ワシントン条約(CITES)とは?

ワシントン条約(CITES)とは?
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ワシントン条約とは

ワシントン条約とは、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約です。英文表記は、Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Floraです。単語の頭文字をとってCITES(サイテス)とも呼ばれています。

自然のかけがえのない一部をなす野生動植物の一定の種が過度に国際取引に利用されることのないようこれらの種を保護することを目的としています。

先進国及び発展途上国の多くが加盟しており、2019年11月現在で183ヵ国・地域が締約国になっています。

この条約は乱獲などにより絶滅のおそれがあり、保護が必要と考えられる野生動植物を附属書Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの3つの分類に区分し、それぞれの必要性に応じて国際取引の規制をしています。

附属書のリストにある動物植物の絶滅危機レベルはI > II > III となっており、Iが最も危機的状況にあり、国際取引の規制が厳しいです。

附属書Ⅰ 附属書Ⅱ 附属書Ⅲ
基準 絶滅のおそれのある種で取引による影響を受けている又は受けるおそれのあるもの 現在は必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を規制しなければ絶滅のおそれのあるもの 締約国が自国内の保護のため、他の締約国・地域の協力を必要とするもの
規制内容 商業目的の取引は原則禁止。例外的に学術研究を目的とした取引などは可能輸出国・輸入国双方で許可書が必要 商業目的の取引可能

輸出国政府の発行する輸出許可書等が必要

商業目的の取引可能

輸出国政府の発行する輸出許可書又は原産地証明書等が必要

対象種(例) オランウータン、スローロリス、ゴリラ、アジアアロワナ、ジャイアントパンダ、木香、ガビアルモドキ、ウミガメ、インドホシガメ、コツメカワウソなど クマ、タカ、オウム、ライオン、ピラルク、サンゴ、サボテン、ラン、トウダイグサなど セイウチ(カナダ)、ワニガメ(米国)、タイリクイタチ(インド)、サンゴ(中国)など

出典:経済産業省ホームページ

たとえば、近年その愛くるしさから日本でも人気になっているコツメカワウソもワシントン条約のリストに入っています。

コツメカワウソは2019年夏の締約国会議にて附属書IIからより規制の厳しい附属書Iへの移行が決定しました。つまり、コツメカワウソは絶滅のおそれが増しているとみなされ、国際商取引が禁止されてしまったのです。

その裏で転売を目的としたコツメカワウソ密輸の事件も発生しておりニュースになっています。

リストだけをみると生きている動植物を思い描いてしまいそうですが、毛皮や皮革製品、漢方薬も規制の対象です。たとえば、ワニ革のハンドバッグやヘビ革の楽器、植物のランやアロエを含む化粧品を知らずに輸入しようものならば、税関による輸入差止めを受けてしまいます。

輸出入の制限

日本国内では外為(がいため)法こと外国為替及び外国貿易法、輸出貿易管理令・輸入貿易管理令の法令により、ワシントン条約に該当する動植物の輸出入が制限されています。

種や取引の目的などによっては輸出入自体ができませんが、輸出輸入が可能な場合には通常の通関にプラスして手続きが必要になります。どのような手続きか?触れていきます。

◇輸出

ワシントン条約で規制する動植物などを輸出しようとするものは、事前に経済産業大臣から「輸出承認証」と「CITES輸出許可書」の発給を受けます。日本におけるワシントン条約管理当局が経済産業省です。

「ワシントン条約附属書IまたはIIに掲げる動植物」(輸出貿易管理令別表第2の36項)の輸出者は、経済産業大臣による外為法上の輸出承認を受ける必要があります。附属書IIIに掲げるものは、輸出の承認は不要ですが、CITES輸出許可書は必要です。

輸出承認証とCITES輸出許可書の発給後は、CITES輸出許可書にB/L no.またはWaybillの番号を記載します。その後輸出申告の際に輸出承認証とCITES輸出許可書を提示し、税関記入欄に記載をもらいます。

国際郵便を利用する場合にもこれらの手続きが必要になります。仮に貨物が20万円以下のため税関への輸出申告が不要とされる場合であっても、外為法に基づく証明と確認を受けなければなりません。

◇輸入

ワシントン条約で規制する動植物などの輸入者は、事前手続きが必要です。

  • 貨物が輸出国を出る前に輸出国が発行する「CIES輸出許可書等」
  • 附属書I → 経済産業大臣による「輸入承認証」
  • 附属書II、III 生きている動物 → 経済産業大臣による「事前確認書」

の発給を受けます。

「輸入承認」および「事前確認」は税関に対する輸入申告前に申請手続きを行います。

動植物の原産は附属書に掲載されている国・地域か?ワシントン条約のどの附属書I or II or III に該当する動植物か? によって手続きが変わります。

輸入承認 or 事前確認 or 通関時確認 のうちいずれかの手続きが必要になります。事前確認と通関時確認の違いは、前者は経済産業省に対して事前に申請手続きをする必要がある一方で、後者はそれが不要です。

ワシントン条約に該当する動植物を輸出入する場合には、税関に対する通関手続きだけでなく、経済産業省に対するプラスαの手続きが発生します。

なおワシントン条約に該当するか否か、国際取引の可否、どのような手続きが必要になるかについての判断は、個別のケースで異なってきますので経済産業省のホームページなどでご確認ください。


突然ですが、私が通関業者にいて引越し貨物の輸出手続きをお手伝いしたときのおはなしです。

ケースの中に細かい日用雑貨などが詰められ施錠されている貨物でした。一点一点事細かに記されたインボイス(仕入書)をもとに輸出申告がされましたが、税関より担当通関士に問い合わせがありました。インボイスに記載された「アロエクリーム」はワシントン条約に該当する貨物ではないか、というものです。

確かにアロエクリームの記載はありますが、事細かに書かれているもののうちのひとつ、インボイス価格もたった数百円です。

一度税関に申告してしまっているので、ケースを開けてアロエクリームだけを取り出し書類を差し替えることは困難。ましてや船積みの日まであと2日、翌日中には輸出許可にしなければなりません。貨物取扱届を出して開梱包して…色々な手続きをしている時間はありません。

たった数百円のクリームがアロエを用いた製品であったがために荷主と税関・通関士との板挟みに苦しんだ事例でした。

アロエを含む化粧品や食品はよく目にします。しかし、アロエ属全種(Aloe spp.)はワシントン条約附属書IIに掲載されているので、輸出する場合は経済産業大臣の承認が必要です。アロエの品種によっては附属書Iに該当し、より規制の厳しいものになることもあります。反対にアロエベラであれば規制対象外なのでセーフです。

なお知らずに輸出入してしまうと外為法違反になってしまい、罰金刑や懲役刑が科されるおそれがあります。

もしトラブルに見舞われたときは、

  • 個人特例(=申請不要)に該当しないか?確認
  • 日本に貨物を輸入する場合、輸出国が発給するCITES輸出許可書の有無を確認します。

CITES輸出許可書がなければ、次のいずれかを選択することになります。

  • 貨物をいったん輸出国に返送し、必要書類を取得してから再度輸入する。
  • 輸入をキャンセルして貨物を返送する。
  • 貨物を放棄する。

普段扱わないような貨物であればなおさら、ワシントン条約に限らず他法令など問題がないか?事前に入念に確認しておく必要があります。

ワシントン条約の規制対象品かどうかの調べ方

では、どのように調べたらよいのか?経済産業省のホームページをチェックしましょう。簡単に手順をまとめます。

  1. ワシントン条約の附属書は学術名(ラテン語の国際共通名称)で記されていますので、まずは学術名を特定します。
  2. 動物・植物で分かれたPDFリストをチェックします。ページ内でワード検索を行えばすぐにワシントン条約に該当するか否か、3つあるうちのどの附属書に該当するのか、がわかります。
    なお該当がなければワシントン条約に係る手続きは不要であるということです。インボイス書類には該当しない旨がわかるように学術名など具体的内容を記載しておきます。

ところで2016年度通関士試験の輸入申告書問題において、Frozen Peeled Head-Less Shrimp (Not Prepared, For Sushineta) (Pandalus spp.)冷凍のむきエビ(ヘッドレス)調製していない、すしネタ用 パンダルス属のものという品物がありました。

品目分類を行うにあたり、Pandalus spp.(パンダルス属)のワードがミスリードを引き起こすと通関士試験学習者の間で話題になることがあります。

今思えばワシントン条約などの対象外であることが分かるようにインボイスに生き物の学術名が記されたのかもしれません。

附属書のなかには水産物も入っていますし、附属書の解釈のなかに “略号「spp.」は、種よりも大きな分類群に属するすべての種を示すために用いる“ とあるように「spp.」が附属書の名称におけるキーワードであることからも、インボイスの品名にPandalus spp.の表記があった意味があるのかなと思います。

なお外為法には経済産業大臣の承認を要しないケースがあります。個人特例です。

  • 旅行者の携帯品
  • 旅行者の職業用具 例)演奏家の楽器
  • 引越し荷物
  • 旅行のおみやげ

個人がワシントン条約に該当するものを私用に供するため携帯等して日本から持ち出し又は日本への持ち込みをする際に、条件を満たしていれば外為法に基づく経済産業大臣の承認やCITES輸出許可書等の取得は不要になります。

さて、ここで問題です。2016年度 通関士試験より、

一時的に入国して出国する者が本邦において購入した「象牙」製品を「携帯」して輸出する場合には、経済産業大臣の輸出の承認を要しない。

〇か×か?

象牙はワシントン条約に該当する物品です。一見個人特例で輸出承認を要しないと考えてしまいそうですが、象牙製品は個人特例の対象外ですので、要承認となっています。

経済産業省のワシントン条約に関するページをみてみると、「特に象牙製品については注意してください(中略)象牙製品は輸出入禁止です」ととりわけ強調されており、象牙の写真の上部に大きくバツ印が記されています。

まとめ

動植物の輸出入を行うときには、取引前にワシントン条約に該当しないか?よく確認しておくことが大事です。ワシントン条約該当物品の場合、輸出国および輸入国において別途手続きが発生してしまいます。

そもそも輸出入NGな貨物だったり、手続きに不備があったりすると、輸出入が滞ってしまったり、外為法違反により罰則を受けてしまったりする可能性があります。

海外旅行時のおみやげについてもいえますが、「動植物→絶滅のおそれ?→ワシントン条約に該当するかも…」との思考に結び付けられるようになるとワシントン条約絡みのトラブルが回避できるのかなと思います。

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