簿記講座の講師ブログ

繰り返される誤解:内部留保でお給料は払えません!

 皆さん、こんにちは。 
簿記講座担当の小野です。
暖かくなったり、寒くなったり。絶対に体調は崩さないように!

 また誤解に基づく主張です。いろんなところで「企業はこのピンチで従業員を解雇せず、内部留保でお給料を払うべきだ!」という主張をしています。リーマン・ショックの時も、東日本大震災の時も「企業がため込んでいる内部留保で雇用を創り出す」と主張する人がいました。

 昨年末までは、多くの企業が過去最高益を更新していました。それに対して株主への配当はあまり増えていませんから、もうけをため込む形になっています。そんなため込んだお金で、雇用が維持されれば国民生活にとっていいことでしょうし、さらに設備投資が行われれば設備を販売している企業の売上が増え、その企業の従業員の給料が増え・・・と回っていくことでしょうから、国民生活にとっていいことのように聞こえます。

簿記の勉強をされている方々にとっては当たり前のようにわかることですが、そんなことは起こりません。内部留保でお給料を払うことはできないのです。
だって、内部留保(繰越利益剰余金勘定がプラス)だからといって現金を持っているわけではありませんから。

 例えば、100万円のサービスを提供して、その代金を現金で受け取ったとしましょう。
 (借)現   金 100万円 (貸)売   上 100万円

 この現金で来年使う予定の設備100万円(耐用年数5年)を購入しました。
 (借)設   備 100万円 (貸)現   金 100万円
    減価償却費  20万円    設   備  20万円

 他の経費がないとすれば、利益は80万円です。
 (借)売   上 100万円  (貸)損   益   100万円
    損   益  20万円     減価償却費    20万円
    損   益  80万円     繰越利益剰余金  80万円

 1つ目の仕訳で分かる通り、利益のもととなる活動(売上)から現金が入ってきます。
しかし、その現金は次の活動のために使われています。ここでは設備投資としましたが、次に販売する商品の仕入代金に充てているかもしれませんし、すでに従業員へ給料として払っているかもしれません。
利益は過去1年間でどのくらいプラスを生み出し方を表しますから、この企業の利益は80万円です。
しかし、次の活動のために現金をつぎ込んでいますので、手元に現金は残っていません。手元にあるのは設備です。

 このように利益計算と収支計算は違います。
私たち労働者は給料という名目で現金をもらっているわけです。
ですから企業に現金が残っていなければ、従業員にお給料を払うことはできないわけです。
だから、多くの企業が危機になると資金繰りに困るといって、緊急融資などが行われるわけですね。お金を借りると借入金。負債です。お金を借りても利益計算(内部留保)には関係ありません。

 毎回危機になると出される主張ですが、きちんとこの区別をして政策に生かしてほしいと思います。