務は、税理士法第2条第1項に規定する業務に該当し、社会保険労務士が当該業務を行うことは税理士法第52条(税理士業務の制限)に違反する’

参考:愛知県社会保険労務士会「税理士の付随業務」

年末調整が税理士業務であると明言された2016年以降、社労士による代行は税理士違反として扱われることになりました。

年末調整が税理士なら、給与計算も税理士?

それでは、給与計算についてはどう考えるべきでしょうか?

実務上、年末調整は、日々の給与データを把握する者が行った方が円滑に進みます。給与計算や賃金台帳作成については、通常、社労士が業務として行う例が目立ちますが、顧客側からしてみれば給与計算と年末調整の依頼先を分ける必要が生じるという煩わしさが付いて回ります。

よって、このような業務効率の観点から言えば、給与計算・年末調整のワンセットで税理士に依頼するのがスムーズと言えます。また、給与計算業務には必ず税務が付随することから、やはり税理士が担うべき業務と捉えることができるかもしれません。

年末調整のできない社労士が給与計算を代行するメリットとは?

ここで一旦視点を変え、社労士が給与計算に携わるメリットに目を向けてみましょう。

給与計算は、日々の勤怠管理と密接に関係します。そして、勤怠の状況を正しく給与計算に反映させることは、健全な労務管理の基本に位置付けられています。雇用関係助成金を支給申請した場合、出勤簿と賃金台帳の整合性が厳しく確認されるのもそのためです。

給与データから未払残業代や長時間労働の有無等の労務課題を抽出し、早期に解決を図ることは、当然のことながら社労士の専門業務であり、税理士が成せる仕事ではありません。

このように、社労士は年末調整に携わることはできないまでも、労務管理の専門家としての立場から給与計算業務を取り扱うことができます。給与計算業務は、税理士と社労士それぞれに応じて、依頼するメリットが異なります。

依頼主は両者を十分に検討した上で、適切な代行先を決定することになるでしょう。

「年末調整」を始めとする、社労士と税理士の業際問題

複数のパズルを持つ手

さて、社労士と税理士の業際問題といえば、年末調整のみに限られません。例えば、労働・社会保険関連の諸手続きや雇用関係助成金申請支援等、意外にも両者のグレーゾーンは多岐に渡ります。現状、社労士事務所や税理士事務所に勤務されている方であれば、実務上慣習的に行っている手続きにも、実は法違反の事例があるかもしれません。

ここでは、社労士と税理士の間で業務領域に問題が生じがちな仕事について、社労士の独占業務を主軸に解説します。社労士にしか取り扱うことのできない業務とは、いわゆる1号・2号業務を指します。

税理士による労働・社会保険関連手続きは違法です

社労士の独占業務の代表格といえば、「労働・社会保険関連手続き」でしょう。具体的には、1号業務として認識される下記の業務です。

  • 労働及び社会保険に関する法令(以下「労働社会保険諸法令」という。)に基づいて申請書等を作成すること
  • 申請書等について、その提出に関する手続を代わってすること
  • 労働社会保険諸法令に基づく申請等について又は当該申請等に係る行政機関等の調査若しくは処分に関し当該行政機関等に対してする主張若しくは陳述について代理すること

参考:e-Gov「社会保険労務士法」

時おり、こうした手続業務に携わってしまう税理士事務所もあるようですが、明らかな社労士法違反です。もっとも、社労士事務所を併設する税理士事務所で、上記の手続き業務を併設の社労士事務所が代行することは認められています。

雇用関係助成金の申請は、税理士と社労士の連携が不可欠

社労士法では、「労働・社会保険諸法令にもとづく助成金の申請書作成及び行政機関への提出」は社労士の独占業務と定められています。もちろん、助成金申請時に不可欠な法定帳簿等の作成もまた、社労士法上の2号業務に該当します。

ただし、近年、雇用関係助成金の多くに設けられている「生産性要件」を満たすかどうかの判断については、社労士単独では難しく、税理士と連携して行う必要があります。

よって、税理士であっても雇用助成金に精通すること、さらに社労士と税理士等が協力して業務遂行にあたることは、助成金申請を成功させるポイントとなるでしょう。

社労士と税理士、それぞれの違いを意識した業務遂行を

このページでは、社労士と税理士の業際問題をテーマに、それぞれの独占業務を解説しました。

このようなテーマでお話をすると、「社労士と税理士は常に互いの業際を意識するあまり、ピリピリとした関係になってしまうのでは」と感じられることもあるでしょう。

しかしながら、業務上、他士業を敵対視するのは得策ではありません。むしろ社労士と税理士が手を携えて顧客支援をしていくことで、顧客はもちろん、社労士・税理士の双方に良い影響がもたらされることは言うまでもありません。

皆さんが今後、どんな士業として活躍しようとも、それぞれ棲み分けをしつつ必要な時に連携できる他士業の存在はかけがえのないものとなるでしょう。

まとめ

  • 年末調整が税理士業務であることは、日本税理士会連合会と全国社会保険労務士連合会との間で2016年6月に確認された事実です
  • 給与計算は法律上、社労士が行っても税理士が行っても良いことになっており、顧客はそれぞれに依頼するメリットを十分に比較検討した上で代行先を決定することになります
  • 労働・社会保険関連諸手続きと雇用関係助成金申請は社労士の独占業務ですが、後者の付随業務である「生産性要件確認」については税理士との連携が必要です
この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

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【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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