労災保険の「特別加入」は社労士試験でどう問われる?

更新日:2021年6月7日

労災保険とは、本来、事業主に雇用されている労働者のための補償です。

しかしながら、労働者以外であっても、業務の実態や災害の発生状況からみて、労働者に準じて保護することがふさわしいとされる場合、一定の要件下で労災保険に特別に加入することができます。

ここでは、労災保険の特別加入について、社労士試験対策上おさえるべきポイントについて解説します。

目次

社労士試験頻出!労災保険「特別加入」の種類

労災保険の「特別加入」は社労士試験でどう問われる?

まずは、労災保険に特別加入できる「対象」と、特別加入の「区分」を整理しましょう。

労災保険に特別加入できる方の範囲は、中小事業主等・一人親方等・特定作業従事者・海外派遣者に大別されます。そしてこれらの範囲は第1種~第3種に区分され、保険料算出には各種別に応じた保険料率が適用されます。

第1種特別加入の対象「中小事業主等」

第1種特別加入では、「中小事業主」及びその者が行う「事業に従事する労働者以外の者(具体的には、家族従事者や役員等)」を対象とします。

第1種特別加入の適用を受けるためには従業員規模要件を満たさなければならず、これは業種ごとに定められています。

業種 従業員規模要件
金融業・保険業・不動産業・小売業 常時50人以下
卸売業・サービス業 常時100人以下
上記以外の事業 常時300人以下

以上の従業員規模に加え、全業種共通の加入条件も満たす必要があります。

✓ 雇用する労働者について労働保険関係が成立していること

✓ 労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していること

✓ 中小事業主を含めて、家族従事者、その他の役員等全員を包括して特別加入を行うこと

第1種特別加入については、「対象」と業種ごとの「従業員規模要件」、「事務組合への委託の必要」についてインプットしておきましょう。

第2種特別加入の対象「一人親方等や特定作業従事者」

第2種特別加入は、常態として労働者を使用せずに対象事業を行う「一人親方その他の自営業者」及びその事業に従事する者「家族従事者」、加えて「特定作業従事者」が対象となります。

一人親方等の対象事業とは、具体的には以下が想定されます。

  • 個人タクシー業者や個人貨物運送業者など
  • 大工、左官、とび職人など
  • 漁船による水産動植物の採捕の事業者
  • 林業の事業者
  • 医薬品の配置販売業者
  • 再生利用の目的となる廃棄物等の収集、運搬、選別、解体等の事業者

加えて、特定作業従事者に該当するための「特定作業」には以下のものがあります。

それぞれの具体的な作業内容について、社労士試験では細かく問われることはありませんが、参考リンクよりご確認いただけますので、一度目を通しておくと良いでしょう。

  • 特定農作業従事者
  • 指定農業機械作業従事者
  • 国または地方公共団体が実施する訓練従事者
  • 家内労働者およびその補助者
  • 労働組合等の常勤役員
  • 介護作業従事者および家事支援従事者

参考:厚生労働省「特別加入制度のしおり(特定作業従事者用)」

第3種特別加入の対象「海外派遣者」

労災保険は、日本国内にある事業場のみに適用される保険制度のため、本来、海外の事業場で就労する労働者は適用対象外となります。

この点、国内事業場から海外に派遣された労働者を対象に、日本国内で適用となる労災保険給付を受けられるように設けられた制度が、第3種特別加入です。

第3種特別加入の対象範囲は以下の通りです。

① 日本国内の事業主(有期事業を除く)から、海外で行われる事業(海外支店、工場、現地法人、海外の提携先企業等)に労働者として派遣される人

② 日本国内の事業主から、以下に該当する海外の中小規模事業に、事業主等(労働者ではない立場)として派遣される人
・金融業、保険業、不動産業、小売業:常時50人以下
・卸売業、サービス業       :常時100人以下
・上記以外の業種         :常時300人以下

③ 独立行政法人国際協力機構など開発途上地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除く)を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われている事業に従事する人

特別加入関連で社労士試験頻出!「給付基礎日額」とは

労災保険の「特別加入」は社労士試験でどう問われる?

社労士試験対策上、労災保険特別加入関連では第1種~第3種の種別と各対象の他、「給付基礎日額」「保険料算定」についても理解を深めておく必要があります。

給付基礎日額とは、一般労働者の平均賃金に相当する額であり、保険料や、休業(補償)等給付などの給付額を算定する基礎となります。給付基礎日額は、特別加入者の申請に基づき、労働局長が決定します。

給付基礎日額を分かりやすく解説

特別加入者の給付基礎日額は、年間の収入を基準に算定します。例えば、一人親方で年収365万円の場合、1日あたりの平均的な収入額は10,000円となり、この10,000円を給付基礎日額とするのが通常です。

ただし実際には、加入者自身が民間保険加入状況等も踏まえ、給付基礎日額3,500円から25,000円(16段階)から選択することになります。

給付基礎日額は保険料算定基礎に

労災保険の特別加入の年間保険料は、「給付基礎日額×365」から算出される保険料算定基礎額に、それぞれの事業に定められた保険料率を乗じて算出します。

第1種特別加入保険料率は当該事業に適用される労災保険率と同一の率、第2種特別加入保険料率は事業の種類によって異なる所定率、第3種特別加入保険料率は3/1000(2021年度)となっています。

参考:厚生労働省「特別加入保険料率表(令和3年度~)」

給付基礎日額を基準とした補償内容、一般労働者との違い

特別加入者に対する保険給付および特別支給金については、一般の労働者とほぼ同様です。

ただし、社労士試験対策上、以下の点で通常の労災保険とは給付内容が異なる点を把握しておく必要があります。

  • 特別加入者には、特別支給金のうち、ボーナス特別支給金は支給されない
  • 療養給付(通勤災害)の一部負担金がない
  • 二次健康診断等給付は行われない
  • 事故が、中小事業主等の故意又は重過失に依り起こった事故、もしくは特別加入保険料を滞納中の事故については、保険給付の全部又は一部を行わない
  • 休業(補償)給付は「賃金喪失」を要件とせず、「全部労働不能」を支給事由とする
  • 一人親方等の特別加入の場合、通勤災害に係る給付が行われない業種がある
    ※具体的には、個人タクシー業者・個人貨物運送業者、漁船による自営漁業者、特定農作業従事者、指定農業機械作業従事者、家内労働者等、通勤の範囲が不明確な場合

まとめ

  • 労災保険は本来、労働者が加入できる保険制度ですが、一定の要件を満たす場合は特別加入が認められます
  • 労災保険の特別加入には、第1種~第3種までの種別があり、社労士試験対策上、各種別の加入対象や要件をおさえる必要があります
  • 社労士試験で狙われる労災保険特別加入関連の出題として、特別加入できる「対象」の他、「給付基礎日額」と「保険料算定」も頻出です
  • 特別加入者に対する保険給付および特別支給金の取扱いは一般の労働者とほぼ同様ですが、一部異なる点について、社労士試験対策上、正しく理解しておくのが得策です
この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

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【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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