簿記講座の講師ブログ

幼保無償化はよりよいやり方?

幼保無償化

皆さん、こんにちは!
簿記講座担当の小野です。
別れと出会いの季節。悲しかったり、楽しかったり。

2019年10月、
消費税増税と同時に幼稚園と保育所の保育料が無償化されます(幼保無償化)。
無償化と聞くと、いいね! と思ってしまいますが、
幼保無償化で何がどのように変わるのでしょうか? 
私たちにとって本当によい制度なのでしょうか? 
こんな疑問がわいてきます。

幼稚園・保育園の立場から見ると、
無償化によって教育現場の問題が解決されるわけではなく、
変わるのは幼稚園・保育園へのお金の流れだけです。
幼稚園・保育園へ流入するお金の総額が増えるわけではありません。
ですから、教育現場からみた問題は何一つ改善されず、
問題がより大きくなるだけかもしれないのです。

幼稚園・保育園の先生の労働時間はとても長く、
一方で、給料はとても低い水準という問題はよく言われますね。
全産業の平均年収が400~500万円である一方、
幼稚園・保育園の先生は300~400万円です。
また、先生方の激務ぶりはもう周知の通り。
先生という職業はブラックという言い方すらされています。
その証拠か、幼稚園教諭・保育士の資格を持つ人の多くがこの職業から離れていますね。

無償化は、親が幼稚園・保育園へ支払っていた部分を、
国・自治体が代わりに支払う制度です。
幼稚園・保育園へ入ってくるお金が増えるわけではありません。
無償化が始まると、親の負担がありませんから、
今まで幼稚園・保育園へ通っていなかった子ども達が、
幼稚園・保育園へ押し寄せる可能性が高くなります。
現在の1人当たりの保育料の水準が変わることなく園児が増えると、
長時間労働という問題がさらに悪化するだけで、
教育水準がかなり下がりかねないわけです。

そもそも、なぜ、先生方の給料が低いんでしょうか?
それは、国・自治体が幼稚園・保育園へ投入する金額は世界の中でも少ないのに、
一方で保育料を国・自治体が決めてしまい、
幼稚園・保育園自体が収入をコントロールできないから。
ユネスコ調査によると、日本の教育投資額(GDP比)、
つまり日本が国としてどれだけ教育にお金をかけているか、
というところは世界154カ国中114位なんです。
また、日本では、公費投入などと言いますが、国際的には教育“投資”と言います。
この言い方の違いこそ、問題の本質といえるかもしれません。
つまり、日本は教育費を投資と考えていないということですね。 

国家から見ると、教育とは、
将来新たな製品・サービスを生み出して世の中をより豊かにしてくる人を育て、
かつ、納税してくれる人を育てる“投資”と位置づけるべきです。
簿記を学習した方なら、企業がお金を使ったとき(貸方現金)、
借方に来るのは、資産か費用であることをご存じのはずです。
資産なら、財産として貸借対照表に残り続けますが、
費用なら、消費されてなくなったものとして損益計算書に計上されて終わりです。
悲しいかな、日本では公費(費用)と言われてしまっているわけですね。

企業であれ国家であれ、経営学の教科書では、経営資源はヒト、モノ、カネですね。
日本は将来の製品・サービス・税収を生み出してくれる
子どもへの支出を費用として扱い、
しかも、その金額は世界的に見てかなり少ない状況にしたままなんです。
言ってみれば、今の日本は、教育について、
「お金は出さないけど、先生も子どもたちも頑張ってね!」
という悲しい状況になっているわけです。
最近の子ども達の学力が下がったといいますが、
投資水準が低い(そもそも投資していませんが…)のに、
リターンが伸びる(学力が向上する)わけないんです。

ただ、嘆いてばかりはいられません。解決の鍵を探さなければなりません。
実はそのカギが幼保教育にあると思われます。
人の能力アップには、
幼少期の教育が最も効果的であるという研究結果が出ているのですから、
幼稚園・保育園に流れるお金の総額=教育投資額を純増させることが有望な解決策です。
消費税2%アップで5兆円の増収となり、そのうち1.7兆円が幼保無償化に使われます。
例えば、1.7兆円全額を幼稚園・保育園に投資しながら、
一定の所得がある人には今までどおり保育料を払い続けてもらって、
幼稚園・保育園の収入が純増するような使い方をした方が
よっぽどいい結果が出ると思います。
幼稚園・保育所に入ってくるお金が多くなることで先生方に余裕ができれば、
教育水準が上がり、その後の小・中・高の教育効果をさらに高められるわけです。

簿記を学んだ私たちは、こういった視点で政府の政策を評価したいところですね。